キミと羊毛フェルト、そしてぬい活。

立坂雪花

文字の大きさ
上 下
8 / 8

8*陽向視点 ぬい活の思い出

しおりを挟む
 俺と叶人が恋人になってから、時間はあっという間に過ぎていった。

 春が来て、俺たちは三年生になった。

 クラス替えをして叶人と同じクラスになれたから、同じ教室で過ごせている日々。もちろん羊毛フェルトも変わらず一緒にやっている。

「陽向くんと同じクラスになれて、嬉しすぎるよ」
「良かったな!」

 昼休み、羊毛をチクチクしながら叶人は言った。同じクラスになってから、毎日その言葉を叶人から聞いている。俺も、可愛い叶人を見れる時間が増えて、かなり嬉しい――。

「陽向くん、お互いにバイトが休みの日にお花見しようよ。羊毛フェルトの子たちと一緒にお花見して、桜と羊毛フェルトの子たちを撮るんだ!」
「いいな、叶人いつ休み? シフト見せて?」
「家に置いてきちゃった」
「じゃあバイト終わった後、見に行くかな?」
「明日休みだから、今日は泊まりかな?」
「そうだな、泊まるわ」

 最近叶人は手芸屋でバイトを始めた。

叶人のお小遣いでは足りない羊毛フェルト代やぬい活代は俺が出していた。俺は叶人のためだから、全く気になっていなかったけれど、それが不平等だと、叶人はとても気になっていたらしい。

そして羊毛フェルトの俺と叶人の、季節に合わせた衣装も毛糸を編んだり布を縫ったりして最近作り始めたから、叶人の手芸にかける出費も増えた。ちなみに羊毛フェルトの俺らが元々着ていたTシャツとチュニックは、下着扱いに。

 好きなものに囲まれて幸せらしいし、今のところは叶人のバイトの件で心配するところは何もない、と思う。

「お花見、いいなぁ。俺らも一緒に行こうかな?」

 再び同じクラスになった夏樹が会話に入ってきた。

「一緒に行っても、いいよ」

 今の発言はなんと、叶人の発言だ。

 夏樹と仲良くなったからってのもあるけれど、夏樹は実は写真を撮るのが上手だ。叶人は夏樹から写真を綺麗に撮れる方法を教えてもらったり、俺と叶人のツーショットを撮ってもらったりもしていた。それもあって叶人は、夏樹にそんな発言ができるようになったんだと思う。

***


 夜、叶人の家のドア前に来ると相変わらず、すぐにドアが開いた。

「陽向くん、お疲れ様!」

 バイトが終わった後、笑顔の叶人に会えると、いつも疲れはどこかへ飛んでいく。まっすぐ二階の叶人の部屋に行き、羊毛フェルト作業テーブルの前に座った。

「そういえばね、前にワカサギ釣りに行った時の写真もプリントしたよ」

 叶人が本棚からピンク色のアルバムを出した。そして俺にくっついて座り、中を開いて見せてくれた。

「この写真、やっぱりすごく綺麗だな」
「だね。この朝焼けを見た時は、すごく感動したよね!」

 今ふたりで見ている写真は、隼人先輩と夏樹に誘われて、早朝からワカサギ釣りに行った時の写真。暗い時間からワカサギ釣りの会場である湖に行って、テントを立ててワカサギを釣り始めた。ちょうど明るくなりかける時間に叶人とふたりでトイレへ行き、テントに戻るタイミングに偶然、その光景に出会った。そして急いで写真を撮った。

 積もった雪とピンク色の朝焼け。仲良く手を繋いで朝焼けを見ている、羊毛フェルトの俺と叶人の後ろ姿。羊毛フェルトのふたりは、叶人が毛糸で編んだお揃いのアイボリー色したセーターを着ていた。

 その時に叶人は、いつもよりも多い枚数の写真を撮っていた。俺もその場で、羊毛フェルトの俺たちを撮っている叶人の姿と朝焼けを何枚も撮った。

 実はその叶人が写った写真をスマホの待受画面にしている。白いスキーウェアのフードをかぶり、顔がフードのモコモコに囲まれていて、そんな叶人も可愛い。
 



 叶人はぬい活のアルバムを一番最初のページに戻し、パラパラとめくって進めていく。

 最初のページは、初めてぬい活デートをして叶人と恋人になった思い出深い場所の、カラフルな花畑。その次は、カラフルな花畑に決めた後に、他の候補だった二箇所も行きたいねって話になって、結局ラベンダー畑とひまわり畑にも行った。それから海や湖の、水がある風景の場所へも行って。季節が変わり、秋には紅葉が綺麗な公園、冬はスキー場。そしてさっき見た、冬は寒さで湖の上辺りが凍り、その上に雪が積もるワカサギ釣りの会場。デート以外にも、公園の遊具と撮ったり、庭でかまくらを作ってその中に羊毛フェルトのキャラを並べて撮ったりした写真もある。

 羊毛フェルトの俺らは、全部の写真の中で変わらずに手を繋ぎ、仲良く寄り添って微笑んでいた。変わったのは服装ぐらいだ。

 俺は、勉強机の上にある羊毛フェルトの俺たちに視線を向ける。彼らは今、春らしく柔らかいピンク色の花柄ワンピースを着て、写真と同じように仲良く手を繋ぎ微笑んでいる。

 叶人に視線を向けると目が合う。

「こうしてみると、あちこち行ってるね。叶人とぬい活デート、たくさんしたな……」
「ね、いつも付き合ってくれて、ありがとう!」
「こっちこそ。叶人とのデートはいつも楽しいもん」

 叶人と微笑み合うと、ふわっと癒される気持ちになった。いつもいつも叶人には癒されている。
 
 楽しい時間は早送りされているみたいで、叶人と過ごす時間は、本当にいつもあっという間に過ぎていく。



 眠る時間が来た。
 いや、来てしまったと言うべきか。

「叶人!」
「陽向くん!」

 名前を呼び両腕を広げると、叶人は俺の腕の中にくる。そうしてぎゅっとハグして、お互いの温かさやぬくもりを感じて、ドキドキもして。一緒に幸せな気持ちになる。それが最近の日課になっていた。しばらくぎゅっとした後、叶人はベット、俺は床に敷かれた布団にもぐりこむ。

「叶人、おやすみ」
「陽向くん、おやすみなさい」

 俺は布団の中で、さっき見たアルバムの写真を走馬灯のように思い出した。

 次は桜の写真か――。そしてその次はまた花畑かな? その時には叶人と恋人になってから、一年が経つ。

 叶人を恋の人として意識したのはハグをしてからだったけれど、実際俺は、いつから叶人に恋していたんだろうか。 小さい頃から叶人が大切で、大好きなのは変わりなくて――。しばらく考えていると、小学生ぐらいの頃、親に怒られてひとり家の前で落ち込んでいた時に叶人がそばに来て、全力の笑顔で俺を励ましてくれている姿が頭の中に浮かんできた。あの時、初めて叶人がキラキラしていたような――。記憶は定かではないけれど、あの時からすでに俺は叶人に恋をしていたのかもしれない。



 叶人の寝顔を見つめた。
 叶人を愛おしく思う――。

 俺も叶人の方に顔を向けて、目を閉じた。

 目を閉じても、目の前に叶人がいる気配がするだけでもう、ふわっと癒しに包まれた気分になる。

「叶人、いつもありがとう」

 俺は、叶人を起こさないように、すごく小さい声でそう言った。


 これからも叶人と一緒に羊毛フェルト制作作業をして、叶人の楽しそうな姿をたくさん見られますように。
 これからも叶人とぬい活して、羊毛フェルトのキャラを撮っている幸せそうな叶人の姿をたくさん撮れますように。
 これからもずっと、叶人と笑いあって幸せに過ごせますように。

 これからもずっと叶人と――……☆
 
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。

悪役Ωは高嶺に咲く

菫城 珪
BL
溺愛α×悪役Ωの創作BL短編です。1話読切。

太陽に恋する花は口から出すには大きすぎる

きよひ
BL
片想い拗らせDK×親友を救おうと必死のDK 高校三年生の蒼井(あおい)は花吐き病を患っている。 花吐き病とは、片想いを拗らせると発症するという奇病だ。 親友の日向(ひゅうが)は蒼井の片想いの相手が自分だと知って、恋人ごっこを提案した。 両思いになるのを諦めている蒼井と、なんとしても両思いになりたい日向の行末は……。

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…

まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。 5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。 相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。 一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。 唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。 それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。 そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。 そこへ社会人となっていた澄と再会する。 果たして5年越しの恋は、動き出すのか? 表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

そんなの真実じゃない

イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———? 彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。 ============== 人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

雪を溶かすように

春野ひつじ
BL
人間と獣人の争いが終わった。 和平の条件で人間の国へ人質としていった獣人国の第八王子、薫(ゆき)。そして、薫を助けた人間国の第一王子、悠(はる)。二人の距離は次第に近づいていくが、実は薫が人間国に行くことになったのには理由があった……。 溺愛・甘々です。 *物語の進み方がゆっくりです。エブリスタにも掲載しています

処理中です...