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帰宅して 編

じゃれ合い

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「……どうしてですか?」

 心細そうな顔で言ったからか、尊さんはハッとして苦笑いする。

「悪い、言い方がまずかったな。ちょっと野暮用があって出かけるから、家に一人でいてもつまらないだろうし、たまには中村さんと遊んだら、彼女も嬉しいんじゃないかと思って」

「……ん、……そうですね……」

 私が知りたかったのは〝野暮用〟のほうだけれど、尊さんは二回目を言った時もそちらを掘り下げなかったので、聞いちゃいけないのだと察した。

(結婚するって言っても、それぞれの領分があるしね。本当に大切な事なら私に言ってくれるだろうし、……どうって事がないから言うまでもないんだろうな)

 自分に言い聞かせた私は、「うん」と頷いてから尊さんに抱きついた。

「……恵とイチャイチャしますからね~。あとからミト子に嫉妬されても入れてあげませんからね~」

「おや、秘密の花園か」

 尊さんはニヤリと笑って私の顎を軽くつまむ。

「うちのお猫様が他の猫の匂いをつけてきたら、一発で分かるからな。無限尻ポンポンの刑になるから、慎重に遊ぶんだぞ」

「なにそれ卑猥」

「予行練習してみるか?」

「えっ?」

 変な事を言われて顔を上げると、尊さんはニヤッと笑って私の体を抱え込み、横抱きにした。

 そしていわゆる〝お尻ペンペン〟の体勢をとると、私のスウェットパンツを下着ごと下ろした。

「やぁあっ! この体勢はだめっ! 恥ずかしい!」

 なんとか逃げようと体をくねらせると、尊さんはクスクス笑う。

「尻をプリプリ振るなよ。可愛くてもっと触りたくなる」

 そう言って尊さんは私のお尻を撫でてくる。

「やだっ、やだやだっ! こんな体勢恥ずかし……っ!」

 さらに暴れようと思った時――、尊さんの指が秘所に触れて私は頭の中を真っ白にさせて固まった。

「お、止まった」

 尊さんは興味深そうに言い、Tシャツの胸の先端――乳首のある辺りをカリカリと引っ掻いてきた。

「んっ…………、ぅー……。んっ」

 両手を突っ張らせていた私は、バッと伏せをして、尊さんの手から逃れようとする。

 けれど彼は私の体の下に手を潜り込ませた挙げ句、ワシャシャシャシャと脇腹をこちょばしてきた。

「ひははははははははは! んーっ!」

 私は尊さんの膝の上で悶え、体をクネクネさせて笑ったあと、ダンゴムシのように体を丸めてガードする。

「ほーら、尻ポンポンだ」

 尊さんは悪役のような声を出し、強制的に尾てい骨の辺りをポンポンポンポン叩いてきた。

「ううーっ! なんたる屈辱! けしからん!」

 顔を真っ赤にして文句を言うと、尊さんは手を止めてクスクス笑い出す。

「お前、ときどき物言いが武士みたいになるよな」

 そう言われ、色々盛り上がっていた気持ちがスンッと収まる。

 ムクリと起き上がった私は、真顔で尊さんに尋ねた。

「……なんなんでしょうね? これ。前から言ってた気がします」

「俺としては面白いからいいけど」

「いざという時の彼女の口癖が、武士だったらやじゃないです? ……直したほうがいいのかな」

「喧嘩した時に『切腹しろ!』って言わないなら、範疇じゃないか?」

「ひひひひひ」

 私は笑いながら床の上にドテッと落ち、さらに笑いながらズボンをずり上げる。

「……はぁ……」

 溜め息をついて座り直したあと、膝を抱えてとどめの溜め息をついた。

「……百合さん、武士みたいな孫嫁をどう思うかな」

「いいんじゃないか? 愛嬌のあるほうが好かれるよ。元気よく『なんでも食べます』って言った時点で、大体の印象は決まったと思うし」

「……マジか……」

 私はボソッと呟き、額を膝につける。

「食いしん坊、気にしてるのか?」

「……なんか卑しくないです?」

 尊さんに事あるごとに『食いしん坊』と言われているのは、愛情ゆえのいじりと分かっている。

 でも彼以外の人、特に年配の方を相手にすると、あまりいい事じゃないのかな? と心配になってしまった。
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