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07.朝一番
しおりを挟む07.朝一番
無音だった世界から、チチチ、と小鳥の囀る音が聞こえて朝かと徐々に覚醒する頭が寝る前の状況を思い出した。
「!」
ゾッとして一気に覚醒した僕は慌ててベッドから身を起こした。
どうか夢であれと祈ったが、部屋は広く、起き上がった視線の向こうでは第三殿下であるシシェルが朝食の準備をしていた。
「おはよう。食事を用意した。顔を洗うのを手伝おう」
「えっ?!」
大き目のボウルに入れられたサラダをそれぞれの器に盛り付ける所だったのだろう、シシェルがサラダトング片手にニッコリと朝の挨拶をしてくれた。
テーブルには程よくトーストされた食パンと、目玉焼きにベーコンとウィンナーが乗った皿がそれぞれ置かれている。料理の量が明らかに違うから、昨日の僕の食事量を察してくれたのだろう。
寝起きの顔を見せてしまったことが恥ずかしくて、簡素に挨拶を返し急いで洗面所に向かう。
服はワンピースタイプの白いシャツを着せられていて、昨日、寝落ちた僕にシシェルが着せてくれたんだと思うと居た堪れなさに落ち込んだ。
身体はスッキリとしていて、あの後マッサージは全身に及んだのだろう。第三殿下を放って寝落ちをするなんて。更に気分が落ちた。
洗面所で一人悶えているとノックの音がして「朝食が冷めてしまうぞ」と声が掛かった。これ以上の醜態はまずいと、そそくさと部屋に戻った。
僕が座る椅子を引いて待っていてくれたシシェルが座ったタイミングで椅子を調整してくれる有能ぶりだ。
食事をしようと手を合わせて、ナイフとフォークを持とうとして気付いた。また、一組しかないことに。
「…へ…?」
また?
またなの?
恐る恐るシシェルを見れば、ニッコリと笑う彼と目があった。
「さぁ、口を開けろ」
「やだっ…! やだって、僕一人で食べれる!」
首を振って止めろと拒絶するのにシシェルは意に介さないようで、楽しそうに笑うばかりでこちらに向けるフォークを下げる様子はゼロだ。
僕が口を開けるよう刺したサラダを唇にツンツンと当ててくる。ドレッシングが唇について、思わず舌で舐めてしまい、その隙間を狙ってフォークを突っ込まれた。
あまりの力技に早々に諦めて次はカトラリーを用意しておこうと堅く心に誓った。
食事だけでクタクタになっているのに、シシェルの“お世話”は終わらなくて、食事の片付けをした後に椅子に座らされて丁寧に髪を梳かされ結われ、あろうことか着替えまでされた。
髪を結う手のひらはとても器用でどうやって結われたのか判らない編みこみの髪型にされ、僕の私物じゃない綺麗な髪飾りをつけられた。服だって、僕こんな上等なヒラヒラした服持ってない。ワンピース型の服が好きなのか、白地に金色のラインと装飾の施された服に墨色のローブを着せられ、スキニータイプのパンツと、短いこちらも白地に金具は金色のブーツを傅いて履かされた。
シシェルのコーデで僕は飾られた。
息も絶え絶えだ。
一々距離が近いし、一々褒めてくる。
かわいいとか、きれいだ、とか。
シシェルってこんな感じだったかな。
着替えが終わり、その出来栄えに満足したのかシシェルが仕上げだとばかりに僕の額にキスをしてきて思わず腰が抜けた。
シシェルもまさか僕が腰を抜かすとは思っていなかったようで、慌てて僕を起こし上げてくれた。
「…すまない」
「~~~~っ」
軽々持ち上げられて、ベッドに降ろされた。
額にキスされただけで腰が抜けるって、恥ずかしすぎないか?
シシェルと顔が合わせられなくて、真っ赤な顔で斜め下の床を見ていたらスライドで秀麗な顔がフェイドインしてきた。
「こちらを見てくれ。そこまで初心だとは思わず、すまなかった」
甘い声に引きずり込まれそうになって、慌てて頭を振る。
いつもこうやって僕はほいほい騙されて前世では皆に見捨てられた。
シシェルにだって色々とあって、僕の機嫌をとっているだけに違いないのに、また前世みたいな熱病に掛かったように浮かされてしまう。
シシェルがあの少女を大切にしていると知ったのに、僕はまた愚かな思い違いをしそうになった。生まれ変わっても僕はなにも変わっていない。またアッサリと第三殿下に騙されてしまった。
溜息を一つついて、ベッドから降りて部屋を出る。
後ろからシシェルの気配が付いてくるけど無視して宿屋を出た。
宿屋を出て、街の中心部にあるギルドに足を向ける。
ギルドは街の中心部にドーンとあるけれど、ここに討伐対象の魔獣を持ってくるわけにもいかないから街の外れに討伐、採取の獲物を受け渡す施設がある。そこで確認のカードを貰いギルドで報酬を貰う仕組みになっている。
魔獣討伐の確認の為に一匹を持って帰るのは至難の技なので、その魔物だと確認できる一部を持って帰れば依頼はクリアなのだけど、魔獣の肉は美味しい。色んな魔獣が居るけれど、この国の家畜はそこまで味は良くない。が、魔獣の肉は高級な味がする。
僕は無限収納があるので、討伐した魔獣を宿屋に持ち帰り女将さんにお土産として渡している。肉は美味しく調理され、僕の食卓に並ぶ。昨日、今日とシシェルが運んできた肉がそれだ。
王都に行くとなるとお世話になった女将さんに貢物が出来なくなるってことだ。それも悩みどころだ。
しかも、僕は立場はどうであれ、日陰者としてあの少女の影にされいいように使われるのだ。嫌だな。どんな待遇を申し出られようと、冒険者として暮らすほうが楽しい。
それが判っているから、人身御供のようにシシェルが僕のお世話をしているのだ。第三殿下自らこんな甲斐甲斐しい真似をしてまでも少女が大切らしい。
苦々しい想いがこみ上げてきて、顔を顰めていたら前方から名前を呼ばれた。
「ユエ! 今日もギルドに行くのか? だったら俺も一緒にいいかな」
「アバン。いいけど」
アバンはAクラスの冒険者で、この街の人気者だ。
茶褐色の癖のある髪を後ろに撫でつけていてピョンピョン跳ねた髪が愛嬌たっぷりで、男ぶりの逞しい顔つきとAクラスならでわの鍛え抜かれた体格が街の女性達に人気がある。笑えば蜂蜜色の瞳がとろりと甘く溶け、色気が立ち込める…とは、パン屋の女将さん談だ。
そんな有名な冒険者は何故か僕に目をかけてくれていて、何かあるとこうやって声をかけてくれる。
いつも通りに肩を抱かれギルドまでの道のりを歩むのかと思っていたら、その手がガシリと掴まれた。
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