【第2部完結】悪役王女の跡継ぎはバッドエンドですか?

結月てでぃ

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能力者編

6.第二の兄貴分

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  何者かがついてきているな、とエディスは感じた。

 先程、市場で直属の部下と買い食いをしていた辺りから、どうにも視線が自分たちを追っている。どうしたものかとエディスは思いながら腕を組んだ。

 標的が自分ならばいい。革命軍と名乗っている奴らの首魁をしているドゥルースに直々敵対宣言をしたのだから。
 単独行動中であれば、適当なそこらの路地に引っ掴んで行って目的かを訊ねて処理してしまえばいい。

 だが、それを部下の前でするのか? と問われると、違うという気もする。
 そもそも革命軍と謳ってはいるが、軍というよりはエディス自身とその私兵団になった元反軍に恨みがあるのだ。これでは部下を巻き添えにした駄目上官になってしまう。

「おい、なんだ」

 だが、聡い部下から訊ねられたことで心臓が小さく跳ねる。

「なんでもねえけど……」

 白々しく答えると、部下は眉をきゅっと寄せて口を少し尖らせた。

 遠地に魔物退治に行く途中で馬車が壊れた為、急きょ修理が終わるまで休みを取ることになってしまった。仕方なく宿で休んでいたら、部下たちが宿のパントリーを全て食い尽くしてしまい、食いっぱぐれたエディスの護衛よろしくついてきてくれたのだ。

 二人とも最初期から部隊にいてくれている。
 一人はミシアの部隊にいた時から一緒に研鑽を積んできた青年――アイザック・フィグドバルド。

 もう一人は最近よく出会う気がしているレウ・バスターグロス。
 薄い金の髪に緑の目で下級貴族の三男坊らしいが、なんとなくこちらには嫌われているような気がしている。
 態度がツンケンしているからで、アイザックによると誰にでもそうらしいが特に当たりが強いように感じられるのだ。上官だというのに、敬語の一つもない。

「エディス中尉、言ってくれないと僕だってどうすればいいのか分からないですよ~」

「なんでもなくはねえだろ。追っかけてきてんのどこの奴だ」

「えぇ……そうか」

 エディスはそれもそうかと思い直し、ふむと顎に手を当てる。

「お前ら、少しここで待ってろ」

「え? はい、分かりました!」

 いつまでも待ってますとアイザックが敬礼をして忠犬よろしく姿勢を正すが、その頭を「馬鹿か」とレウが殴った。

「馬鹿みたいに目立つんだから一人で出歩くんじゃねえ!」

 腕を引っ張られたエディスが前につんのめる。引っ張っても振りほどけないことを悟ると、なんだよと睨む。

「すぐに戻るぞ」

「短時間ならいいとか言ってねえだろ」

 ついていくと譲らない部下に、エディスは呆れて額を手で押さえる。失礼しますね~と言うアイザックに髪を結ばれ、被っていた帽子の中に入れ込まれる。
 防御魔法を起動させたレウに「どこに行きたいんだ」と睨まれた。自分たちの周りに白い靄のようなものがかかったのを見て取ったエディスは、レウの腕を取って歩いていく。

「あっ、レウばっかズルい!」

「ズルってなんだ」

 アンタもくっつくなと言おうとしてエディスを見下ろしたレウだったが、あることに気が付くと目を大きく見開いて体を硬くさせた。

「おい……なんだそれは」

 指摘され、無垢そうな顔をして彼を見上げる。その手には小刀が握られている。それに小首を傾げたエディスは、「解体用に使うやつだけど」と鞘にしまって袖に隠す。

「なんでそんなの出してんだって訊いてんだよ」

「抵抗された時のためだ」

 この仕事の後だったんだけどなあと苦々しく息を落として首を掻くエディスの手を掴んで、自分の胸元に引き寄せた。抗することなく彼の胸に手を当てて懐に入り込み、つま先立ちになったエディスはレウの顔を見返す。

「あのなあっ、」

「お前ら連れてんだし、安全くらい確保するだろうよ」

 長い睫を揺らして瞬きをするエディスに、レウは「虫も殺さないみたいな顔してるくせに」と吐き捨てた。

「おい、顔は関係ねえだろ」

 むうと眉を寄せて口を尖らせるが、腕も細いと付け加える。それを聞いたアイザックが明るい笑い声を立てた。

「いいから、俺とアイザックに任せろ」

「アイツらが用あんの俺だけだぞ」

 背中を通して回された手に肩を抱かれたエディスは「革命軍だと思うんだけど」と身じろぐ。すると、アイザックがえーっ! と大声を出す。

「でもでも、俺心配ですよお!」

「上官守らねえ部下がどこにいんだよ、馬鹿言うな」

 いいからソレ仕舞えと指差されたエディスは分かったよと小刀を鞄に入れる。それから、肩を抱いて自分の体に引っ付かせてくるレウに「そんな警戒しなくても急に暴れたりしねえって」と眉を下げた。

「レウ~~っ、くっつきすぎだよ!」

 二人の周りをきゃんきゃん騒ぐアイザックに「うるせえ」と言い放ち、視線を感じる方に真っ直ぐ向かっていく。エディスはそんな堂々とと頭が痛くなる思いだったが、この二人なら戦力として十分すぎるだろうと目を閉じる。

「そこの。なんの用だ」

 壁に手を掛けたレウが見下ろしながらそう言うと、男たちは顔を歪める。その服装はとても高価な物とは言い切れない。ボロをまとってスラム街から出てきたのだろうと推測することができた。

「おい、だんまりじゃ分かんねえよ?」

 これは革命軍ではなさそうだと思ったエディスは、男たちの前にどっかりと腰かける。狭い路地の奥にある小さな空間は汚れている。目をやるのも耐えられない者もいるだろう。現に、レウは辺りに目を移した時に顔を顰めていた。

 綺麗な恰好をしているエディスの乱暴な物言いや、躊躇いのない座り方に男たちはぎょっと目を見開いた。胡坐を掻いて膝の上に頬杖をついて背を丸める粗暴さと顔のちぐはぐさに誰ひとりとして声を出すことを忘れてしまう。

「おーい? 腹減ってんだから早く答えてくれよ」

「はっ? あ、あー……あ?」

 再度エディスに促されて、ようやく男たちは気を取り戻したように声を出す。

「誘拐ってところか?」

「そう――だけどよ」

 エディスを見て男たちは大きく息を吐く。お金持ちのお坊ちゃんが子どもだけで歩いていると思ったのに、といったところだろうか。

「だけど?」

 首を傾げるエディスを見て頭を抱える。気の毒に思ったエディスは肩を叩いてやり、自分を指差して名乗った。

「……なんかよく分かんねえけど、もう追ってくるなよ。なんか困ってることあんなら軍まで来い。聞くくらいならしてやれっから」

「軍とか行くかよ」

「誘拐するよかマシだろ。腕に覚えあんなら入隊しろよ」

 勿体ねえと言うと、男たちはとうとう顔を見合わせた。変な奴に関わってしまったという顔で見られ、眉を寄せる。

「じゃあ、俺行くわ」

 時計で十分も経ってしまったのを確かめたエディスは立ち上がり、尻についた土ぼこりを払った。

 その場から立ち去ろうとしたエディスが背を向けた時、「わっ、ごめんなさい!」後ろからアイザックの声が聞こえてきた。なんだ? と斜め後ろを見ると、そこには新しい男が無愛想に突っ立っている。

 怪訝な顔をしつつ「連れが悪ィな」と謝ったエディスを見下ろしていた男の顔が驚きに包まれていく。

「エディス……?」

 エディスは僅かに眉を寄せ、注意深く男を見た。全体の雰囲気や顔の造形をしげしげと見た後で、あっと大きな声を上げる。

「まさか、リーダー!?」

 思わず指差して言うと、男はそうだと苦笑した。エディスは満面の笑みを浮かべて抱き着いた。

「マジかよ、リーダー久しぶり!!」

「おー。お前、やっぱりエディスか!?」

「そーだよ!」

 ぎゅうぎゅうと抱きしめ合う。そんな二人を茫然と口を開けて見ていたレウたちが口を開いた。

「お、おい……?」

 戸惑っている男たちのどもった声に、エディスたちは我に返る。

「ああ、コイツは俺の一番最初の部下っつーか、弟みてえな奴だ」

 だが、引っ付けあった体を離すことはしなかった。ぴったり抱きしめ合ったまま、「そうだよな」「うんっ」などと仲睦まじい様子を見せてくれる。

「ところで、エディス。お前今どこにいるんだ」

「え? ああ、軍にいる」

「軍!?」

「うん。って、あ! ごめん、そろそろホントに戻らねえと」

 ぼさっとしてたら他の部下が迎えに来てしまうことが予測できた。なにしろ、エディスがいてようやく戦力を補える程度の人数しか一緒に来ていないのだから。

「あ、っと」

 だが、もう一つ近づいてきているものがあった。エディスはすっと目を閉じ、左手を前にやる。雄たけびを上げて獅子に似た魔物が屋根から飛び降りてきた時、目を開けた。

【雷獣よ 食い千切れ】

 左手のひらから雷をまとった黄金の狐がとび出していき、獅子を一辺残さず食い尽くしていく。その様子を見ていた男たちは、獅子のいた所とエディスとを交互に見た。

「エディス……お前」

 掠れた声を出すリーダーを、エディスは苦笑したまま振り返る。

「リーダーと話したいこと、いっぱいあったんだけど」

 無理かな、と呟いて横を通り過ぎる。それを俯いて許したリーダーは、エディスが他の魔物がいる方向を捜している内に振り向いた。

「エディス!!」

 大声で呼びかけられたエディスは、ビクリと肩を揺らしてリーダーを見る。

「俺、今ここに張ってるから、いつでも来いよ!」

「え……いいのか?」

 躊躇うエディスを見たリーダーは、よそよそしさを吹き飛ばすかのように、大きな大きな声で当たり前だろ!! と叫んだ。

「俺ら、家族だろ」

「あ……う、うん」

 小さく頷いたエディスに、リーダーは満足そうに微笑む。

「いつでも待ってるぜ」

 その笑顔と言葉にエディスも、目を細めて花がほころぶような笑顔を浮かべた。
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