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3_事件の経緯
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「あら、カロル! 久しぶり!」
マテオおじさんに荷物を届けた後、王宮の庭園をぶらぶらしていると、友達のミラと出くわした。
友達のミラは、王宮で侍女として働いている。
陛下の妹君の、世話をしているそうだ。
「リモージュに戻ってきていたのね」
「昨日、着いたばかりなの」
「ああ、もしかして、結婚の準備のために?」
虚を突かれて、声が出てこなくなる。
破談したこと、財産や領地を奪われたことは、マテオおじさんやポーリンさん以外には、まだ話していない。すべての不幸が突然降りかかってきたから、友達に相談する暇もなかった。
(ミラにも、話しておかないと)
でも、にこにこと笑っているミラを見ると、打ち明ける気になれなかった。それにこんな場所で、話すような内容じゃない。
「そ、そういえば、王宮の近くで、殺人事件が起きたんでしょう?」
私は必死に、話題を変えようとした。
すると、ミラの顔色が変わる。
「そうなのよ! ・・・・というか、もう二か月半も前の話よ。今さら知ったの?」
「私が田舎に住んでいること、知ってるでしょ? 大きな事件ですら、めったに伝わってこないのよ。・・・・それよりも、事件のことを教えて。亡くなられたのはアンティーブ辺境伯夫人だって聞いたわ。それ、本当?」
「本当よ」
ミラは小声でも話せるよう、私に顔を近づけた。
「あの日、アンティーブ辺境伯夫人は馬車に乗り、護衛を一人連れて、王宮に向かっていたそうなの。だけど、西側の塀の付近で何者かに襲撃されたらしくて、発見されたときにはもう、アンティーブ辺境伯夫人と護衛の男性、それに御者は亡くなっていたらしいわ。目撃者は誰もいなくて、犯人の人数すらわかっていないそうなの」
「王宮の近くで襲うなんて、大胆ね。誰も悲鳴を聞かなかったの?」
「王宮は広いわ。西側の塀近くは緑が濃くて、虫も多いから誰も近づきたがらないの。・・・・もしかしたら、犯人はそういったことを、事前に調査していたのかもしれないわね」
「どうして辺境伯夫人は、護衛を一人しか連れていなかったの? 夫人なら、もっと大勢を雇えたはずなのに」
「そりゃそうだろうけど、毎日毎日、しかも朝から晩まで、大勢の護衛に囲まれてるなんて、息が詰まるじゃない。夫人も、大勢の護衛を引き連れて歩くのは、嫌だったんだと思うわ。・・・・警備が薄い日を狙われていること、その日のアンティーブ辺境伯夫人の行動が知られていたことから、内通者がいたんじゃないかと疑われているの」
「内通者?」
「事件のあと、辺境伯夫人と一緒に馬車に乗っていたはずの、セシールという侍女が行方不明になってるのよ。辺境伯夫人と護衛や御者の死体は置き去りなのに、彼女の死体だけ残っていなかったの。おかしいじゃない? 他の死体が置き去りなのに、彼女の死体だけないなんて。だから、彼女が内通者だと疑われていたみたい」
ミラはまるで探偵のような顔で、考え込んでいた。
「それで今は、どうなってるの?」
「調査を任されたクベード卿が、セシールの行方を追ってるそうよ。自警団もクベード卿に協力しているみたい。これがセシールの手配書よ」
ミラはポケットから、手配書を取り出して、見せてくれた。いつも持ち歩いているのだろうかと、不思議に思いながらも、それに目を通す。
金髪、碧眼、逃走時はブルーのドレスを着ていたなど、特徴が箇条書きにされている。その隣に似顔絵も書かれていたけれど、こちらはあまり当てにならなさそうだ。
並べられた特徴の中で、一番目を引くのは、生まれつき左腕の親指だけが短い、というものかもしれない。リモージュには、金髪で碧眼の女性は大勢いるけれど、左腕の親指だけ短い女性は、そう多くはいないだろう。
「このセシールという女性は、まだ見つかっていないの?」
「ええ、まだよ。もう二か月半も経つのに」
「どこかに潜伏してるんじゃない?」
「毎日自警団が巡回していて、そこら中に手配書が貼り付けられているような状況なのに、二か月半も潜伏するなんて、協力者がいないと不可能でしょ? でもリモージュには、セシールを匿ってくれるような友人や親族はいないのよ」
「日雇いの労働者を泊めてくれるような、安宿は調べたのかしら?」
「もちろん、クベード卿が捜索させてたわよ。でも、成果はなし」
「・・・・リモージュの外に出たって言うことかしら?」
「それもないわ。リモージュは高い塀で囲われているから、門を通らないと外に出られない。セシールが門を通った形跡はないらしいわ」
「・・・・確かに、奇妙な状況ね」
「でしょ!」
ミラは目を輝かせる。
マテオおじさんに荷物を届けた後、王宮の庭園をぶらぶらしていると、友達のミラと出くわした。
友達のミラは、王宮で侍女として働いている。
陛下の妹君の、世話をしているそうだ。
「リモージュに戻ってきていたのね」
「昨日、着いたばかりなの」
「ああ、もしかして、結婚の準備のために?」
虚を突かれて、声が出てこなくなる。
破談したこと、財産や領地を奪われたことは、マテオおじさんやポーリンさん以外には、まだ話していない。すべての不幸が突然降りかかってきたから、友達に相談する暇もなかった。
(ミラにも、話しておかないと)
でも、にこにこと笑っているミラを見ると、打ち明ける気になれなかった。それにこんな場所で、話すような内容じゃない。
「そ、そういえば、王宮の近くで、殺人事件が起きたんでしょう?」
私は必死に、話題を変えようとした。
すると、ミラの顔色が変わる。
「そうなのよ! ・・・・というか、もう二か月半も前の話よ。今さら知ったの?」
「私が田舎に住んでいること、知ってるでしょ? 大きな事件ですら、めったに伝わってこないのよ。・・・・それよりも、事件のことを教えて。亡くなられたのはアンティーブ辺境伯夫人だって聞いたわ。それ、本当?」
「本当よ」
ミラは小声でも話せるよう、私に顔を近づけた。
「あの日、アンティーブ辺境伯夫人は馬車に乗り、護衛を一人連れて、王宮に向かっていたそうなの。だけど、西側の塀の付近で何者かに襲撃されたらしくて、発見されたときにはもう、アンティーブ辺境伯夫人と護衛の男性、それに御者は亡くなっていたらしいわ。目撃者は誰もいなくて、犯人の人数すらわかっていないそうなの」
「王宮の近くで襲うなんて、大胆ね。誰も悲鳴を聞かなかったの?」
「王宮は広いわ。西側の塀近くは緑が濃くて、虫も多いから誰も近づきたがらないの。・・・・もしかしたら、犯人はそういったことを、事前に調査していたのかもしれないわね」
「どうして辺境伯夫人は、護衛を一人しか連れていなかったの? 夫人なら、もっと大勢を雇えたはずなのに」
「そりゃそうだろうけど、毎日毎日、しかも朝から晩まで、大勢の護衛に囲まれてるなんて、息が詰まるじゃない。夫人も、大勢の護衛を引き連れて歩くのは、嫌だったんだと思うわ。・・・・警備が薄い日を狙われていること、その日のアンティーブ辺境伯夫人の行動が知られていたことから、内通者がいたんじゃないかと疑われているの」
「内通者?」
「事件のあと、辺境伯夫人と一緒に馬車に乗っていたはずの、セシールという侍女が行方不明になってるのよ。辺境伯夫人と護衛や御者の死体は置き去りなのに、彼女の死体だけ残っていなかったの。おかしいじゃない? 他の死体が置き去りなのに、彼女の死体だけないなんて。だから、彼女が内通者だと疑われていたみたい」
ミラはまるで探偵のような顔で、考え込んでいた。
「それで今は、どうなってるの?」
「調査を任されたクベード卿が、セシールの行方を追ってるそうよ。自警団もクベード卿に協力しているみたい。これがセシールの手配書よ」
ミラはポケットから、手配書を取り出して、見せてくれた。いつも持ち歩いているのだろうかと、不思議に思いながらも、それに目を通す。
金髪、碧眼、逃走時はブルーのドレスを着ていたなど、特徴が箇条書きにされている。その隣に似顔絵も書かれていたけれど、こちらはあまり当てにならなさそうだ。
並べられた特徴の中で、一番目を引くのは、生まれつき左腕の親指だけが短い、というものかもしれない。リモージュには、金髪で碧眼の女性は大勢いるけれど、左腕の親指だけ短い女性は、そう多くはいないだろう。
「このセシールという女性は、まだ見つかっていないの?」
「ええ、まだよ。もう二か月半も経つのに」
「どこかに潜伏してるんじゃない?」
「毎日自警団が巡回していて、そこら中に手配書が貼り付けられているような状況なのに、二か月半も潜伏するなんて、協力者がいないと不可能でしょ? でもリモージュには、セシールを匿ってくれるような友人や親族はいないのよ」
「日雇いの労働者を泊めてくれるような、安宿は調べたのかしら?」
「もちろん、クベード卿が捜索させてたわよ。でも、成果はなし」
「・・・・リモージュの外に出たって言うことかしら?」
「それもないわ。リモージュは高い塀で囲われているから、門を通らないと外に出られない。セシールが門を通った形跡はないらしいわ」
「・・・・確かに、奇妙な状況ね」
「でしょ!」
ミラは目を輝かせる。
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