婚約破棄されて捨てられた精霊の愛し子は二度目の人生を謳歌する

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21.暗躍するもの

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*21.暗躍するもの


 召喚された救世主の少女は、私と平民の女の間に生まれた子供だ。
 名前は…ロアだったか。
 この世界は精霊が眠りについてから随分と長い年月が経っていると伝承には記されている。
 世界は魔法で成り立っていた時期もあったという。今は生活魔法くらいの魔力しかなく、私のように魔術師として職に就いているものは全世界で一握りだ。
 魔術師は選ばれた人間である。なによりも優れた証だ。
 それなのに、この世界は王の力が絶大で逆らおうなんて輩はまず存在しない。
 魔力を殆ど有していないのに、ただ血筋であるというだけで王位継承権が与えられる。
 魔法が使えた方が、より世界を動かしやすくなるというのに、愚かな人間どもだ。
 優れた私の魔力を魔法陣書を作るためだけに使い、それを王族や貴族が使う。莫迦げた話だ。
 私の力がいかに凄いものか、この世界を統べるのに相応しいか見せつける必要がある。

 とある秘伝書を手に入れ、異世界召喚の禁術を手に入れた。この世界の精霊を目覚めさせるための儀式だとまず宰相に話をつけ、もしうまくいけば世界の魔力不足を補えると告げれば、儀式をすることに反対する人間はいなくなった。
 儀式はこの世界で唯一の最高位魔術師の私に委ねられた。
 その術式にもう一つの魔法陣を付け加えても、誰も理解できない。それを利用した。
 精霊に愛される者を異世界から召喚し、この世界の精霊を呼び出す。そして、その功績を一緒に召喚したとみせかけた私の娘の功績にする。
 何も知らぬ異世界人なら上手く丸め込めるに違いない。一旦、私預かりにして“精霊の愛され人を“魔術で洗脳し、駒として動かす予定だったのだが、現れた異世界人はまるで魔物と言っても遜色のない出で立ちで現れた。一緒に召喚したロアが隣に居た為にその異質さは際立っており、衛兵が各々の武器を構えいつでも王を守れるように戦闘態勢に入った。これは不味い。このまま異世界人がみすみす殺されてしまえば、この世界がどう転じるか判らない。

「お待ちください! 精霊の加護を受ける救世主を呼ぶこの場所で殺生などとんてもございません! お考え直し下さい!」

 慌ててそう叫ぶが、衛兵は武器を下げない。
 精霊はすべてが眠りについているが、異世界人がやってきたこの城の辺りは目覚め始めているかもしれない。下手な手は打てない。
 緑色の肌をした奇怪な姿をした異世界人に今は騎士として名を馳せている第三王子が近づき、この場から立ち去るように命じた。このまま他のものの手に落ちるのは不味い。すぐに手下を送り異世界人を確保するよう伝えたが、異世界人はどこにも見当たらなかった。
 幸いなことに、見目の良いロアが救世主として城預かりとされ召し上げられた。異世界人の容姿があまりにも醜くあったことも関係している。
 ロアは先見の魔力があり、この召喚の儀でそれを確固たる能力とした。
 それは“精霊の愛され人”の行動を予言として見れる能力だ。ロアはそれが自分が意識を飛ばして視ているものだと勘違いをしているが、あれは庶子であり礼儀もない頭の悪い子供だ。下手にこちらの策略を教えてボロが出ても困る。それは救世主が意識を飛ばして精霊を呼び起こす奇跡だと大仰に伝えている。
 今ではロアは自分が選ばれた聖人だと豪語して、王家の人間でさえ小間使いのように接している。いい気味だ。

 あの奇怪な異世界人の通った道をなぞるように精霊が目を覚まし始めた。
 勿論、ロアはそれを先見として視ていたので、ノアトルの地までの精霊を起こすことに成功すると陛下に伝えていた。
 それが見事に当たり、ロアが救世主だとほぼ確定した。
 ノアトルも大事だが、この王都の精霊をまず目覚めさせろとロアを罵った大臣が居たが、ロアが精霊を目覚めさせるのを止めるとさめざめと泣けばそれ以上強く言うことも出来ず陛下に牢獄へ送られた。それ以降は反発してロアを詰るものは居なくなった。

 数週間前、第三王子があの異世界人を王都に連れ帰ったと聞かされた。
 城の中でも機密扱いで、私が知ったのは随分と後だった。
 後手を引いてしまったが、問題はない。もし、異世界人を匿うとしたら第三王子の宮だろう。あそこは人手が少なく、人を隠すのに丁度いい場所だ。何かあったら人を貸すからと声を掛けていた。
 我が家から紛れ込ませた手のものに毒を盛らせ、抵抗ができないようにして我が館の地下に監禁する。


 なのに、どうしてだ!

 何故、私の手のものが帰ってこない?!


 手渡した魔法薬は持続力はないが、相当強力なものだ。
 第三王子と言っても、王位継承権は放棄していて彼の離宮は今や主の居ない抜け殻だ。使用人も少なく、抜け目だらけだと言うのに、間者からの連絡は一向に訪れない。
 焦れた私が館を出ると、門前に騎士団の紋章が刻み込まれた馬車が止まった。
 四人の騎士が馬車から出てきて、私の四方を固めた。まるで逃げることなど許されないと体現しているようだった。

「ドアモール卿、陛下がお呼びです。救世主の少女についてだと言付かっております」

 それと、と騎士の一人が静かな声で私に一石を投じた。

「精霊の愛し子が、お見えだそうです」

 ザワリと私の魔力が騒ぐ。
 それを肌で感じ取ったのか、もう一人の騎士が魔封じのブレスレットを私に装着した。

「お加減が優れないようだ。陛下になにかあっては大変です。こちらの魔道具をお遣いください」

 当たり前のように魔力を封じられ、騎士団の馬車に乗せられた。
 馬車でも左右を固められ、身動き一つとれぬまま城に連れていかれた。これでは罪人のそれと変わりがないだろうと激怒する所であったが、今安易に動くのは迂闊だ。それに、城に行けば異世界人が居るのだ。逃げるわけにはいかない。今度こそ、上手くやらなければならないのだから。
 城に行き、所見の間に通された。
 王座には陛下と王妃、それと立太子が傍に控えている。
 ロアは…と視線だけ動かしてみれば同じ高さの位置に居た。第三王子と第四王子の間に挟まれ佇んでいる。表情は日に日に傲慢のそれになっているが、国を、引いては世界を変える者の一部なのだ、あれくらいが丁度いい。威圧というものは、異論を封じ込めることができる。


「さぁ、入るがいい。精霊の愛し子よ」



 厳格なる陛下の声で所見の扉が再度開いた。
 そこに立っていたのは、あの緑色の化け物とは違う煌びやかな美を纏った麗人だった。

「なんだと…?」

 あれが異世界人か?
 そんな馬鹿なことあるわけがない!
 この世界では見ることのない墨色の艶やかな髪と、澄み渡った灰色の大きな瞳、良く出来た人形だと言われれば納得できてしまう程の圧倒的な美がそこにあった。華奢な身体つきは危うく、しかしスラリと伸びている手足はバランスがとてもよい。
 ロアなんて足元にも及ばない。
 あれが精霊の愛され人だと認知されてしまって不味い。こちらの思惑から外れてしまう。
 思わず身じろぎをしてしまい、両脇に控えていた騎士に制された。

「陛下の御前です。あまり妙な真似をなさらないように」

 魔封じのブレスレットが邪魔して動けない私の視覚で目にも鮮やかなそれが動き出した。



「貴方がこの国を亡ぼす魔の物の手下ね!! アタシ、知ってるんだから!!」






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