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4*近くで眠る

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 しばらく歩いてはみたものの、ずっと何もない道。
 あっという間に暗くなってきた。

「どうしよう……。暗いし、戻るには遠いよね」
「うーん。今日はこれを……」
 宮野くんが出したのはふたり用のテントをひとつ。

 テントの中に宮野くんはそそくさと入っていく。
 私も自分のタブレットを出して、テントを出そうとしていると「おいで!」って。

「この中に?」

 思わず聞き返してしまった。

 こんな狭い空間にふたりきり?
 どうしよう。

「俺と一緒に寝るの、嫌だ?」

 嫌なわけない。ないけど……。
 考えて、じっとしていたら宮野くんがもうひとつのテントを出した。

「嫌だよね? 小松さんはそっちで寝な?」
「……」

 あれ? ちょっと怒ってるのかな?
 目を合わせてくれない。

「じゃ、また明日」って、その言い方もそっけない感じで。

「うん、おやすみなさい」

 冷たくされた気がして、しょんぼりしながら準備してくれたテントに入った。



 このドレスのままじゃあ眠れなさそう。

 パジャマをタブレットから出して着替えた。
 あと、明かりとかも欲しいな。
 小さなランタンを出して、明かりをつけた。

 暗さはなくなったけれど、なんか寂しい――。

 その時、ガサガサって音がして、唸り声みたいな音も聞こえた。

 どうしよう。怖い。

 ちょっとずつその音が大きくなってくる。

 早く通り過ぎてくれますように!

 そう願いながらじっとする。
 震えが止まらないよ。宮野くんのところに行きたい。

 ぎゅっと目を閉じた。

 その時、ガサガサってなって、テントのチャックが開く音がした。

 怖い! 私はもうダメかもしれない!

「大丈夫か?」

 ん? 今耳元で聞こえている声って。
 目を開けたら目の前に宮野くんがいた。

「宮野くん、どうして?」
「今唸り声とか聞こえたから……小松、大丈夫かなって」
「心配してくれたの? ありがとう。ひとりで怖かった」

 宮野くんが心配してこっちに来てくれたありがたさとか、怖さとか……色んな気持ちが頭の中でごちゃごちゃになって、泣きそうになる。 

「だよな、怖いよな。ひとりにさせて、ごめん」
 違うの。宮野くんは何も悪くないの。
 そう言いたいのに言葉が上手く出てこない。       
「小松、いい? ちょっとごめん」

 そう言うと、宮野くんが私をぎゅって。  
 すごくドキドキしちゃう。
 あったかい。宮野くん、あたたかいよ。
 体温もだけど、心もあたたかくて。
 宮野くんへの『好き』って思いが溢れてくる。

 ――宮野くん、ずっと好き。

 もう少しこのまま一緒にいたい。



「どうしよう。小松さんひとりにしたくないな」
「じゃあ、宮野くんのところに行ってもいい?」
「いや、今は外に出ない方がいい」

 急に真剣な表情になった宮野くん。

「もしかして、外に、何かいる?」
「いや、何もいないよ。ここの隅で寝てもいい?」
「う、うん」 
「じゃあ、俺、寝るわ」
「うん。私も寝るね。おやすみなさい」
「おぅ、おやすみ」

 テントの隅で、向こう側を向いて眠る宮野くん。
 私は彼の背中を見つめた。

 この狭い空間で、ふたりきりで寝るの?
 こんなことになるなんて、想像したことなかった。

 片思いの人。
 憧れの人。
 どんなに手をのばしても届かない人。

 宮野くん――。

 しばらく見つめてから、反対側の隅でタオルを掛けて横になった。

 目を閉じても眠れない。
 宮野くんのいない方向を向いているのに、頭の中が宮野くんでいっぱいになって。

 ずっと自分の心臓の音もうるさいし。

 外はあっという間に明るくなってきて、結局眠れたのは一瞬だけな感じだった。

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