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大切な話 編
会いに行くんですか?
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やがて私たちはテーブルにつき、町田さんが調理を進めながら出してくれた料理を食べる。
アミューズブーシュはアスパラを細かく切った物をゼリー寄せにした一皿で、出汁の利いたゼリーの味も相まってとても美味しい。
続いてぶっといホワイトアスパラを丸ごと、コトコトと低温で茹で、オランデーズソースをかけた一品。
オランデーズソースとは卵黄とバター、レモン汁を用いた物で、エッグベネディクトにも使われている。
「うまーい!」
私は尊さんが開けた白ワインと共にアスパラを味わい、幸せ一杯の吐息をつく。
加えてアスパラと塩だけで作った透明なスープを飲み、ホタルイカと筍、色とりどりの温野菜がドレッシングで和えられた、見た目に華やかなサラダを食べた。
魚料理はオーブンで皮をパリッ、中はふっくらジューシーに焼いた鰆のソテー、肉料理は柔らかな仔羊のローストに、肉汁で作ったソースが掛かった逸品。
デセールは白くてプルンとしたブランマンジェに、苺とバニラのアイスを添え、苺のソースとフレッシュ苺を散らした可愛い一皿。
満腹になって美味しいコーヒーを飲み、小さなフィナンシェとショコラを摘まんで町田さんの春のコースが終わった。
「はぁー……、美味しかった! ごちそうさまです」
「美味しかったです」
町田さんは私たちの反応を見て満足げに笑い、テキパキと片付けをしている。
「お手伝いします」
立ちあがって町田さんの手伝いをしようとしたけれど、笑顔で断られてしまった。
「お二人はゆっくりお休みください。これは対価が発生する私のお仕事ですから」
そう言われると何も言えず、私はペコリとお辞儀をしてソファに戻った。
「……なんか、慣れませんね。家事を人にやってもらうって」
「確かに、今までずっと自分であれこれやっていたなら慣れないだろうな。特に掃除や洗濯は、他の人に自分の物を触られたくない人には抵抗があるかもしれないし」
「あー、そういうのありますね」
一人暮らしの時は仕事を終えて夜に洗濯機を回すのを避けていたので、週末にまとめて洗濯をする事が多かった。
なので今も週末に自分で洗濯をする事はあるけれど、平日は知らない間に溜まっていた洗濯物が片付いていて、部屋のベッドの上に綺麗に畳まれて置かれてある。
ありがたいといえばそうなんだけれど、下着も洗われているので気恥ずかしさはある。
やがてコーヒーと小菓子をつまんでいるうちに、町田さんは片付けを終えて「では」と帰っていった。
リビングにはビル・エヴァンスのジャズがかかり、私は満腹になってポーッとしながら音量を抑えた世界の絶景番組を見ている。
……と、先日帰宅した時も尊さんはビル・エヴァンスをかけて、窓辺で考え事をしていたな、と思いだした。
そして『三日寝かせる』とも。
「……あの、すっかり失念していたんですが、先週末に言っていた事は……」
「……ん」
尊さんは返事をし、私を見て切なげに笑ってから切りだした。
「先日、宮本が今住んでいる場所を知った」
「…………っ」
その言葉を聞いた瞬間、全身から血の気が引いたような感覚になり、ぞあっと鳥肌が立つ。
縋るように尊さんを見たけれど、彼は表情を変えていない。
(尊さんは動じてない。もう結論を出しているんだ)
そう思った私は、ドキドキ高鳴る胸を押さえて彼を見つめる。
「……会いに行くんですか?」
「先に伝えたいのは、宮本とやり直す気持ちはいっさいないという事だ。彼女はすでに結婚し、広島で幸せに暮らしている」
それを聞き、私はホ……ッと息を吐いて強張っていた体から力を抜く。
「先週末、風磨から宮本の身に何があったのかを聞いた。十年前、彼女は俺の前から何も言わずにいなくなり、俺は怜香の仕業だろうと見当をつけていたが、何が起こったか分からないまま過ごしていた」
「……それは、気になりますよね。小骨が喉に引っ掛かったみたいに」
私もずっと気になってはいた。
尊さんが語る宮本さんは嫌みのない素敵な女性で、二人は互いを信頼して愛し合っていた。
なのに二人は突然離ればなれになり、きっとお互い強い未練を持っていたと思う。
私も怜香さんが宮本さんに〝何か〟したと思っていたけれど、それさえなければ二人は今頃、別の人生を歩んでいたのだろうか。
「……私、宮本さんの事を知りたいです。婚約者として、あなたが抱える傷をすべて知って、今の尊さんを支えたい。……だから、教えてください」
正面から尊さんを見つめて言うと、彼は表情を緩めて微笑んだ。
アミューズブーシュはアスパラを細かく切った物をゼリー寄せにした一皿で、出汁の利いたゼリーの味も相まってとても美味しい。
続いてぶっといホワイトアスパラを丸ごと、コトコトと低温で茹で、オランデーズソースをかけた一品。
オランデーズソースとは卵黄とバター、レモン汁を用いた物で、エッグベネディクトにも使われている。
「うまーい!」
私は尊さんが開けた白ワインと共にアスパラを味わい、幸せ一杯の吐息をつく。
加えてアスパラと塩だけで作った透明なスープを飲み、ホタルイカと筍、色とりどりの温野菜がドレッシングで和えられた、見た目に華やかなサラダを食べた。
魚料理はオーブンで皮をパリッ、中はふっくらジューシーに焼いた鰆のソテー、肉料理は柔らかな仔羊のローストに、肉汁で作ったソースが掛かった逸品。
デセールは白くてプルンとしたブランマンジェに、苺とバニラのアイスを添え、苺のソースとフレッシュ苺を散らした可愛い一皿。
満腹になって美味しいコーヒーを飲み、小さなフィナンシェとショコラを摘まんで町田さんの春のコースが終わった。
「はぁー……、美味しかった! ごちそうさまです」
「美味しかったです」
町田さんは私たちの反応を見て満足げに笑い、テキパキと片付けをしている。
「お手伝いします」
立ちあがって町田さんの手伝いをしようとしたけれど、笑顔で断られてしまった。
「お二人はゆっくりお休みください。これは対価が発生する私のお仕事ですから」
そう言われると何も言えず、私はペコリとお辞儀をしてソファに戻った。
「……なんか、慣れませんね。家事を人にやってもらうって」
「確かに、今までずっと自分であれこれやっていたなら慣れないだろうな。特に掃除や洗濯は、他の人に自分の物を触られたくない人には抵抗があるかもしれないし」
「あー、そういうのありますね」
一人暮らしの時は仕事を終えて夜に洗濯機を回すのを避けていたので、週末にまとめて洗濯をする事が多かった。
なので今も週末に自分で洗濯をする事はあるけれど、平日は知らない間に溜まっていた洗濯物が片付いていて、部屋のベッドの上に綺麗に畳まれて置かれてある。
ありがたいといえばそうなんだけれど、下着も洗われているので気恥ずかしさはある。
やがてコーヒーと小菓子をつまんでいるうちに、町田さんは片付けを終えて「では」と帰っていった。
リビングにはビル・エヴァンスのジャズがかかり、私は満腹になってポーッとしながら音量を抑えた世界の絶景番組を見ている。
……と、先日帰宅した時も尊さんはビル・エヴァンスをかけて、窓辺で考え事をしていたな、と思いだした。
そして『三日寝かせる』とも。
「……あの、すっかり失念していたんですが、先週末に言っていた事は……」
「……ん」
尊さんは返事をし、私を見て切なげに笑ってから切りだした。
「先日、宮本が今住んでいる場所を知った」
「…………っ」
その言葉を聞いた瞬間、全身から血の気が引いたような感覚になり、ぞあっと鳥肌が立つ。
縋るように尊さんを見たけれど、彼は表情を変えていない。
(尊さんは動じてない。もう結論を出しているんだ)
そう思った私は、ドキドキ高鳴る胸を押さえて彼を見つめる。
「……会いに行くんですか?」
「先に伝えたいのは、宮本とやり直す気持ちはいっさいないという事だ。彼女はすでに結婚し、広島で幸せに暮らしている」
それを聞き、私はホ……ッと息を吐いて強張っていた体から力を抜く。
「先週末、風磨から宮本の身に何があったのかを聞いた。十年前、彼女は俺の前から何も言わずにいなくなり、俺は怜香の仕業だろうと見当をつけていたが、何が起こったか分からないまま過ごしていた」
「……それは、気になりますよね。小骨が喉に引っ掛かったみたいに」
私もずっと気になってはいた。
尊さんが語る宮本さんは嫌みのない素敵な女性で、二人は互いを信頼して愛し合っていた。
なのに二人は突然離ればなれになり、きっとお互い強い未練を持っていたと思う。
私も怜香さんが宮本さんに〝何か〟したと思っていたけれど、それさえなければ二人は今頃、別の人生を歩んでいたのだろうか。
「……私、宮本さんの事を知りたいです。婚約者として、あなたが抱える傷をすべて知って、今の尊さんを支えたい。……だから、教えてください」
正面から尊さんを見つめて言うと、彼は表情を緩めて微笑んだ。
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