ファクト ~真実~

華ノ月

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特別編 雨に打たれた鳥たちは光を目指す

11.

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 裁判所の中にある一室の部屋の前まで来て、奏がそう声を発する。


 ――――コンコンコン……。


 透が代表して、その部屋の扉をノックする。

「はい?」

 部屋の中から一人の男が顔を出す。

「警察の者です。こちら、笹原さんが所属していた部屋で間違いないでしょうか?」

 透が丁寧な口調でそう話す。

「あ……はい、そうです……」

 男がそう答える。

 そして、奏たちを部屋に通すと部屋の中にあるソファーに「こちらへどうぞ」と言って促す。

「ありがとうございます」

 奏がお礼を言って透と一緒にソファーに座る。紅蓮と槙はその近くで立ちながら話を聞くことになった。

「……まさか、笹原さんが殺されるなんてね……。驚きですよ、本当に……。笹原さんはこのチームの裁判長でしたからね。今は私が代わりに裁判長を務めていますが、てんやわんやです」

 その部屋では坂田さかたと名乗る人物が今は裁判長を仮として行っているらしく、笹原が亡くなった事を沈痛な表情で話す。

「笹原さんを殺害した犯人に心当たりはないですか?」

 透が手帳を広げながらそう尋ねる。

「う~ん……、特には……。時には裁判官と言うのは逆恨みされることもありますからね。こちらとしてはきちんと審議したうえで判決を出すのですが、それは違うだろーっていう感じで抗議するために乗り込んで来る人もいますよ?なので、今までの裁判が納得いかなかった人も中にはいるかもしれませんし……」

 坂田がため息を吐きながらそう言葉を綴る。

「大変なお仕事ですからね……。その判決によってその人の運命が変わるわけですから……」

「そうですね……。時に辛い仕事でもありますよ……。私たちの判決によって人生を狂わされる人もいるわけですからね……」

 奏の言葉に同意するように、坂田が辛そうな顔をしながらそう言葉を綴る。

「ちなみにですが、笹原さんは暴言を口にされることはありましたか?」

「暴言……ですか?」

 透の言葉に坂田が怪訝な顔をする。

「はい。いつかのお花見の時に私が聞いたのですが、原発事故に関して酷い事を言っていたので……」

 奏がその時に笹原が何を言ったのかは話さずに、そう言葉を綴る。

「あぁ………。もしかして、あの花見の時ですかね?あの時は笹原さん、かなり精神的に参っていたんですよ。そこへお酒が入ったから余計に気が大きくなってあんな言葉を吐いたかもしれません。まぁ、その原発事故に関しては色々あって笹原さんも参っていましたからね……」

「色々?」

 坂田の言葉に何処か引っ掛かりを感じたのか、奏がその言葉を繰り返す。

「えぇ……まぁ……ちょっとね……」

 坂田が言葉を濁す。

「……皆さん、仲が良いのですね」

 奏がこれ以上は話さないと思ったのか、話題を変えるために壁にかかっている写真を見てそう言葉を発する。

「えぇ。これは去年の忘年会の時の写真ですよ」

 坂田が笑顔を見せながらそう言葉を綴る。

「……あれ?この人は今日はお休みですか?」

 奏が部屋にいない人物が一人いることに気付いてそう口を開く。

「あぁ、もしかして下田の事ですか?彼ならしばらく休暇を取ると言っていましたよ?笹原さんが殺されたことがよっぽどショックだったのかもしれませんね……。傷を癒しに旅行にでも行きますって言っていました。彼は優秀な裁判官です。ゆくゆくは裁判長にもなれるぐらいの人材ですよ」

 坂田が嬉しそうにそう言葉を綴る。

「そうなんですね……」

 奏がその写真を見に行って下田をまじまじと見る。それに釣られて透たちもその写真を見に行く。

「……磯口?」

「……え?」

 槙が呟いた言葉に奏が反応する。

「間違いない……。磯口だ……」

 槙がそう声を発する。

「どいつだ?!」

 紅蓮が槙に食い掛るように声を出す。

「こいつだ」

 槙が写真に写っている下田を指差す。

「……どういうことだ?」

 透が下田の苗字が違う事に疑問の声を出す。

「すみません!下田さんが何処に旅行に行ったのかはご存じないですか?!」

 奏が坂田に早口でそう問いかける。

「いや……そこまでは……」

 坂田が圧倒されながらそう答える。

「彼の住所を教えてください」

 透がそう口を開く

 そして、下田の住所を聞くとその部屋を出る。

 裁判所を出て車に乗り込もうとした時だった。

「あの……!!」

 先程の部屋にいた裁判官と思われる一人の男が小走りで奏たちに近寄ってくる。

「すみません、呼び止めてしまって……。その……」

 男がそこまで言って口を噤む。

「どうしましたか?」

 透がそう口を開く。

「その……例の原発事故の裁判なんですが、あの事に笹原さんはかなり参っていました……。その裁判は必ず不起訴にしなくてはならなかったので……」

「……必ず不起訴に?どういうことですか?」

 男の言葉に奏が疑問を持ち、そう問いかける。

「その事案に関してはかなり上の方から圧力が掛かっているんです……。絶対認めるなって言われているんですよ……」

 男が悲痛な表情をしながらそう言葉を綴る。

「成程……。だから坂田さんも言葉を濁したのですね?」

「はい……」

 透の言葉に男がそう返事をする。

「実はその件で笹原さんは上から酷い言葉を言われたのです。その言葉が……」

 男がそう言ってその言葉を奏たちに伝える。

 その言葉に奏たちは愕然となる。

「……なので、笹原さんの口からあの言葉が出たんですね?」

「はい……。恐らくそうだと思います……」

 透の言葉に男が項垂れながら答える。

 そして、男が笹原の心の中の本当の気持ちを話す。

「……じゃあ、笹原さんはかなりそれで精神的にも追い詰められていたんですね……」

 奏が笹原の胸の内を聞いて悲しそうに目を伏せながらそう言葉を綴る。

「僕としては何としてでもその原発事故で苦しんでいる人を救いたいのですが、こればっかりはどうしようもなくて……。なんで、従わなきゃいけないんだって思います……」

 苦しい顔をしながら男がそう言葉を綴る。

「そうですね……。苦しんでいる人も沢山いるのに、その事を認めないのはおかしいですよね……」

 奏が悲しそうな顔でそう言葉を綴る。

「すみません……。こんな事をあなた方に話しても困りますよね……。でも、誰かに聞いて貰いたくて……。苦しむ人を助けるために裁判官になったのに、なんで救えないんだろうって……。正直、裁判官を辞めようかなって思っています……」

 男が辛そうな顔でそう言葉を綴る。

「それは俺たちでは何とも答えることはできません……。ですが、あなたのような方は裁判官には必要なのではないでしょうか?人の為にも……世の中の為にも……」

 透がそう言葉を綴る。

 その言葉に男は何も答えない。きっと心の中で大きな葛藤が渦巻いているのだろう。

「じゃあ、これで俺たちは失礼します」

 透がそう言って、車のエンジンを掛けるとその場を去って行った。



「ここも懐かしいな……」


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