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彼の祖父母 編

松濤の篠宮家

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「……なに、その顔」

 恵は私の顔を見て、不審げな表情になる。

「……四人でランド行けたらいいね……」

 ネチャア……と笑うと、恵はすべてを察してうんざりした顔になる。

「またそれ? 大体、朱里だってその人に会ってないんでしょ?」

「会ってないけど~……、いずれくる未来の話」

「ラノベのタイトルみたいに言うな」

「てへっ」

「可愛く笑っても駄目」

「も~……」

 下唇を突き出してむくれると、恵は手を伸ばして私の腕をトントンと叩いてくる。

「最初からデートの相手って言われたら、抵抗が生まれるのは理解して。どんな人か分からないのに〝相手〟って言われるの、複雑だから」

「……うん、ごめん。半分は冗談だったんだけど」

「分かってる。朱里はそういう事を言わない」

 その言葉の中に色んな感情、意味が含められていて、私は頷きながら微笑む。

「まー、普通に友達候補として紹介するならいいよ? そのあと友達になるかどうかは、私が決める。例の人の親友だからといって、私にとっていい人とは限らない。もしかしたら、一緒にいるだけでイライラする人かもしれない。でも、もしかしたら気が合うかもしれない」

「うん」

 恵の、こうやって公平に考えてくれるところが好きだ。

「ま、全部向こうの奢りで、朱里と一緒に泊まりでランド楽しめるのはありがたいけどね」

 恵らしい言い方を聞き、私はクシャッと笑った。



**



 その週は平日が四日だけで、木曜日まで働いたあと金曜日に手土産などの用意をし、土曜日に松濤にある篠宮家へ向かう事となった。

 私はベージュのワンピースを着て、控えめなパールアクセサリーをつけ、まとめ髪にした上でコートを羽織った。

 尊さんは「外れないから」と、ネイビーのスーツを身に纏っている。

 松濤の一丁目、二丁目、神山町は、特に豪邸が建っている場所らしく、付近を通ってもあまり地元の人が歩いている気配はなく、シンとしている。

 一軒あたりの面積も信じられないぐらい広く、塀がどこまでも続いている。

 尊さんは車を篠宮邸の前に停め、スマホのメッセージでお祖父さんに到着した事を知らせた。

 すると通りに面したガレージが開き、彼はその中に車を停めた。

「こっち」

 尊さんはガレージの横手にあるドアから外に出て、塀の内側に出る。

「わぁ……」

 塀の中に隠れていたのは和風の豪邸で、石灯籠などがある日本庭園が広がっていた。

 庭には椿の花が咲いていて、小さな太鼓橋が架かった池まである。

「あそこって鯉いるんですか?」

「いるよ。今は冬だからジッとしてると思う」

 私は目を見開いたまま、うんうんと頷き、尊さんに連れられるまま玄関に向かった。

 尊さんが簾戸すどの横にあるチャイムを押すと、女性の声で「どうぞお入りください」という返事があった。

「家政婦さんだ」

 彼に説明され、私はコクンと頷く。

 コートを脱いでから緊張して玄関に入ると、思っていた以上に広い空間になっていて、お屋敷の裏手にある庭を望める大きな窓があった。

 その脇には丸いガラステーブルとソファのセットがあり、多分ちょっとしたお客さんならここで応接するのかもしれない。

「いらっしゃい」

 初めて入る豪邸に圧倒されていたけれど、柔らかな雰囲気の声がし、私はハッとしてそちらを見る。

 すると銀鼠の着物を着た老婦人と、家政婦さんらしき五十代の女性がこちらにやってくるところだ。

「久しぶりね、尊。そしてあなたが朱里さん? 初めまして。篠宮琴絵ことえです」

 尊さんの祖母――琴絵さんは、可愛らしいお嬢さんがそのまま歳を重ねた雰囲気を持っていた。

 お祖父様は矍鑠かくしゃくとした方と窺っていたから、このおっとり感が亘さんに継がれたのかもしれない。

「初めまして、上村朱里と申します。本日はご多忙ななか、お時間を作っていただきありがとうございます」

 ペコリと頭を下げると、琴絵さんは目を細めて微笑んだ。
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