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その後の動き 編

引っ越しの相談

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「まっっっって…………。しんど……、しんどい……。学ジャー姿で尊さんと話してた……。くっっっそ…………」

 私は三角座りをしたまま、膝に顔を埋めてプルプル震える。

《なんでそんなに恥ずかしがるんだよ。別にフツーの学ジャーだろ》

 そうなんだけど……。そうなんだけど……!

 普段、気合い入れてメイクして、限られたアイテムの中でお洒落にこだわっているつもりの私からすれば、気合いの抜けきった姿を晒したのは屈辱以外のなにものでもない。……いや、フツーの青いジャージなんだけどね……。

「『目の届いてないところだと、だらしないのか』って思われるのが嫌だったんですー」

 脱力のあまり、体がスライムのように溶けていってしまいそうだ。

《別にいいだろが。俺だって家だとスウェットよく着るし》

「尊さんのスウェットなんてご褒美じゃないですか! 筋肉質の体にスウェット!? 服に出る皺の一本一本まで、こちとらご褒美なんですよ!」

 私はクワッとキレ気味になって言う。

《……なんでキレるんだよ……》

 尊さんは私の態度を見て困惑している。

「はー…………」

 私は後ろにあるベッドにもたれ掛かり、頭を乗せて思いきり大きな溜め息をつく。

《それはそうと、ご両親に挨拶するのは最優先事項として、引っ越しは更新前でもいい訳だろ? 手伝うから、早めにこっちにこられないか? 引っ越し業者への連絡とか面倒だと思うから、俺のほうで手配するよ》

「あー……。や、引っ越しは慣れてるんですけど。……あー、そっか……」

 何回も引っ越ししているので、慣れていると言えば慣れている。

 でも今まで通りにいかないと、すぐに思い直した。

《どした?》

「……や、……怒りません?」

《お前がそうやって前置きするっていう事は、男がらみだな? よし、来い》

 尊さんはそう言って胸に手を当てると、軽く目を伏せて横を向き、つらそうに眉を寄せる。

 まるで昭和時代の耽美な少女漫画で、キラキラ目の男性が傷付いた時のポーズみたいだ。

 傷付く気満々ですという態度に、私はブヒュッと鼻水を噴いてしまい、慌ててティッシュに手を伸ばす。

「笑かすのやめてください……っ」

 私は横を向いてブヒューと洟をかみながら、震える声で言う。

《……だってお前に男が絡んでるっていったら、絶対妬くから、こうでもしねぇと気が紛れねぇよ》

「はー……。いや、大した事じゃないんですけど、さっきの防犯関係にも絡みますが、今まで何かあったら昭人とか、恵の友達が手助けしてくれたんです」

《なるほど》

 普通の顔に戻った尊さんは、納得して頷く。

「で、引っ越しの時もツテで軽トラを出してもらえて、その人たちの力を借りてたんです。だからお礼に一人一万円包んで、三万円ぐらいで済んでいました」

《お、ちゃんと金払ったんだ。偉いな》

「こういうの、厚意に甘えてなあなあにしていたら、そのうち境界線が曖昧になってプライベートにも干渉されたらやだな……って思いまして。勿論、恵が厳選した男友達なので、それぞれ彼女がいる人だし変な空気にはならない人たちです。恵も『個人バイト』って言ってくれていたので、向こうもそのつもりだったと思いますし……。念には念をです」

《偉い、偉い。速水スタンプ十個やる》

「えっ、何それ。スタンプカード埋まったら何がもらえます?」

 冗談に食いつくと、尊さんはニヤッと笑った。

《スタンプ五個でハグ。十個でほっぺにキス。その後、五ポイントずつで要相談の、姫抱っこやドライヤー、色んなマッサージとか》

「ちょ……っ、色んなマッサージ……っ!」

 込められた意味を察して、私はケラケラ笑う。

《……っていうのは冗談として、ちゃんと線引きしてたのはマジで偉い。……でも、その人たちを疑うとか、嫉妬してるとかじゃなく、俺が業者手配しておくよ。今回は俺と同棲するための引っ越しだし、その人たちに手伝ってもらうのは少し違うから》

「ですね。そうします。宜しくお願いします。……じゃあ、ボチボチ、時間をみて片付けを始めますね。恵にも手伝ってもらおうかな」

《俺も手伝うよ。最後に綺麗にしないとなんねぇし、プロに声かけてピカピカに掃除して、退去する時に文句言わせねぇようにしとく。立ち会いの時も付き添うからな。朱里一人で舐められて、ふっかけられたら困るから》

「ありがとうございます」

 物件には色んな所があって、中には退去する時に高額請求される事もあるので、そのあたり、悔しいけど女一人だと本当に舐められかねない。

 尊さんがいたら契約書を読んだ上で、法律やらと照らし合わせてしっかり反論してくれるかもしれない。

 ……まぁ、契約通りだったらしょうがない訳だけど。

「……こういう時、恋人がいると便利なんですね。や、便利って語弊がありますけど」

《女性が舐められるのは事実だから、可能なら男が一緒にいて手助けするのは当然だろ。……っていうか、今まで田村クンは?》

 尋ねられ、私は一瞬気まずく黙る。

 それだけで尊さんは察したようだった。
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