雨の種

春光 皓

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プロローグ

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 西暦二千五百年。

 世界は一年中、雨に包まれている。

 食物も雨を多く浴びれば浴びる程良く育ち、電車やバスなどの交通機関はもちろん、この世界に存在するモノの大半は雨を原動力として動いていた。

 人類は雨を中心に、世界を発展させていったのだった。

 世界のほとんどが、雨に生かされている。

 雨は全ての命の源であり、母であり、自然がもたらす神の恵みといえた。


 しかし、雨は永遠に降り続けるわけではなく、寿命がある。


 雨の寿命――……


 雨の死。


 寿命とは人類だけでなく、この世の全てに、平等に存在するものなのである。

 とはいえ、雨そのものが寿命を迎えるというわけではない。


神木様しんぼくさま


 神がその姿を変えたと言われる木。

 この世界の雨は、この一本の木によってもたらされている。

 そして、神木様の寿命こそ、雨が降り止んだ理由だった。

 今から千年以上前、かつて一度、雨が降り止んだ日がある。

 その日から、雨は千年に一度、降り止むものとされてきた。

 神の化身であっても、世界中に雨をもたらすには、それ相応の力が必要で、千年で寿命を迎え、枯れてしまうのであると。


 今もこの世界に降りしきるこの雨は、千年以上も前から降り続いている。

 雨の寿命は、疾うに過ぎているというのに。

 誰もが、次に雨が降り止むのはいつなのだろう、そう思っている。


 直線的に地面へと落ちていく。

 今日もキレイな雨が降っている――……
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