195 / 778
実家に挨拶 編
美奈歩は頑張ってくれてる
しおりを挟む
階段前には尊さんがいて、私たちはチラッと視線を交わして「……お、おう」みたいな顔をする。
「朱里、美奈歩さんが話をしたいって」
けれど尊さんにそう言われ、とうとう決着をつける時がきたのだと覚悟した。
美奈歩は階段に座ったので、私は尊さんの隣に座る。
継妹はしばらく私を見つめたあと、一つ溜め息をついて尋ねてきた。
「私の事、嫌い?」
「え? なんで?」
ズバッと尋ねられ、私もズバッと素で聞き返す。
「嫌いじゃないよ。逆に美奈歩こそ、私の事嫌いじゃない? 今まで私がいるとわざとらしく溜め息ついたり、言葉に棘があったりで、快く思われてないんだなっていうのは感じていたけど」
「……お父さんやお兄ちゃんに、私の目の前でわざとらしく甘えていなかった?」
「なんですと?」
初耳だったので、思わずまた聞き返してしまった。
「……そんな事、した覚えないけど……」
これ以上ない、チベットスナギツネみたいな真顔で言うと、美奈歩は困惑する。
私はなるべく美奈歩を刺激しないように言葉を選びながら、自分が感じていた事を説明した。
「……悪く言ってるように感じたら申し訳ないけど、最初はどう接したらいいか分からなくて、お継父さんと亮平の事を完全に他人扱いしていた。亮平は仲良くなろうとしてくれてたみたいだけど、私にはその距離感が合わなくて、逆に警戒してしまった。……この辺は本人と先日会って話す機会があって、誤解がとけた……と思っているけど」
そう言うと、美奈歩もおずおずと頷く。
「……私も、先日お兄ちゃんからちょっと……言われた。『お互い言葉が足りてない』って」
きっと横浜の日のあとだ。亮平、一応言ってくれてたんだ。
「……言われて『確かにそうかも』って思って、色々考えた。……私は私なりの理由があって、……確かに、……ちょっと避けたり冷たい態度をとってしまっていた。……ムカついていたのは事実だけど、今、……『嫌い?』って聞いても訳分からない顔をしてたし、……やっぱりお兄ちゃんが言ってたみたいに、言葉足らずなのかもって思った」
彼女はボソボソと、時々言葉を止めては考え、少しずつ自分の気持ちを打ち明ける。
(美奈歩は頑張ってくれてる)
俯いて、とても恥ずかしそうで、言いづらそうな表情を見ていれば、物凄く頑張ってくれているのが分かる。
(私も歩み寄らなきゃ。きっと今しかない)
覚悟を決めた私は、小さく息を吸って自分の気持ちを伝える。
「……私も、今まで嫌な態度をとってごめん。『美奈歩は私を嫌っている』と思い込んで、直接気持ちを聞いた訳でもないのに決めつけてた。それで対話するのを面倒くさがって避けてた」
私の言葉を聞いて美奈歩はコクンと頷き、しばらく〝次〟の言葉を考える。
私も何か言おうと思うんだけど、なかなかいい言葉が見つからない。
美奈歩が私に突っかかってきたのは、大好きな亮平が私を気にしてる事も大きいと思う。
けど、亮平から直接気持ちを聞いたとはいえ、『亮平が私を意識してた』なんて自意識過剰みたいで言いづらい。
その時、どうにもならない空気を読んで尊さんが挙手した。
「私からも補足させてもらいます。亮平さんは美奈歩さんにとって、〝いいお兄さん〟だったでしょう? 優しくて頼りがいがあって、性格は温厚で滅多に怒らない」
「……そうです。私はそんな兄を自慢に思っていますし、大好きです」
尊さんに言われ、美奈歩は頷く。
彼女の言葉のあとに「だから兄に近づく継姉が嫌いでした」と続きそうな気がしたのは、被害妄想かもしれない。
「亮平さんは〝いい兄〟であった反面、我慢もしてきたと思います。もともと温厚な性格なのはあると思いますが、お母さんが亡くなられたあと、お父さんが働きに出ている以上、『自分がしっかりして妹を支え、家を守らないと』と思ったでしょう。多感な時期に大好きなお母さんを亡くされ、小さい妹さんの面倒を見て家事もして……という生活を送った亮平さんは、同じ年頃の友人と満足いくまで遊べなかった可能性もあります」
「……そうですね」
美奈歩は昔を思いだす目で頷く。
「兄はいつも私の勉強を見てくれていました。母が亡くなったあと、それまで全然料理をしてなかったのに、動画を見ながら料理を始めて、そのうち父のお弁当まで作るようになりました。何かを犠牲にして『自分だって遊びたい』と言った事は一度もありませんでした。……今思えば、妹の相手なんてしないで友達と遊びたかったでしょう。それでも兄は私の面倒を見てくれて、勉強が分からなかった時、理解するまで辛抱強く教えてくれました」
今まで美奈歩が亮平をどう思っていたか聞いていなかったから、余計に彼女が抱いている家族愛の重さを知った。
そして私もまた、今まで自分の事ばかりで、亮平と美奈歩がどういう兄妹だったかを想像していなかったのだと再度痛感した。
「朱里、美奈歩さんが話をしたいって」
けれど尊さんにそう言われ、とうとう決着をつける時がきたのだと覚悟した。
美奈歩は階段に座ったので、私は尊さんの隣に座る。
継妹はしばらく私を見つめたあと、一つ溜め息をついて尋ねてきた。
「私の事、嫌い?」
「え? なんで?」
ズバッと尋ねられ、私もズバッと素で聞き返す。
「嫌いじゃないよ。逆に美奈歩こそ、私の事嫌いじゃない? 今まで私がいるとわざとらしく溜め息ついたり、言葉に棘があったりで、快く思われてないんだなっていうのは感じていたけど」
「……お父さんやお兄ちゃんに、私の目の前でわざとらしく甘えていなかった?」
「なんですと?」
初耳だったので、思わずまた聞き返してしまった。
「……そんな事、した覚えないけど……」
これ以上ない、チベットスナギツネみたいな真顔で言うと、美奈歩は困惑する。
私はなるべく美奈歩を刺激しないように言葉を選びながら、自分が感じていた事を説明した。
「……悪く言ってるように感じたら申し訳ないけど、最初はどう接したらいいか分からなくて、お継父さんと亮平の事を完全に他人扱いしていた。亮平は仲良くなろうとしてくれてたみたいだけど、私にはその距離感が合わなくて、逆に警戒してしまった。……この辺は本人と先日会って話す機会があって、誤解がとけた……と思っているけど」
そう言うと、美奈歩もおずおずと頷く。
「……私も、先日お兄ちゃんからちょっと……言われた。『お互い言葉が足りてない』って」
きっと横浜の日のあとだ。亮平、一応言ってくれてたんだ。
「……言われて『確かにそうかも』って思って、色々考えた。……私は私なりの理由があって、……確かに、……ちょっと避けたり冷たい態度をとってしまっていた。……ムカついていたのは事実だけど、今、……『嫌い?』って聞いても訳分からない顔をしてたし、……やっぱりお兄ちゃんが言ってたみたいに、言葉足らずなのかもって思った」
彼女はボソボソと、時々言葉を止めては考え、少しずつ自分の気持ちを打ち明ける。
(美奈歩は頑張ってくれてる)
俯いて、とても恥ずかしそうで、言いづらそうな表情を見ていれば、物凄く頑張ってくれているのが分かる。
(私も歩み寄らなきゃ。きっと今しかない)
覚悟を決めた私は、小さく息を吸って自分の気持ちを伝える。
「……私も、今まで嫌な態度をとってごめん。『美奈歩は私を嫌っている』と思い込んで、直接気持ちを聞いた訳でもないのに決めつけてた。それで対話するのを面倒くさがって避けてた」
私の言葉を聞いて美奈歩はコクンと頷き、しばらく〝次〟の言葉を考える。
私も何か言おうと思うんだけど、なかなかいい言葉が見つからない。
美奈歩が私に突っかかってきたのは、大好きな亮平が私を気にしてる事も大きいと思う。
けど、亮平から直接気持ちを聞いたとはいえ、『亮平が私を意識してた』なんて自意識過剰みたいで言いづらい。
その時、どうにもならない空気を読んで尊さんが挙手した。
「私からも補足させてもらいます。亮平さんは美奈歩さんにとって、〝いいお兄さん〟だったでしょう? 優しくて頼りがいがあって、性格は温厚で滅多に怒らない」
「……そうです。私はそんな兄を自慢に思っていますし、大好きです」
尊さんに言われ、美奈歩は頷く。
彼女の言葉のあとに「だから兄に近づく継姉が嫌いでした」と続きそうな気がしたのは、被害妄想かもしれない。
「亮平さんは〝いい兄〟であった反面、我慢もしてきたと思います。もともと温厚な性格なのはあると思いますが、お母さんが亡くなられたあと、お父さんが働きに出ている以上、『自分がしっかりして妹を支え、家を守らないと』と思ったでしょう。多感な時期に大好きなお母さんを亡くされ、小さい妹さんの面倒を見て家事もして……という生活を送った亮平さんは、同じ年頃の友人と満足いくまで遊べなかった可能性もあります」
「……そうですね」
美奈歩は昔を思いだす目で頷く。
「兄はいつも私の勉強を見てくれていました。母が亡くなったあと、それまで全然料理をしてなかったのに、動画を見ながら料理を始めて、そのうち父のお弁当まで作るようになりました。何かを犠牲にして『自分だって遊びたい』と言った事は一度もありませんでした。……今思えば、妹の相手なんてしないで友達と遊びたかったでしょう。それでも兄は私の面倒を見てくれて、勉強が分からなかった時、理解するまで辛抱強く教えてくれました」
今まで美奈歩が亮平をどう思っていたか聞いていなかったから、余計に彼女が抱いている家族愛の重さを知った。
そして私もまた、今まで自分の事ばかりで、亮平と美奈歩がどういう兄妹だったかを想像していなかったのだと再度痛感した。
125
あなたにおすすめの小説
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
今さらやり直しは出来ません
mock
恋愛
3年付き合った斉藤翔平からプロポーズを受けれるかもと心弾ませた小泉彩だったが、当日仕事でどうしても行けないと断りのメールが入り意気消沈してしまう。
落胆しつつ帰る道中、送り主である彼が見知らぬ女性と歩く姿を目撃し、いてもたってもいられず後を追うと二人はさっきまで自身が待っていたホテルへと入っていく。
そんなある日、夢に出てきた高木健人との再会を果たした彩の運命は少しずつ変わっていき……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる