21 / 24
20.そろそろ終わり
しおりを挟む*20.そろそろ終わり
あの後、食事を取ったルウォンと一緒にシシェルは王城に向かった。
シシェルが言うにはもう少ししたら、この救世主騒動にピリオドが打たれるのだろう。
そうなったら僕はノアトルに戻って、冒険者として再びギルド通いが始まる。
長い目で見て半年という約束だったけど、早めにカタが付くようで安心した。あまり間を空けすぎると冒険者として腕が鈍ってしまう。僕は魔法を主に使うから、冒険者としてのカンなんだけど。
それを思えば、ギルドの長期間休業する冒険者の処置は的確だね。
ここでの暮らしが終わったら、僕はどうやって帰ればいいんだろう。シシェルとルウォンの様子からして、救世主だというあの子がそのまま王城で過ごせることはないようだし。ここに召喚された時みたいに魔法で飛んで帰ってもいいのかな。
隠すことなく居ていいのだったら、少し遠回りして飛んであちこちの精霊を目覚めさせながらノアトルに戻るのも効率的でいいのかもしれない。僕だったら野宿も簡単だし。
久しぶりに鞄を取り出して、中の整理を行う。
ノアトルでは精霊が多く目を覚ましているので魔法を使えるようになった人も多く居る。ダンジョンもあるし、この無限鞄程ではないが精霊の加護を使わない程度の鞄を提供するのもいいかもしれない。
王都に次ぐ地方都市のノアトルが栄えれば、あの時の恩返しが出来る。冒険者としてなにも知らない僕にあの街の人たちは良くしてくれた。それのお返しを多少なりともしたいな。
部屋の一角になにも置かれていないスペースに荷物を出して日常の物とそうじゃないものを分けていると、扉が静かに開いた。
「…何をしている? 寝ていなくて大丈夫か?」
僕が寝ていると思ってノックをしなかったんだろうな。シシェルが部屋に入ってきて、僕のところまで足早にやってきた。
「体調は大丈夫。荷物の整理、必要かと思って…」
「必要ない」
強い口調で言葉尻を折られた。
床に座っていた身体をいつものように持ち上げられ、ベッドに降ろされた。
「私はお前を離す気はないからな」
「…え? だって、用事が済んだら僕をノアトルに帰してくれる約束で…」
「ノアトルには勿論帰す。しかし、私とだ」
「…は?」
「ノアトル領はミラルディウシュ公爵領だが、後継者に恵まれず私がそこの養子になることが決定している。だから王位継承の放棄が必要だった。つまり、お前は私と一緒にノアトルに帰り、私の伴侶として領地の運営を手伝って欲しい」
「待って! 待って…!!」
半ば喘ぐように必死で声を発した。
シシェルが王位継承権を放棄しているのは聞いていたが、まさかそんなことになっていようとは思っても見なかった。
「精霊が目覚めたと報告があった時、神命であると悟った。私は、お前に、ユエに心を奪われている」
「えぇ?! い、いつから?!」
僕の態度は散々で、シシェルに好意を持ってもらえる場面なんてひとつとしてない。前世での記憶がトラウマで、話をすることすら拒絶していた。
「最初からだろうか」
「まさかのあの姿で?! う、ウソでしょ?!」
あのゾンビの格好のどこに好感ポイントがあったのだろうか。僕が言っちゃいけないと思うんだけど、教授に施してもらったあのゾンビの特殊メイクはハロウィンだって判っていてもドン引きの仕上がりだった筈。インベントリにあるから取り出せるけど、今見てもすごい格好で召喚されたんだなって思うもの。
「あれが作り物だということは判っていた。それに、瞳はあの時のままだ。美しい」
シシェルに頭を優しく撫でられ、額にひとつキスをされた。
「迎えに行くのが遅くなってすまない」
頬にもキスをされた。
「ユエ、お前のことを愛している」
「う、うそだぁ…」
思わずこぼれた言葉は僕が弱いから。その言葉を信じてしまったら、またあの時みたいに掌を返されたら僕はもう立ち直れない。
弱音と共に、涙がひとつこぼれた。
シシェルは僕の涙を唇で拾い、目元にキスをした。
「誓おう。ユエと精霊に。私はお前を手放すことはない。ユエが私の執着にどんなに嫌がろうとも、私の隣に居てもらいたい」
そして僕の唇にキスを一つ落とした。
「お前も、私のことが大好きだろう」
ニッコリとシシェルが笑った。
橙色の髪がサラリと揺れて、窓からこぼれる太陽の光に照らされてキラキラと眩しい。少しつり目がちの黄金色の瞳がはちみつみたいにトロリと柔らかく細められた。
好き。
大好き。
まるで勝負はついたみたいな、ドヤ顔が愛しくて仕方がない。
この人の隣で、この世界をもう一度生きてみたい。
「…っ…! シシェルさまが、す、すきぃぃぃ!!」
ボロボロと涙がこぼれて、僕の一世一代の告白は無様なものだった。
もうちょっとなんとかならなかったのかと自分に問いたいが、必死だったんだ。二度目の人生で僕は初めて大好きだった人の執着に触れ、どうにかなってしまいそうだったんだ。
涙を優しく拭われ、頭をぽんぽんと撫でてられ、あやされた。
「ようし、お前の憂いを全力で晴らしてやるぞ!」
シシェルが力強い声でそう告げた。
「奴は召喚の儀で既にボロを出していた。証拠もようやく揃った。そろそろこの茶番も幕切れだ」
253
お気に入りに追加
5,074
あなたにおすすめの小説
期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています
ぽんちゃん
BL
病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。
謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。
五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。
剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。
加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。
そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。
次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。
一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。
妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。
我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。
こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。
同性婚が当たり前の世界。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?
下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。
そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。
アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。
公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。
アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。
一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。
これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。
小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。

転生したけどやり直す前に終わった【加筆版】
リトルグラス
BL
人生を無気力に無意味に生きた、負け組男がナーロッパ的世界観に転生した。
転生モノ小説を読みながら「俺だってやり直せるなら、今度こそ頑張るのにな」と、思いながら最期を迎えた前世を思い出し「今度は人生を成功させる」と転生した男、アイザックは子供時代から努力を重ねた。
しかし、アイザックは成人の直前で家族を処刑され、平民落ちにされ、すべてを失った状態で追放された。
ろくなチートもなく、あるのは子供時代の努力の結果だけ。ともに追放された子ども達を抱えてアイザックは南の港町を目指す──
***
第11回BL小説大賞にエントリーするために修正と加筆を加え、作者のつぶやきは削除しました。(23'10'20)
**
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位

魔法学園の悪役令息ー替え玉を務めさせていただきます
オカメ颯記
BL
田舎の王国出身のランドルフ・コンラートは、小さいころに自分を養子に出した実家に呼び戻される。行方不明になった兄弟の身代わりとなって、魔道学園に通ってほしいというのだ。
魔法なんて全く使えない抗議したものの、丸め込まれたランドルフはデリン大公家の公子ローレンスとして学園に復学することになる。無口でおとなしいという触れ込みの兄弟は、学園では悪役令息としてわがままにふるまっていた。顔も名前も知らない知人たちに囲まれて、因縁をつけられたり、王族を殴り倒したり。同室の相棒には偽物であることをすぐに看破されてしまうし、どうやって学園生活をおくればいいのか。混乱の中で、何の情報もないまま、王子たちの勢力争いに巻き込まれていく。

噂の冷血公爵様は感情が全て顔に出るタイプでした。
春色悠
BL
多くの実力者を輩出したと云われる名門校【カナド学園】。
新入生としてその門を潜ったダンツ辺境伯家次男、ユーリスは転生者だった。
___まあ、残っている記憶など塵にも等しい程だったが。
ユーリスは兄と姉がいる為後継者として期待されていなかったが、二度目の人生の本人は冒険者にでもなろうかと気軽に考えていた。
しかし、ユーリスの運命は『冷血公爵』と名高いデンベル・フランネルとの出会いで全く思ってもいなかった方へと進みだす。
常に冷静沈着、実の父すら自身が公爵になる為に追い出したという冷酷非道、常に無表情で何を考えているのやらわからないデンベル___
「いやいやいやいや、全部顔に出てるんですけど…!!?」
ユーリスは思い出す。この世界は表情から全く感情を読み取ってくれないことを。いくら苦々しい表情をしていても誰も気づかなかったことを。
寡黙なだけで表情に全て感情の出ているデンベルは怖がられる度にこちらが悲しくなるほど落ち込み、ユーリスはついつい話しかけに行くことになる。
髪の毛の美しさで美醜が決まるというちょっと不思議な美醜観が加わる感情表現の複雑な世界で少し勘違いされながらの二人の行く末は!?

悪役王子の取り巻きに転生したようですが、破滅は嫌なので全力で足掻いていたら、王子は思いのほか優秀だったようです
魚谷
BL
ジェレミーは自分が転生者であることを思い出す。
ここは、BLマンガ『誓いは星の如くきらめく』の中。
そしてジェレミーは物語の主人公カップルに手を出そうとして破滅する、悪役王子の取り巻き。
このままいけば、王子ともども断罪の未来が待っている。
前世の知識を活かし、破滅確定の未来を回避するため、奮闘する。
※微BL(手を握ったりするくらいで、キス描写はありません)

聖女の兄で、すみません!
たっぷりチョコ
BL
聖女として呼ばれた妹の代わりに異世界に召喚されてしまった、古河大矢(こがだいや)。
三ヶ月経たないと元の場所に還れないと言われ、素直に待つことに。
そんな暇してる大矢に興味を持った次期国王となる第一王子が話しかけてきて・・・。
BL。ラブコメ異世界ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる