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GW後半 編
ブレない芯
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「大丈夫だと思う。尊から少しだけ聞いたけど、宮本さんはあっちで結婚して幸せにやってるって言うし、尊と朱里ちゃんも結婚目前で幸せオーラ一杯。いくら尊と宮本さんが過去に男女の仲だったとしても、お互い変な空気にする奴らではないと思う」
私はそれを聞いてホッとし、思った事を尋ねる。
「涼さんって宮本さんに会った事ありますか?」
「あるよ」
彼はもう一口コーヒーを飲み、何かを思い出すように少し遠くを見た。
「……いい人だったと思うよ。サバサバしていて嫌みのない感じで、一緒にいて気持ち良かった。俺を見ても〝女〟を見せなかったし、むしろでっかい口を開けて笑って、男の前でもビールをガバガバ飲んでにんにく料理を食べて、……清々しかったな」
「……涼さんも、そういう人を好ましく思う?」
もう一歩踏み込んで聞くと、彼は私を見てニコリと微笑んだ。
「恵ちゃんもそのタイプだと思うよ。まるっきり宮本さんと同じとは言わないけど、男に媚びないのは同じ。……大体の人は恋人や配偶者がいても、『魅力的』って言われたら気分がいいと思う。あまり深い意味で言われたら気持ち悪いかもしれないけど、褒め言葉としてなら喜ぶと思う」
確かに、と思って私は頷く。
私はそういうタイプじゃないし、「魅力的だね」って言われても、何とも思っていない相手なら「あ、どもっす」と思って終わりだ。
けど一般的に、そういう人がいてもおかしくないと思って同意した。
「だから少し格好いい男とか、綺麗な女性がいたら、髪や服装が乱れてないか気にする気持ちは理解する。……でも、恵ちゃんや宮本さんは、誰を前にしてもフラットな印象で、素の自分を見せる事を怖れていない。それが俺の目には『自分に自信があるんだな』って思えて好ましく思えるんだ」
「私、自分に自信なんてないですけど。むしろ、自己肯定感が低いほうで……」
涼さんが淹れてくれたコーヒーは、コクがあって味わい深くてとても美味しい。
「お菓子、食べていいですか?」と尋ねると、涼さんは「どうぞ、お好きに」と答えてくれたので、美味しそうなチョコレートを口に入れた。
「おいひい……」
彼は高級チョコを味わっている私を見て微笑んだあと、会話の続きをする。
「恵ちゃんは確かに色々あって、大きくプライドを傷つけられたと思う。でも……、それとは別の意味で、『誰かに好かれよう』って頑張らなくても生きていける強さがあるっていうか……。多分、今までは朱里ちゃんがいるから他の人は要らないって思ってたんだろう。でも、そういう生き方ってなかなかできないよ」
「……そうでしょうか」
自信なさげに答えると、彼はしっかり頷く。
「人って不特定多数の人に認められ、褒められて何とか自分を保とうとする。SNSでのいいねもその一環だ。でも恵ちゃんは身近にいる朱里ちゃんさえ自分を肯定してくれたら、他の人にはどう思われてもいいっていう強さがあるじゃないか。大体の人は、リアルの友達に肯定してもらう他にも、ネットで繋がった人に認められたいとか、職場の人に褒められたいとか、色んな所で自分の価値を確かめたがるものだ」
噛み砕いて言われると、確かに私はSNSなんてどうでもいいし、必要以上に職場の人に愛想を振りまかない。
「恵ちゃんは確かに繊細なところがあるだろうけど、体の奥に一本ブレない芯があるんだ。……宮本さんも強い信念のある人だった。……恵ちゃんはもっと自分に自信を持っていいよ。君は充分魅力的だし、透明感のあるまっすぐな目をしていて、立ち姿がスッとしていて、とても美しい」
「なっ……」
突然褒められ、私はマドレーヌをポロッと落とす。
慌てて拾ったけれど、袋から出す前だったからセーフだ。
「うっ……、美しいなんて……っ、美しい涼さんに言われたくないですよ!」
私はとっさに言い返したあと、すぐに落ち込む。
(駄目だ! こういうトコ可愛くない!)
自分にビシッと突っ込みを入れたあと、私は思い切って謝る。
「ごめんなさい! 今の可愛くなかったです」
ギュッと目を瞑って謝ると、涼さんは沈黙する。
恐る恐る顔を上げると、彼はクシャッと笑って手を延ばし、私の頭を撫でてきた。
「そういう潔い所も好きだよ」
「うっ、……うーっ、……ん”っ、……ん”ん……っ」
私は照れ隠しに何か言いそうになるのを、唇を歪めて必死に堪える。
「偉い、偉い」
涼さんは私の努力を見てニコニコ笑い、さらに褒めてきた。
ドッと疲れた私は、溜め息混じりに言う。
「……駄目なんですよ。兄二人と一緒に男同然に育てられたので、あまり弱音が吐けなくて意地っ張りな性格が身についてしまったんです。育てられ方が悪かったとは言いませんが、涼さんみたいに手放しに褒めてくれる人はいませんでした。……だから、褒められると照れちゃうんですよ」
「そこが可愛いと思うけどな」
涼さんは私の顔を覗き込んで微笑み、また頭を撫でてくる。
私はそれを聞いてホッとし、思った事を尋ねる。
「涼さんって宮本さんに会った事ありますか?」
「あるよ」
彼はもう一口コーヒーを飲み、何かを思い出すように少し遠くを見た。
「……いい人だったと思うよ。サバサバしていて嫌みのない感じで、一緒にいて気持ち良かった。俺を見ても〝女〟を見せなかったし、むしろでっかい口を開けて笑って、男の前でもビールをガバガバ飲んでにんにく料理を食べて、……清々しかったな」
「……涼さんも、そういう人を好ましく思う?」
もう一歩踏み込んで聞くと、彼は私を見てニコリと微笑んだ。
「恵ちゃんもそのタイプだと思うよ。まるっきり宮本さんと同じとは言わないけど、男に媚びないのは同じ。……大体の人は恋人や配偶者がいても、『魅力的』って言われたら気分がいいと思う。あまり深い意味で言われたら気持ち悪いかもしれないけど、褒め言葉としてなら喜ぶと思う」
確かに、と思って私は頷く。
私はそういうタイプじゃないし、「魅力的だね」って言われても、何とも思っていない相手なら「あ、どもっす」と思って終わりだ。
けど一般的に、そういう人がいてもおかしくないと思って同意した。
「だから少し格好いい男とか、綺麗な女性がいたら、髪や服装が乱れてないか気にする気持ちは理解する。……でも、恵ちゃんや宮本さんは、誰を前にしてもフラットな印象で、素の自分を見せる事を怖れていない。それが俺の目には『自分に自信があるんだな』って思えて好ましく思えるんだ」
「私、自分に自信なんてないですけど。むしろ、自己肯定感が低いほうで……」
涼さんが淹れてくれたコーヒーは、コクがあって味わい深くてとても美味しい。
「お菓子、食べていいですか?」と尋ねると、涼さんは「どうぞ、お好きに」と答えてくれたので、美味しそうなチョコレートを口に入れた。
「おいひい……」
彼は高級チョコを味わっている私を見て微笑んだあと、会話の続きをする。
「恵ちゃんは確かに色々あって、大きくプライドを傷つけられたと思う。でも……、それとは別の意味で、『誰かに好かれよう』って頑張らなくても生きていける強さがあるっていうか……。多分、今までは朱里ちゃんがいるから他の人は要らないって思ってたんだろう。でも、そういう生き方ってなかなかできないよ」
「……そうでしょうか」
自信なさげに答えると、彼はしっかり頷く。
「人って不特定多数の人に認められ、褒められて何とか自分を保とうとする。SNSでのいいねもその一環だ。でも恵ちゃんは身近にいる朱里ちゃんさえ自分を肯定してくれたら、他の人にはどう思われてもいいっていう強さがあるじゃないか。大体の人は、リアルの友達に肯定してもらう他にも、ネットで繋がった人に認められたいとか、職場の人に褒められたいとか、色んな所で自分の価値を確かめたがるものだ」
噛み砕いて言われると、確かに私はSNSなんてどうでもいいし、必要以上に職場の人に愛想を振りまかない。
「恵ちゃんは確かに繊細なところがあるだろうけど、体の奥に一本ブレない芯があるんだ。……宮本さんも強い信念のある人だった。……恵ちゃんはもっと自分に自信を持っていいよ。君は充分魅力的だし、透明感のあるまっすぐな目をしていて、立ち姿がスッとしていて、とても美しい」
「なっ……」
突然褒められ、私はマドレーヌをポロッと落とす。
慌てて拾ったけれど、袋から出す前だったからセーフだ。
「うっ……、美しいなんて……っ、美しい涼さんに言われたくないですよ!」
私はとっさに言い返したあと、すぐに落ち込む。
(駄目だ! こういうトコ可愛くない!)
自分にビシッと突っ込みを入れたあと、私は思い切って謝る。
「ごめんなさい! 今の可愛くなかったです」
ギュッと目を瞑って謝ると、涼さんは沈黙する。
恐る恐る顔を上げると、彼はクシャッと笑って手を延ばし、私の頭を撫でてきた。
「そういう潔い所も好きだよ」
「うっ、……うーっ、……ん”っ、……ん”ん……っ」
私は照れ隠しに何か言いそうになるのを、唇を歪めて必死に堪える。
「偉い、偉い」
涼さんは私の努力を見てニコニコ笑い、さらに褒めてきた。
ドッと疲れた私は、溜め息混じりに言う。
「……駄目なんですよ。兄二人と一緒に男同然に育てられたので、あまり弱音が吐けなくて意地っ張りな性格が身についてしまったんです。育てられ方が悪かったとは言いませんが、涼さんみたいに手放しに褒めてくれる人はいませんでした。……だから、褒められると照れちゃうんですよ」
「そこが可愛いと思うけどな」
涼さんは私の顔を覗き込んで微笑み、また頭を撫でてくる。
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