宮野くんに伝えたい想い~夢の世界から戻るには『好き』を伝え合うこと

立坂雪花

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5*帰れる条件

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 宮野くんを起こさないようにして、今日の服をタブレットで選ぶ。動くのラクそうな、可愛い色の服にしようかな? 

 ちなみに選んで出した服やアイテムは、画面の中にしまえる仕組みになっている。

 タブレットのカメラでしまいたい物を写して『しまう』を押すと一瞬で画面の中へ。

 ドレスとか使わなそうなものをとりあえず先にしまってから選ぶことにした。

「お、早いな、おはよ」
「おはよう」

 宮野くんは目を覚ました。

「服選んでるの?」
「うん」
「俺も選ぼ」

 宮野くんはささっと決めて、出したのは紺色の浴衣。

「浴衣?」
「うん。小松、迷ってるの?」
「うーん。どうしようかな?」
「じゃあ、これは?」

 タブレットの画面を見せてくれた。
 見せてくれたのは、白くて可愛い浴衣。

「あ、可愛い!」
「でしょ? 今日は浴衣の日にしよ」

「靴は動きやすそうなサンダルにしようかな? 髪型どうしよう」

「俺、妹の髪の毛いつもやってるから上手いと思う。お団子する?」

 そう言って宮野くんは私の髪の毛を結ってくれた。可愛い黄色の花の飾りもタブレットから出してつけてくれた。

 手際の良さを見て、妹ちゃんの髪の毛をいじっている姿を想像する。

 気持ちがほわほわした。

 けれど距離が近くて、髪の毛に触れられて……ドキドキな気持ちの方が強い。

 そして宮野くんも浴衣を着た。
 浴衣姿も似合っていて、すっごくカッコイイ!

 一緒にいるとどんどん好きになる。
 宮野くんも私のこと、好きにならないかな? 

 でも、この恋は私の片思い――。



 テントから出ると、朝の日差しが暖かくて気持ちが良い。

 すぐに使わないものとテントをタブレットにしまった。

「なんか浴衣姿、お祭りに行くみたいだね」
「だな」

 しばらく歩いていくと、本当にお祭り会場が見えてきた。

 わたあめやヨーヨー、ポテト、トロピカルジュースとか、沢山の出店がある。

 そしてみんな、私たちみたいに浴衣を着ている。

「えっ? こんな都合良くお祭り会場が現れるなんて……」

 私は驚いた。
 
「みんな銀色の髪に、きつねの耳みたいなのが生えてるな」

 宮野くんが耳に気がついてそう言った。
 大人、子供、男女全員についていた。

「私、人間かな?って思っていたけれど、人間じゃないのかな?」

「ぽいな。昨日の夜に見たのも人間じゃなかったけど、人間っていないのかもしれないな……」

「宮野くん、昨日の夜、何か見たの?」
「真っ黒い影。そういえば、それにも同じような耳がついてたな……」
「真っ黒い、影?」

「うん。小松はあれ、絶対に見ないほうがいいと思う」

「テントにいた時、それの音が聞こえてきたってことかな?」

「そう。あの時は小松を怖がらせないように、言わないでおいたけど。多分、暗くなってから出てくるんだと思う」

「怖い……」

「夜、外に出なければ大丈夫だと思うし、何かあっても小松のことは俺が守るから」

「ありがとう」

 頼りになる宮野くん。

「私も何かしたいな。何か私でも出来ることがあれば言ってね!」
「うん、分かった」



 お祭り会場を眺めていたら、ボブヘアーの小さくて男の子が近くに来た。手にはわたあめを持っている。

「人間だ! 僕のわたあめあげる!」
「くれるの? ありがとう」

 にっこりして手を振り、その子はすぐにお父さんらしき人?の場所に戻っていく。

「小松、会話できるんだね。あの子、なんて言ってた?」
「わたあめあげる!って言ってたよ!」
「小松にだけ言葉が分かるのか……そういえば鳥とも話してたよな」

 もしかしてこれって、宮野くんに出来なくて、私にできること、かな?

 宮野くんに頼ってばかりいたけれど、私も何か役に立てるかもしれない!

「私、この世界のこと聞いてみる!」

 自分から話しかけるの苦手すぎるけれど。

「じゃあ、頼むな! ここはどこなのか、どうやったら元の場所に帰れるか……質問したいことはこんなところかな?」
「うん、分かった」

 とりあえず、もらったわたあめを半分こにして一緒に食べた。それから賑わっている会場全体を見渡した。

 誰に聞こうかな?



「すみません! ちょっと聞きたいのですが……」

 勇気を出して話しかけたのは、ショートヘアの優しそうなお兄さん。

「あ、人間だ。久しぶりに見たかも。どうしたの?」

「人間、久しぶりに見たってことは、他にも人がいたりするんですか?」

「今はもう、元の世界に帰ったんじゃないかな?」

「元の世界……あの、ここはどこですか?」

「ここはね、君たちの夢の世界なの」
「夢の世界?」
「うん。架空の、想像の世界って感じかな」
「でも、痛さも熱さも感じるし……」
「夢の世界にもいくつかあるんだけど……」

 お兄さんの説明によると、夢にはいくつか種類があるらしい。自分で「これは夢だな」って分かる夢や痛さも何も感じない夢……。

 今いるのは現実のようで、痛さも熱さも感じる夢の世界……。

 
 夢の世界にいる……全く実感がない。

 だって、動きたいように動けるし、景色は変わったけれど、いつもと同じような感覚だし。

「どうしたら、元の世界に帰れるか、分かりますか?」


「条件はね、一緒に来た男の子に『好き』って告白されること。そして、あなたからも気持ちをきちんと伝えること」

「えっ? 難しい、ムリ!」

「あとね、焦らなくても大丈夫。戻れたら、元の世界にいた場所、時間に戻れるから。あなたたちから見れば、あっちの世界は時間が止まっているって考えれば分かりやすいかもね。応援してる! 頑張ってね!」

 そう言ってお兄さんは微笑んだ。

 頑張ってって言われても……。

 わたしは宮野くんをチラッと見た。目が合う。

「なんて言ってた?」
「あのね、今私たちがいるところって、夢の世界なんだって」
「はっ? 夢の世界?」
「うん。ちなみに元いた世界は、場所も時間も止まってるみたい」
「じゃあ、家族が心配して探してるだとか、そういうのはないってことだな」
「そうだね、そしてね……」

 元の世界に戻る条件、言いづらい。

 だって、告白されるなんてありえないし、私から気持ちを伝える勇気なんてないし。

「そして、何?」
「……それだけかな」
「元の世界に戻る方法は?」
「お兄さんも分からないって」

 なんとなく言えなかった。
 宮野くんにウソついちゃった。 

「……そうなんだ」

 宮野くんはしばらく黙った。

「じゃあ、他の人にも聞いてみるか?」
「……うん、そうだね」

 私が言わないせいで、手間が余計にかかる。
 今からでも伝えた方がいいかな?
 そう考えている時だった。

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