【R-18・連載版】部長と私の秘め事

臣桜

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元彼に会う前に 編

ちょっと君、来なさい

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「あ! そうだった!」

 私はハッとして顔を上げると、ピョンと尊さんの膝から下りる。

「あぁ……、朱里の温もりが……」

 尊さんが残念そうに言うものだから、私はクスクス笑いながら自分の席に戻る。

「同棲するようになったら、毎日抱き枕させてあげますから」

「お? 言質を取ったぞ? 毎日抱かせてくれるんだな?」

「そうじゃない! 毎日エッチしてたら体が持ちません!」

 私はクワッと目を見開き、恐い顔をしてみせる。

「……チッ、『うん』って言わせようと思ったのに……」

「やり方がせこいんですよ。消費者を騙すようなやり方をしてたら、消費者センターにいいつけますからね。そのうち『※個人の感想です』みたいなこと言ったりして」

「朱里を毎日抱くと風邪を引かない。……※個人の感想です」

「ほら始まった、尊さんの悪ノリ……」

 私はしかめっつらをしてから噴き出し、尊さんも一緒になって笑う。

 そしてまた穏やかな雰囲気に戻った私たちは、たわいのない会話をしながら食事をした。





「じゃあ、私一度帰ります」

 食事と片付けを終えてシャワーを浴びたあと、歯を磨いた私はコートを着ようとする。

「なんで?」

「え? なんでって……。着替えないとなりませんし」

 目を瞬かせて返事をすると、尊さんは「ちょっと君、来なさい」と言って私の手を握り、歩いていく。

 着いたのは私に宛がわれた部屋で、彼が何をしたいんだか分からない私は、立ち止まって首を傾げる。

「クローゼット開けてみ」

「はぁ……」

 室内のクローゼットは、壁の一面をまるまる使った豪華な物だけど、そこにはルームウェアぐらいしか入っていないはずだ。

(なんじゃろ)

 白い折れ戸を開いた私は、「ん!?」と目を見開いて固まった。

 クローゼットの中には、見た事のないレディースの服が沢山掛かっていた。

「朱里の大体のサイズは把握してるから、うちに泊まった時でも着替えに戻らなくて済むように、ある程度の物を揃えておいた」

「ほええ……」

 私は呆然としつつ、手近にあったブラウスを見てみた。

 鮮やかな花柄のブラウスはめちゃくちゃ私好みで、某GGマークの物だ。

 他にも白いボウタイブラウスやシンプルなトップスもあり、さらにスカートやワンピース、アウターなど、私の好みドンピシャなアイテムが揃っていた。

 お洒落着だけでなく、カジュアルなトレーナーやパーカー、ジーンズもあり、ルームウェアやパジャマも揃っている。

 服だけでなく、隅にある引き出しにはやはり私が普段好んで来ている色味のセーターやベルトなどもあり、未開封のシューズボックスやバッグの入った箱も積まれてあった。

「はああ……」

 溜め息をついた私は、眉を下げて尊さんを見る。

「……初孫を喜ぶお爺ちゃんみたい……」

「おい! 第一声がそれか!」

 尊さんは思いっきりガッカリした顔で、私に突っ込みを入れる。

「総額幾ら掛かりました? どれもブランド物ですし……、むぐ」

 そう言った途端、尊さんが私の顎を掴んで親指を唇に押しつけてきた。

「躾その一とその二は?」

 クリスマスデートの時に言われた事を尋ねられ、私はおずおずと返事をする。

「値段を気にしない。遠慮しない」

「Exactly」

 尊さんはあの時と同じ返事をし、私の肩を抱いてくる。

「好きな女に自分の買った服を着せるって、やってみたかったんだよ」

「アカリちゃん人形ですか……」

 私は彼の胸板に顔を寄せ、苦笑いして言う。

「まだ少ししか買ってないし、朱里の手持ちも入れたいだろうから、これからデートを重ねて服を買っていこう。アクセサリーや帽子とかもだし、……下着もな」

「もう……」

 私は真っ赤になって文句を言いながらも、彼の体に腕を回しギュッと抱き締める。

「あんまり甘やかすと、あとが怖いんですからね?」

「無添加の最高級カリカリも用意しておく」

「だから猫じゃないですって」

 ポンッと尊さんの胸板を叩くと、彼はクスクス笑う。

「ま、キャットタワーはホテルや旅行先のタワーで我慢してもらって、爪とぎは……、ここな」

 そう言って、尊さんは私をギュッと抱き締め、手を背中に回させる。

 行為中に気持ちよすぎて爪を立ててしまった事を思いだし、私はカーッと赤面した。

「せっかく美人猫を手に入れたんだから、下僕として世話を焼かせていただきますとも。朱里の綺麗な毛並みのためなら、何でもする」

 尊さんは優しく微笑むと、私の手をとって甲に口づけた。

「……も、もぉぉ……」

 照れて赤面した私は彼の胸板に額をつけ、グリグリと顔を押しつける。

「……じゃあ、せっかくだから服、着させてもらいます。……あ、ありがとうございます……」

「OK。……よし! 元彼に会いに行くのに、イマカレが贈った服を着る彼女、最高!」

 明るく言った尊さんの言葉を聞き、私はガクッと脱力したのだった。



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