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祖父母と孫 編
次に遊びに来た時
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――やっとここまでこられた。
私は彼のスッとした座り姿を見て、そう感じる。
好きな人ができて両想いになり、結婚の意志を固めたあとは両親への挨拶になる。
けれど篠宮家では怜香さん絡みで大きな騒ぎになり、速水家ではさゆりさんが勘当されていた。
上村家は継兄妹でちょっとごたついたけれどほぼ問題なかったものの、尊さんの側はどうなる事かと思っていた。
(これでやっと結婚に向けて安心して進めるのかな。あとは指輪をちゃんと決めて……)
尊さんに連れて行ってもらったハイジュエリーブランドの品々を思い出し、また果てなき旅に戻るのかと思うと、ちょっと気が重たい。
どれも素敵だけど、一生身につける相棒とくればちゃんと選ばなければ。
二人で協力しあってはじめて婚約、結婚ができるんだから。
尊さんは長めに礼拝していたけれど、やがて静かに座布団の上からおりて私に場を譲ってくれる。
私もお墓参りのために持ってきた数珠を手に輪をかけ、線香に火を付けて香炉に立ててからおりんを鳴らした。
線香の香りがくゆる中、私は静かに目を閉じる。
(さゆりさん、あかりちゃん、ここにお参りする事ができて本当に良かったです。きっとお二人とも、ここから百合さんと将馬さんの事を見守っていたかと思います。百合さんは本当は怒ってなんてなかった。亡くなったあとに知るのはつらい事だけれど、親子ですからきっと心の底では分かっていたのではないかと思います。どうかこれからも速水家の皆さんを見守り、尊さんと私の事もお守りください。……〝次〟の世代に繋げられるよう、子供ができた時はその子もお守りください。その時は必ずご挨拶に来ますね)
私は最後に顔を上げると、二人の遺影に微笑みかける。
それから座布団の上から膝をずらし、百合さんに頭を下げた。
「……何か甘い物でも食べましょうか。ついまじめな話になりがちなのは分かっているけれど、楽しい話も聞きたいわ。良かったら二人の事や結婚についても教えてちょうだい」
「はい!」
笑顔になった私たちはまたリビングに向かい、小牧さんたちがすでに用意してくれていたケーキと温かい紅茶をいただく。
「尊くん、今からでもいいから、どんどんお祖母ちゃんの事を知っていくといいわ。お祖母ちゃんはね、栗のお菓子が好きなの。それからわらび餅や葛きりとか、プルプルしたのも好きよ」
ちえりさんに言われ、尊さんは「覚えておきます」と微笑む。
「お祖父ちゃんはシンプルにショートケーキが好きよね。あとお団子も好きだわ。あっ、二人とも最近は加齢と共に魚ばっかり食べてるから、私たち積極的にお肉を食べさせてるの。でもサシのあるのはもたれるから、赤身ね」
小牧さんが言い、シャインマスカットのショートケーキをパクパク食べる。
と、百合さんが言った。
「尊と朱里さんはどうなの? 次に遊びに来た時、用意したほうがいいお菓子を教えてちょうだい」
〝次〟の事を言われ、私はパァッと笑顔になると尊さんの手を握った。
「……俺は甘さ控えめの栗きんとんや、水羊羹は好きかもしれません。食べられない訳ではないのですが、ホイップ系はあまり得意ではなくて。デザート代わりに食べるのは、フルーツが多いと思います」
「私はなんでも食べます!」
張り切って言ったからか、百合さんはおかしそうに笑い始めた。
「……失礼。なんとなく思っていたけれど、元気なお嬢さんよね。目がキラキラしていて光り輝くようだわ」
「そ、そんな……」
食いしん坊を発揮して笑われてしまって恥ずかしいのと、褒められて照れくさいのとで、私は言葉を迷わせる。
けれど大切な事を伝えようと思った。
「私、父を亡くして中学生頃に絶望していたんです。でもその時に尊さんに命を救われました。当時彼は偽名を名乗って私の前に二度と現れないつもりでいたみたいですが、巡り巡って今こうしてお付き合いできています。父を亡くした心の傷から、私はあまり友達のいない可愛げのない子供で、大人になってもそれを引きずっていました。前に付き合っていた彼氏にも、面白みのない女扱いされていたと思います」
みんな私の話をまじめに聞いてくれ、父を亡くしたと知って気の毒そうに視線を落とした。
「でも、今はとても幸せです。尊さんに出会って愛されて、生きていていいんだと思えています。彼と一緒にいるととても楽しくて、今までの自分からは想像もつかない陽気な自分が出てくるんです。……それは尊さんも同じで、私たちはお互いの存在に救われていま明るく振る舞えていると思っています」
私の言葉のあと、尊さんが付け加える。
「それは大いにある。……俺、物凄く暗い男で、友人からも『負のオーラが出ている』とお墨付きだったんですよ。……でも今は『幸せそうで良かった』と言ってもらえています」
彼の言葉を聞いてみんな満足そうに笑った。
その時、弥生さんがハッとして言った。
私は彼のスッとした座り姿を見て、そう感じる。
好きな人ができて両想いになり、結婚の意志を固めたあとは両親への挨拶になる。
けれど篠宮家では怜香さん絡みで大きな騒ぎになり、速水家ではさゆりさんが勘当されていた。
上村家は継兄妹でちょっとごたついたけれどほぼ問題なかったものの、尊さんの側はどうなる事かと思っていた。
(これでやっと結婚に向けて安心して進めるのかな。あとは指輪をちゃんと決めて……)
尊さんに連れて行ってもらったハイジュエリーブランドの品々を思い出し、また果てなき旅に戻るのかと思うと、ちょっと気が重たい。
どれも素敵だけど、一生身につける相棒とくればちゃんと選ばなければ。
二人で協力しあってはじめて婚約、結婚ができるんだから。
尊さんは長めに礼拝していたけれど、やがて静かに座布団の上からおりて私に場を譲ってくれる。
私もお墓参りのために持ってきた数珠を手に輪をかけ、線香に火を付けて香炉に立ててからおりんを鳴らした。
線香の香りがくゆる中、私は静かに目を閉じる。
(さゆりさん、あかりちゃん、ここにお参りする事ができて本当に良かったです。きっとお二人とも、ここから百合さんと将馬さんの事を見守っていたかと思います。百合さんは本当は怒ってなんてなかった。亡くなったあとに知るのはつらい事だけれど、親子ですからきっと心の底では分かっていたのではないかと思います。どうかこれからも速水家の皆さんを見守り、尊さんと私の事もお守りください。……〝次〟の世代に繋げられるよう、子供ができた時はその子もお守りください。その時は必ずご挨拶に来ますね)
私は最後に顔を上げると、二人の遺影に微笑みかける。
それから座布団の上から膝をずらし、百合さんに頭を下げた。
「……何か甘い物でも食べましょうか。ついまじめな話になりがちなのは分かっているけれど、楽しい話も聞きたいわ。良かったら二人の事や結婚についても教えてちょうだい」
「はい!」
笑顔になった私たちはまたリビングに向かい、小牧さんたちがすでに用意してくれていたケーキと温かい紅茶をいただく。
「尊くん、今からでもいいから、どんどんお祖母ちゃんの事を知っていくといいわ。お祖母ちゃんはね、栗のお菓子が好きなの。それからわらび餅や葛きりとか、プルプルしたのも好きよ」
ちえりさんに言われ、尊さんは「覚えておきます」と微笑む。
「お祖父ちゃんはシンプルにショートケーキが好きよね。あとお団子も好きだわ。あっ、二人とも最近は加齢と共に魚ばっかり食べてるから、私たち積極的にお肉を食べさせてるの。でもサシのあるのはもたれるから、赤身ね」
小牧さんが言い、シャインマスカットのショートケーキをパクパク食べる。
と、百合さんが言った。
「尊と朱里さんはどうなの? 次に遊びに来た時、用意したほうがいいお菓子を教えてちょうだい」
〝次〟の事を言われ、私はパァッと笑顔になると尊さんの手を握った。
「……俺は甘さ控えめの栗きんとんや、水羊羹は好きかもしれません。食べられない訳ではないのですが、ホイップ系はあまり得意ではなくて。デザート代わりに食べるのは、フルーツが多いと思います」
「私はなんでも食べます!」
張り切って言ったからか、百合さんはおかしそうに笑い始めた。
「……失礼。なんとなく思っていたけれど、元気なお嬢さんよね。目がキラキラしていて光り輝くようだわ」
「そ、そんな……」
食いしん坊を発揮して笑われてしまって恥ずかしいのと、褒められて照れくさいのとで、私は言葉を迷わせる。
けれど大切な事を伝えようと思った。
「私、父を亡くして中学生頃に絶望していたんです。でもその時に尊さんに命を救われました。当時彼は偽名を名乗って私の前に二度と現れないつもりでいたみたいですが、巡り巡って今こうしてお付き合いできています。父を亡くした心の傷から、私はあまり友達のいない可愛げのない子供で、大人になってもそれを引きずっていました。前に付き合っていた彼氏にも、面白みのない女扱いされていたと思います」
みんな私の話をまじめに聞いてくれ、父を亡くしたと知って気の毒そうに視線を落とした。
「でも、今はとても幸せです。尊さんに出会って愛されて、生きていていいんだと思えています。彼と一緒にいるととても楽しくて、今までの自分からは想像もつかない陽気な自分が出てくるんです。……それは尊さんも同じで、私たちはお互いの存在に救われていま明るく振る舞えていると思っています」
私の言葉のあと、尊さんが付け加える。
「それは大いにある。……俺、物凄く暗い男で、友人からも『負のオーラが出ている』とお墨付きだったんですよ。……でも今は『幸せそうで良かった』と言ってもらえています」
彼の言葉を聞いてみんな満足そうに笑った。
その時、弥生さんがハッとして言った。
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