時戻りのカノン

臣桜

文字の大きさ
上 下
44 / 71

お見舞いのために東京へ

しおりを挟む
(そうか、入院してたなら電話に出られなくても仕方なかった……。嫌われた訳じゃなかったんだ)

 安堵した花音は、春枝に連絡して良かったと心底思った。

 そのまま卓上カレンダーを見てみるが、どうも連休はない。

(週末を利用して行くしかない。飛行機を取れるか確認しないと。……いや、でもまだ忙しいなら、行くだけ邪魔になる?)

 迷ったあと、春枝に相談に乗ってもらう事にした。

「あの、それでもやっぱり心配で、一目顔を見るだけでも……と思います。でも会社としてはまだ忙しくて、秀真さんには会わない方が彼のためになるでしょうか? 少しお話して、無事を確認したらすぐ帰りますので」

『ありがとう、秀真も喜ぶわ。そうね……。秀真の入院は日曜日までなの』

 言われてカレンダーを見れば、今日が金曜日であと二日の猶予がある。

『その間なら、病室で話をするぐらい、いいんじゃないかしら?』

「分かりました。ありがとうございます。すぐに飛行機が取れないか確認します」

『気持ちはありがたいけれど、花音さんも毎日の生活や仕事があるのだから、無理をしないようにね』

「はい!」

 春枝に電話を掛けて現状の打開策を得た花音は、水を得た魚のように元気に返事をした。

 そのあと「ご家族に宜しくね」と挨拶程度の会話をし、電話を切る。

「飛行機をまずおさえないと!」

 花音はすぐにスマホを立ち上げ、航空会社を問わずすぐに乗れそうな便を探す。

 だが現在は二十時半ほどで、飛行機は一番遅いものでも二十一時台だ。

 花音の家は中央区であっても、札幌駅に移動するまではタクシーに乗って二十分から三十分はかかる。

 おまけに札幌駅から新千歳空港までは、JRの快速に乗っても四十分ほどかかる。

 ギリギリの時間に駆け込んでは、迷惑を掛けてしまう。

(気持ちは焦るけど、きちんと準備をして明日の朝一番に出よう)

 今すぐ動きたい気持ちを必死に抑え、計画を練り直す。

(ホテルに泊まらないで、秀真さんに会ったらすぐ帰ろう。春枝さんが、土曜日の面会時間は十三時からって言っていたから、そんなに焦る必要はない)

 泊まりではないので、着替えなど大きな荷物を持ってく必要もない。

 いつものショルダーバッグに必要最低限の物と、スマホの充電器などを入れれば十分だろう。

(あとは、何かお土産になるお菓子を買って……)

 ルーズリーフに持っていく荷物をピックアップし、花音は冷静に準備を進めていく。

 幸い飛行機は、昼前に羽田空港に着く便を予約できた。

「よし、早めに寝よう……」

 明日は何も予定がなかったのでブラッと実家に帰るつもりだったが、「急用ができたので」と母に断っておいた。

「待ってて、秀真さん」

 布団に入って目を閉じ、秀真に向かって呟く。

 早く寝ようと思っていたが、興奮してなかなか寝付く事ができなかった。




 翌日、新千歳空港を十一時発、羽田空港に十二時四十分に着いた花音は、あれこれ迷いながらも、なんとか港区にある総合病院近くまで辿り着いた。

 さすがに空腹になったので、近くにあった店でスパゲッティを食べる。

 本当なら東京のお洒落な店でスパゲッティ……と言うと、嬉しくなって写真を撮ったかもしれない。

 だが今はそんな気持ちになれず、美味しいはずの食事も味わえないまま、面会時間になるのをただ待った。

 十三時になるまで待ち、そのあと会計を済ませて病院に向かう。

 春枝からは『二人きりの方がいいだろうから、私は野暮な事はしないでおくわね。病院側には、美樹花音さんがお見舞いに来ると伝えておくから、心配しないで』と連絡を受けていた。

 東京の総合病院は、建物が大きく近くまで行くと圧がある。

 それも、周りにもビルがそびえ立っているからなのだろう。

 慣れない土地の病院だからか、幾分緊張する。

 けれど受付に美樹花音だと名乗り、秀真の見舞いに来たと話すと、すんなりと病室への行き方を教えてくれた。

 複雑な院内を歩き、教えられたエレベーターに乗って階数ボタンを押す。

 ポーンと小さな電子音が鳴ってフロアに着くと、目の前にあるスタッフステーションでもう一度秀真に面会に来た旨を告げた。

 部屋番号を教えられ、いざ……と緊張して静かな廊下を歩く。

 かつて洋子が入院していた札幌の病室では、病室のドアが開きっぱなしでその中に各ベッドのカーテンが閉じ、または開いて患者がいるという状態だった。

 だがこのフロアは一部屋の面積が広いようで、スライド式の木目調ドアも閉じたままだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冷血弁護士と契約結婚したら、極上の溺愛を注がれています

朱音ゆうひ
恋愛
恋人に浮気された果絵は、弁護士・颯斗に契約結婚を持ちかけられる。 颯斗は美男子で超ハイスペックだが、冷血弁護士と呼ばれている。 結婚してみると超一方的な溺愛が始まり…… 「俺は君のことを愛すが、愛されなくても構わない」 冷血サイコパス弁護士x健気ワーキング大人女子が契約結婚を元に両片想いになり、最終的に両想いになるストーリーです。 別サイトにも投稿しています(https://www.berrys-cafe.jp/book/n1726839)

隠れ御曹司の愛に絡めとられて

海棠桔梗
恋愛
目が覚めたら、名前が何だったかさっぱり覚えていない男とベッドを共にしていた―― 彼氏に浮気されて更になぜか自分の方が振られて「もう男なんていらない!」って思ってた矢先、強引に参加させられた合コンで出会った、やたら綺麗な顔の男。 古い雑居ビルの一室に住んでるくせに、持ってる腕時計は超高級品。 仕事は飲食店勤務――って、もしかしてホスト!? チャラい男はお断り! けれども彼の作る料理はどれも絶品で…… 超大手商社 秘書課勤務 野村 亜矢(のむら あや) 29歳 特技:迷子   × 飲食店勤務(ホスト?) 名も知らぬ男 24歳 特技:家事? 「方向音痴・家事音痴の女」は「チャラいけれど家事は完璧な男」の愛に絡め取られて もう逃げられない――

異世界王子のシェアライフ

あさとよる
恋愛
男なんて懲り懲りだ。十年も交際していた男に結婚間近で破棄された透子は、新婚生活の為に購入した新築物件で一人暮らしを始めていた。お一人様を堪能していた矢先、透子の城(家)に露出狂が現れた!! 見た目はムキムキの金髪イケメン外国人。そんな不審者に助けを求められて始まったのは、奇妙で楽しい同居生活? ※下ネタ乱用、下品なラブコメw 〜転生ではなく、逆転移系ロマンス〜

黒の王と白の姫

臣桜
恋愛
ミルフィナ王国の王女ブランシュは、幼い頃から婚約していたノワールと結婚するため、アクトゥール王国に輿入れした。 先王が崩御してノワールが国王となったのだが、アクトゥール王国は真っ黒に染まり、食べ物までもが黒い始末。 人々は黒い服を身に纏い、貴族たちは黒い仮面を被っていた。 そんな異様な国のなかで、ブランシュは……。 ※エブリスタ、カクヨム、小説家になろうにも転載しています

長い片思い

詩織
恋愛
大好きな上司が結婚。 もう私の想いは届かない。 だから私は…

夫を愛することはやめました。

杉本凪咲
恋愛
私はただ夫に好かれたかった。毎日多くの時間をかけて丹念に化粧を施し、豊富な教養も身につけた。しかし夫は私を愛することはなく、別の女性へと愛を向けた。夫と彼女の不倫現場を目撃した時、私は強いショックを受けて、自分が隣国の王女であった時の記憶が蘇る。それを知った夫は手のひらを返したように愛を囁くが、もう既に彼への愛は尽きていた。

【完結】伯爵の愛は狂い咲く

白雨 音
恋愛
十八歳になったアリシアは、兄の友人男爵子息のエリックに告白され、婚約した。 実家の商家を手伝い、友人にも恵まれ、アリシアの人生は充実し、順風満帆だった。 だが、町のカーニバルの夜、それを脅かす出来事が起こった。 仮面の男が「見つけた、エリーズ!」と、アリシアに熱く口付けたのだ! そこから、アリシアの運命の歯車は狂い始めていく。 両親からエリックとの婚約を解消し、年の離れた伯爵に嫁ぐ様に勧められてしまう。 「結婚は愛した人とします!」と抗うアリシアだが、運命は彼女を嘲笑い、 その渦に巻き込んでいくのだった… アリシアを恋人の生まれ変わりと信じる伯爵の執愛。 異世界恋愛、短編:本編(アリシア視点)前日譚(ユーグ視点) 《完結しました》

聖女ですが運命の相手は魔王のようです

臣桜
恋愛
ランディシア王国の第二王女アリシアは、十八歳になり聖女の役目を前聖女から継承しようとしていた。だが儀式の最中、彼女を三百年待ったという吸血鬼の魔王バルキスが姿を現した。 「約束」通りアリシアを迎えに来たバルキスだが、氷の聖女の容赦のない攻撃で灰になる!何度でも灰になる! めげない魔王とクーデレ聖女のラブコメ短編、ゆるっとお楽しみください。 ※ 数年前に書いたものを軽く直した程度ですので、あまりクオリティには期待しないでください。 ※ 表紙はニジジャーニーで作製、自分でロゴをつけました。

処理中です...