45 / 71
本当に花音だ
しおりを挟む
(患者のプライバシーを守っているのかな)
そんな事を思いながら、花音は秀真が入院している部屋番号を見つけ、心の準備をしてからドアをノックした。
「はい」
「…………!」
中から秀真が返事をし、久しぶりに聞けた彼の声に胸の奥がキュンッと切なく締め付けられる。
静かにドアを開いて顔を覗かせると、ホテルの部屋のような病室が目に入った。
秀真はダブルほどある、ゆとりのあるベッドをリクライニングさせて本を読んでいたようだった。
室内には他にソファセットや液晶テレビ、こぢんまりとした流しまであり、ここで生活できそうだ。
「花音!?」
心底驚いたという顔をした彼は、慌てて本をベッドサイドに置き、ベッドから下りようとする。
「あっ、そのままでいいです!」
花音は後ろ手にドアをそっと閉じ、秀真の側まで近寄った。
「お久しぶりです。入院しているだなんて知らなくて、……その、春枝さんにお聞きして駆けつけてしまいました」
こんな行動を取って呆れられていないだろうかと心配しつつも、素直に事情を話して頭を下げた。
彼が何も言わないので、不安に思って顔を上げると、秀真は心底愛しいという顔で花音を見ていた。
「……あの?」
「……本当に花音だ。ずっと夢に見ていたけど……、ああ……。ちょっと、こっちに来て抱き締めさせて」
秀真は両手を広げ、花音は椅子の上に菓子折の入った紙袋とバッグを置き、「お邪魔します……」と彼の腕の中に収まった。
(あ……。秀真さんの匂いがする)
いつも彼から香っていた匂いが、微かにだが感じられる。
きっとこの香りは香水的なものなのだろうけれど、もう彼の体臭の一部になっているのだと思った。
「……あぁ、花音の香りだ」
と、秀真が自分と同じ事を考えていたと知り、恥ずかしくなる。
「……私、匂いなんてしますか?」
「うん、俺だけが分かる、花音の甘い匂いがするんだよ」
甘いと言われて安心したが、どうにも自分から匂いがすると言われると、変な匂いではないか心配になってしまう。
(早足で来たから、汗ばんでないかな)
遅れてそんな事も心配しだし、花音は頃合いを見計らったふりをして秀真から体を離した。
「あの、これ。お見舞いのお菓子です。お口に合えばいいんですが」
「わざわざありがとう。気を遣わなくて良かったのに」
改めて形式張った挨拶をし、花音は進められるがままにベッド横にある椅子に腰掛けた。
「凄い病室ですね。ホテルみたい」
素直な感想を口にすると、秀真が苦笑いする。
「ここの病院には、家族で世話になっているんだ。主治医は祖父のような存在でもあって、今回過労で倒れたと言ったら、しこたま怒られた」
「ふふ……っ」
春枝から聞いていたものの、ばつの悪そうな秀真を見ると、つい笑ってしまう。
「花音はいつまで東京にいるんだ?」
「あ、今日中には帰ります」
「え?」
一泊二日ぐらいに思っていたのか、秀真は目を見開いて驚いたあと、「そうだよな……」と呟く。
そして改めてまじめに頭を下げた。
「心配掛けてすまなかった。祖母と話をしたというなら、あらかた聞いていると思う。すべて自己管理ができていなかったのが原因で、その上花音にも心配かけてしまってすまない」
「いいえ、倒れたと聞いて心臓が止まったかと思いましたが、無事で良かったです」
「……ありがとう。……ダメだな。俺はこうやって、いつも花音の優しさと人の良さに甘えてしまう。今回の事だって、俺が事前に説明していれば余計な心配をかける事もなかったんだ」
反省する秀真を見て、「そんな事はないですよ」と思わず言いかけた。
だが今後、彼が自分と結婚する未来を考えてくれているなら……と、少し厳しめに意見を言おうと決めた。
そんな事を思いながら、花音は秀真が入院している部屋番号を見つけ、心の準備をしてからドアをノックした。
「はい」
「…………!」
中から秀真が返事をし、久しぶりに聞けた彼の声に胸の奥がキュンッと切なく締め付けられる。
静かにドアを開いて顔を覗かせると、ホテルの部屋のような病室が目に入った。
秀真はダブルほどある、ゆとりのあるベッドをリクライニングさせて本を読んでいたようだった。
室内には他にソファセットや液晶テレビ、こぢんまりとした流しまであり、ここで生活できそうだ。
「花音!?」
心底驚いたという顔をした彼は、慌てて本をベッドサイドに置き、ベッドから下りようとする。
「あっ、そのままでいいです!」
花音は後ろ手にドアをそっと閉じ、秀真の側まで近寄った。
「お久しぶりです。入院しているだなんて知らなくて、……その、春枝さんにお聞きして駆けつけてしまいました」
こんな行動を取って呆れられていないだろうかと心配しつつも、素直に事情を話して頭を下げた。
彼が何も言わないので、不安に思って顔を上げると、秀真は心底愛しいという顔で花音を見ていた。
「……あの?」
「……本当に花音だ。ずっと夢に見ていたけど……、ああ……。ちょっと、こっちに来て抱き締めさせて」
秀真は両手を広げ、花音は椅子の上に菓子折の入った紙袋とバッグを置き、「お邪魔します……」と彼の腕の中に収まった。
(あ……。秀真さんの匂いがする)
いつも彼から香っていた匂いが、微かにだが感じられる。
きっとこの香りは香水的なものなのだろうけれど、もう彼の体臭の一部になっているのだと思った。
「……あぁ、花音の香りだ」
と、秀真が自分と同じ事を考えていたと知り、恥ずかしくなる。
「……私、匂いなんてしますか?」
「うん、俺だけが分かる、花音の甘い匂いがするんだよ」
甘いと言われて安心したが、どうにも自分から匂いがすると言われると、変な匂いではないか心配になってしまう。
(早足で来たから、汗ばんでないかな)
遅れてそんな事も心配しだし、花音は頃合いを見計らったふりをして秀真から体を離した。
「あの、これ。お見舞いのお菓子です。お口に合えばいいんですが」
「わざわざありがとう。気を遣わなくて良かったのに」
改めて形式張った挨拶をし、花音は進められるがままにベッド横にある椅子に腰掛けた。
「凄い病室ですね。ホテルみたい」
素直な感想を口にすると、秀真が苦笑いする。
「ここの病院には、家族で世話になっているんだ。主治医は祖父のような存在でもあって、今回過労で倒れたと言ったら、しこたま怒られた」
「ふふ……っ」
春枝から聞いていたものの、ばつの悪そうな秀真を見ると、つい笑ってしまう。
「花音はいつまで東京にいるんだ?」
「あ、今日中には帰ります」
「え?」
一泊二日ぐらいに思っていたのか、秀真は目を見開いて驚いたあと、「そうだよな……」と呟く。
そして改めてまじめに頭を下げた。
「心配掛けてすまなかった。祖母と話をしたというなら、あらかた聞いていると思う。すべて自己管理ができていなかったのが原因で、その上花音にも心配かけてしまってすまない」
「いいえ、倒れたと聞いて心臓が止まったかと思いましたが、無事で良かったです」
「……ありがとう。……ダメだな。俺はこうやって、いつも花音の優しさと人の良さに甘えてしまう。今回の事だって、俺が事前に説明していれば余計な心配をかける事もなかったんだ」
反省する秀真を見て、「そんな事はないですよ」と思わず言いかけた。
だが今後、彼が自分と結婚する未来を考えてくれているなら……と、少し厳しめに意見を言おうと決めた。
0
お気に入りに追加
109
あなたにおすすめの小説
ある辺境伯の後悔
だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。
父親似だが目元が妻によく似た長女と
目元は自分譲りだが母親似の長男。
愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。
愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。
【完結】名ばかりの妻を押しつけられた公女は、人生のやり直しを求めます。2度目は絶対に飼殺し妃ルートの回避に全力をつくします。
yukiwa (旧PN 雪花)
恋愛
*タイトル変更しました。(旧題 黄金竜の花嫁~飼殺し妃は遡る~)
パウラ・ヘルムダールは、竜の血を継ぐ名門大公家の跡継ぎ公女。
この世を支配する黄金竜オーディに望まれて側室にされるが、その実態は正室の仕事を丸投げされてこなすだけの、名のみの妻だった。
しかもその名のみの妻、側室なのに選抜試験などと御大層なものがあって。生真面目パウラは手を抜くことを知らず、ついつい頑張ってなりたくもなかった側室に見事当選。
もう一人の側室候補エリーヌは、イケメン試験官と恋をしてさっさと選抜試験から引き揚げていた。
「やられた!」と後悔しても、後の祭り。仕方ないからパウラは丸投げされた仕事をこなし、こなして一生を終える。そしてご褒美にやり直しの転生を願った。
「二度と絶対、飼殺しの妃はごめんです」
そうして始まった2度目の人生、なんだか周りが騒がしい。
竜の血を継ぐ4人の青年(後に試験官になる)たちは、なぜだかみんなパウラに甘い。
後半、シリアス風味のハピエン。
3章からルート分岐します。
小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
表紙画像はwaifulabsで作成していただきました。
https://waifulabs.com/
極道に大切に飼われた、お姫様
真木
恋愛
珈涼は父の組のため、生粋の極道、月岡に大切に飼われるようにして暮らすことになる。憧れていた月岡に甲斐甲斐しく世話を焼かれるのも、教え込まれるように夜ごと結ばれるのも、珈涼はただ恐ろしくて殻にこもっていく。繊細で怖がりな少女と、愛情の伝え方が下手な極道の、すれ違いラブストーリー。
「あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください」〜 お飾りの妻だなんてまっぴらごめんです!
友坂 悠
恋愛
あなたのことはもう忘れることにします。
探さないでください。
そう置き手紙を残して妻セリーヌは姿を消した。
政略結婚で結ばれた公爵令嬢セリーヌと、公爵であるパトリック。
しかし婚姻の初夜で語られたのは「私は君を愛することができない」という夫パトリックの言葉。
それでも、いつかは穏やかな夫婦になれるとそう信じてきたのに。
よりにもよって妹マリアンネとの浮気現場を目撃してしまったセリーヌは。
泣き崩れ寝て転生前の記憶を夢に見た拍子に自分が生前日本人であったという意識が蘇り。
もう何もかも捨てて家出をする決意をするのです。
全てを捨てて家を出て、まったり自由に生きようと頑張るセリーヌ。
そんな彼女が新しい恋を見つけて幸せになるまでの物語。
公爵夫人は愛されている事に気が付かない
山葵
恋愛
「あら?侯爵夫人ご覧になって…」
「あれはクライマス公爵…いつ見ても惚れ惚れしてしまいますわねぇ~♡」
「本当に女性が見ても羨ましいくらいの美形ですわねぇ~♡…それなのに…」
「本当にクライマス公爵が可哀想でならないわ…いくら王命だからと言ってもねぇ…」
社交パーティーに参加すれば、いつも聞こえてくる私への陰口…。
貴女達が言わなくても、私が1番、分かっている。
夫の隣に私は相応しくないのだと…。
貴方もヒロインのところに行くのね? [完]
風龍佳乃
恋愛
元気で活発だったマデリーンは
アカデミーに入学すると生活が一変し
てしまった
友人となったサブリナはマデリーンと
仲良くなった男性を次々と奪っていき
そしてマデリーンに愛を告白した
バーレンまでもがサブリナと一緒に居た
マデリーンは過去に決別して
隣国へと旅立ち新しい生活を送る。
そして帰国したマデリーンは
目を引く美しい蝶になっていた
【完結】伯爵の愛は狂い咲く
白雨 音
恋愛
十八歳になったアリシアは、兄の友人男爵子息のエリックに告白され、婚約した。
実家の商家を手伝い、友人にも恵まれ、アリシアの人生は充実し、順風満帆だった。
だが、町のカーニバルの夜、それを脅かす出来事が起こった。
仮面の男が「見つけた、エリーズ!」と、アリシアに熱く口付けたのだ!
そこから、アリシアの運命の歯車は狂い始めていく。
両親からエリックとの婚約を解消し、年の離れた伯爵に嫁ぐ様に勧められてしまう。
「結婚は愛した人とします!」と抗うアリシアだが、運命は彼女を嘲笑い、
その渦に巻き込んでいくのだった…
アリシアを恋人の生まれ変わりと信じる伯爵の執愛。
異世界恋愛、短編:本編(アリシア視点)前日譚(ユーグ視点)
《完結しました》
契約結婚の終わりの花が咲きます、旦那様
日室千種・ちぐ
恋愛
エブリスタ新星ファンタジーコンテストで佳作をいただいた作品を、講評を参考に全体的に手直ししました。
春を告げるラクサの花が咲いたら、この契約結婚は終わり。
夫は他の女性を追いかけて家に帰らない。私はそれに傷つきながらも、夫の弱みにつけ込んで結婚した罪悪感から、なかば諦めていた。体を弱らせながらも、寄り添ってくれる老医師に夫への想いを語り聞かせて、前を向こうとしていたのに。繰り返す女の悪夢に少しずつ壊れた私は、ついにある時、ラクサの花を咲かせてしまう――。
真実とは。老医師の決断とは。
愛する人に別れを告げられることを恐れる妻と、妻を愛していたのに契約結婚を申し出てしまった夫。悪しき魔女に掻き回された夫婦が絆を見つめ直すお話。
全十二話。完結しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる