【R-18・連載版】部長と私の秘め事

臣桜

文字の大きさ
440 / 780
彼と彼女のその後 編

誕生日、いつ?

しおりを挟む
「私、そういう食べ方をする発想がなかったです。もらい物をした時は、箱から直接食べてました」

「そりゃあ、好きな子の前なら格好つけないと」

 不意打ちを食らった私は、「うぐ……」と黙り込む。

 タワマンは地上から離れているだけあって、喧噪が聞こえなくて静かだ。

「ここ、揺れますか?」

「自然災害の時は揺れるね。このビルの上層階はオフィスだけど、上の人たちはもっと揺れを感じるんじゃないかな。怖いと言えば怖いけど、しならせる事でボキッと折れないようにしている訳だから、まぁ仕方ないかなと思ってる」

「へぇー……」

 お菓子をセットし終えた涼さんは箱を片づけ、お湯が沸くのを待つ間にコーヒーカップを準備する。

 彼が出したのは深い群青色の有田焼のカップで、これも彼らしい趣味だなと感じた。

「恵ちゃんはどういうカップを使ってる?」

「ん? 朱里がプレゼントしてくれた、スターレックスの奴です」

 私も朱里もスタレが大好きで、新作フラペチーノが出たら必ず飲みに行っている。

 コーヒーショップが好きな割にコーヒーの善し悪しはあまりよく分からず、朱里と「そんなもんだよね~」と言っていた。

「へぇ、どんな? あそこ、タンブラーとか色々売ってるよね」

「私、夏生まれなんですが、海をイメージした可愛いマグカップがあって、誕生日プレゼントの一つとしてくれたんです。メインは彼女らしくコスメでしたが」

「誕生日、いつ?」

 ニコッと笑って尋ねられ、私はなんとなく嫌な予感を抱きつつ答える。

「七月二十五日です」

 すると涼さんはすぐスマホを出して何かを確認し、「……今なら休み取れそうかな」と呟いている。ちょっと待て。

「いや、あの。確か今年の誕生日は平日だったはずですし。その日は多分、会社が終わったあとに朱里とご飯を食べると思いますよ」

「木曜日だよね? 金、土、日が空いてるよね?」

 ニコニコ笑顔で尋ねられるけれど、……圧を感じる。

「……予定は入ってないですけど……。……涼さんの誕生日はいつですか?」

「十一月二十七日の射手座」

「朱里と誕生日が近いですね」

 一瞬「同じ星座の人を好きになりやすいのかな?」と思ったけれど、十二星座で人の性格を分けられたら堪ったもんじゃないので、その意見は下げておいた。

 でも朱里も涼さんも、表向きは人を受け入れているようで簡単には心に入れず、受け入れると決めたあとは、とても大切にするタイプだ。

「欲しい物はある?」

 お湯が沸く寸前に火を止めた涼さんは、ケトルを傾けてコーヒーをドリップしていく。

 イケメンは何をやっても格好いいな。

「あんまり物欲がないほうなので、特に思いつかないです」

「じゃあ、食? 旅行?」

「皆でワイワイ食べるご飯はなんでも好きです。旅行は……、好きって言えるほど行ってないですね」

 たまに朱里と温泉旅行や国内旅行はするけれど、あちこちに精通している訳じゃない。

「じゃあ、俺と近場に旅行してみる? 夏場で暑いから涼しい所がいいかな。それとも開き直って海のある所とか……」

「えっ?」

 いきなり涼さんと旅行する事になってしまい、頭がついていかない。

「北海道ならウニがシーズンだし、沖縄でソーキ蕎麦とか。近場の温泉でもいいのかな」

「いやいやいやいや……。ちょ、ちょっと急で……」

 慌てて両手を振ると、涼さんは朗らかに笑った。

「ごめん、嬉しくてまた先走ったみたいだ」

「今は五月で、七月って思ってるよりすぐだから、今すぐは無理でも検討してみて。誕生日の前の週は連休があるし、そっちにずらすともう少しゆっくりできるかも」

「……か、考えておきます」

 答えたあと、「そういえば朱里は、七月半ばの連休に広島に行くって言ってたっけ」と思いだした。

「……あの、涼さんは篠宮さんの事をよく知ってるんですよね?」

「そうだね、付き合いはそこそこ長いし、親友だと思ってる」

 コーヒーを淹れ終えた涼さんは、「ミルクと砂糖入れる?」と尋ねてきて、ミルクを所望した。

 そのあと私たちは、コーヒーとお茶菓子を持ってリビングに戻る。

「……七月に朱里が広島に行って、宮本さんっていう篠宮さんの元カノに会うって聞いたので、大丈夫かなって思って」

 心配している事を打ち明けると、彼はコーヒーを一口飲んで「ああ」と頷いた。
しおりを挟む
感想 2,463

あなたにおすすめの小説

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

【完結】広間でドレスを脱ぎ捨てた公爵令嬢は優しい香りに包まれる【短編】

青波鳩子
恋愛
シャーリー・フォークナー公爵令嬢は、この国の第一王子であり婚約者であるゼブロン・メルレアンに呼び出されていた。 婚約破棄は皆の総意だと言われたシャーリーは、ゼブロンの友人たちの総意では受け入れられないと、王宮で働く者たちの意見を集めて欲しいと言う。 そんなことを言いだすシャーリーを小馬鹿にするゼブロンと取り巻きの生徒会役員たち。 それで納得してくれるのならと卒業パーティ会場から王宮へ向かう。 ゼブロンは自分が住まう王宮で集めた意見が自分と食い違っていることに茫然とする。 *別サイトにアップ済みで、加筆改稿しています。 *約2万字の短編です。 *完結しています。 *11月8日22時に1、2、3話、11月9日10時に4、5、最終話を投稿します。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

拗れた恋の行方

音爽(ネソウ)
恋愛
どうしてあの人はワザと絡んで意地悪をするの? 理解できない子爵令嬢のナリレットは幼少期から悩んでいた。 大切にしていた亡き祖母の髪飾りを隠され、ボロボロにされて……。 彼女は次第に恨むようになっていく。 隣に住む男爵家の次男グランはナリレットに焦がれていた。 しかし、素直になれないまま今日もナリレットに意地悪をするのだった。

結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。

真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。 親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。 そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。 (しかも私にだけ!!) 社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。 最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。 (((こんな仕打ち、あんまりよーー!!))) 旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。

処理中です...