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16_腐れ縁

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 翌日、私には裁判について話し合うため、弁護士事務所を訪れていた。


「・・・・ふう」

 話し合いを終えて、マテオおじさんの屋敷に帰るころには、日が暮れていた。コートを脱ぎながら、私は溜息を床に落とす。


「お帰りなさい、カロルさん」

 ポーリンさんが出迎えてくれる。

「遅くなってすみません」

「いいのよ。陛下のお仕事のお手伝いしているんでしょう? 立派だわ」

 陛下には、調査の内容は内密に、と言われているので、ポーリンさんには詳しいことを話せない。

 なので、陛下の仕事を手伝っている、とだけ伝えてある。アンベールさんが口添えしてくれたこともあり、マテオおじさんもポーリンさんも納得してくれて、陛下のお手伝いなんてとても素晴らしいことだと、賞賛してくれた。

「食事の準備は、もうできている――――と言いたいところなんだけど」

 食堂に向かおうとしたところで、ポーリンさんの表情が曇った。

「あのね、カロルさん。・・・・驚かないでほしいんだけど」

「どうかしたんですか?」

 お腹が空いていて、私は冷静に考えられていなかった。いつもの冷静さがあったなら、ポーリンさんの表情を見た時点で、嫌な予感を抱くことができていたはずだ。

「その・・・・あなたを訪ねて、ある人達が来てるのよ」

「ある人達?」

「それが――――」


「カロル!」


 聞き覚えのある声が聞こえて、私は凍り付いていた。


 怖々と、振り返る。


 食堂の近くに、ベンジャミンとアデレードが立っていた。


「・・・・・・・・」

 頭が真っ白になり、私はしばらくの間、呆然と立ち尽くしていた。

「ど、どうして二人がここに!?」

 しばらくして我に返り、思わず叫んでしまう。

「あ、あなたを訪ねてきたそうなの」

「わ、私を・・・・?」

 呆然としていると、ベンジャミンとアデレードのほうから近づいてきた。

「あ、あの、カロル・・・・」

 私は二人を睨みつける。

「・・・・何をしに来たの?」

「な、仲直りがしたくて・・・・」

「・・・・仲直り?」

「私達、あなたを裏切る形になってしまったでしょう? ずっと謝りたかったの」

 アデレードがしおらしい態度で、そう言った。


 こめかみが痙攣している。鏡がないから確かめられないけれど、青筋が浮かんでいるのかもしれない。


 二人そろって、最低な裏切り方をしておきながら、仲直りがしたいとのたまうなんて。しかも、裏切った直後ではなく、今頃になって、謝罪しに来る、その神経が私には理解できない。


「怒ってる・・・・よな? 怒って当然だよな」

 ベンジャミンは萎れるように項垂れた。

「なぜ、謝りに来たの? もう関係ないでしょう?」

「そ、そんなことないよ。た、たとえ婚約者でなくなっても、君は俺の・・・・俺達の、大事な友人だ」

 友人という言葉を聞いた瞬間に、怒りで血が滾っていた。

 さんざん裏切っておいて、今さら友人呼ばわりして、私が喜ぶとでも思っているのだろうか。傷口に塩を塗りたくっているという自覚がないところが、なおタチが悪い。

「べ、ベンジャミンさん、アデレードさん」

 私の怒りが爆発する前に、ポーリンさんが私達の間に入ってくれた。

「悪いんだけど、私達は今から夕食なの。カロルさんは、今日は忙しかったみたいで、疲れてるのよ。ね、カロルさん」

「は、はい」

 ポーリンさんは二人に、今から夕食だから、もう帰ってほしい、ということを遠回しに伝えてくれた。

「だから、二人には――――」


「まあ、私達も、御馳走になっていいんですか?」


「えっ」

「え」

 アデレードの反応に、私とポーリンさんは固まる。

「ありがとうございます、食事に誘ってもらえるなんて」

 否定する間もなく、今度はベンジャミンが乗ってきた。


「・・・・・・・・」


 空気を読めていないのか、それとも歓迎されていない空気を感じつつ、あえて、読めないふりをしているだけなのか。


 ――――どちらにしても、ベンジャミン達のほうが上手なのだと認識させられ、肩を落とすしかなかった。


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