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その後の動き 編
不審者はゾンビだと思え
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《おい、待て! 玄関のドアを開けるなよ?》
スピーカーから尊さんの焦った声が聞こえ、私は心配してくれる彼にクスッと笑う。
「大丈夫です。インターフォンのカメラで覗くだけですから。幾ら私でも、いきなり開けたりしませんよ」
尊さんが心配するから詳しく言っていないし、昔の事だからもう話題にする必要がないけれど、学生時代も成人してからも、そこそこ嫌な目には遭った。
最寄り駅から歩いて家に帰ろうとしている間、男性につけられてコンビニの店員さんに助けを求めた事があった。
学生時代は制服を着ていたからだと思うけど、車に乗った男から『写真撮らせてくれない?』と声を掛けられた事もあったし、いきなり『三でどう?』と援助交際を求められた事もあった。
成人したあとは何回か引っ越ししていて、その内の一回はドアを無理矢理開けて中に入られかけた事が原因だった。
その時は本当に怖くて、すぐ恵と昭人に電話を掛けた。最終的に昭人が駆けつけてくれて、私の家に泊まって安心させてくれた。
恵には『親に言え』と何回も言われたけど、新しい家庭に馴染もうとしている母を心配させたくなくて、大丈夫、大丈夫と言い聞かせながら沈黙を選んだ。
ただ、『何回も引っ越ししてるのね』と言われたから、なんとなく気づかれてはいるのかもしれない。
それを裏付けるように亮平が頻繁に、何やかや手土産を持ちつつ様子を見に来た。
今となると、心配してくれていたのに鬱陶しがって、申し訳ない事をした。
そんな訳で、危機管理対策はバッチリしているつもりだ。
玄関先にはバットを置いてあるし、痴漢防止スプレーもある。バッグにはハート型のチャームに模した防犯ブザーもつけている。
(だから大丈夫。マンション選びも女性専用の防犯対策バッチリの所に決めてるし)
そう思いながら、私はインターフォンのカメラをオンにした。
(これがホラー映画によくある展開だったらウケるな)
ガチだったらウケるどころじゃないけど、引っ越してきてから変わった事はないので大丈夫なはずだ。
(んーと……)
モニターの向こうを見ても、普通に廊下が見えるだけだ。
しばらく窺うようにモニターを見たあと、誰もいなさそうだと判断して少しだけ様子を見る事にした。
玄関にあるバットを握り締め、何個かある鍵を開ける。
チェーンを残したままそっとドアを開いたけれど、特に何も聞こえなかった。
「誰かいますかー」
今日、置き配にするような荷物はなかったはずだ。
声を掛けても反応がなかったから、チェーンを外して顔を出した。
(……おや)
いない。
右を見ても左を見ても、廊下は静まりかえっている。
玄関ドアの周辺を見ても、特に何もイタズラされていない。
(近所の人でも帰ってきたのかな)
安心した私はドアを閉め、また幾つもある鍵を閉めてチェーンもしてから、スマホの前に戻った。
「誰もいませんでした」
《……『出るな』って言ったよな?》
……あ、怒ってる。
「……すみません。……安心したかったので」
謝ると、尊さんは溜め息をつく。
《無事だったから良かったけどさ。……ホント、頼むよ……》
尊さんは疲れ切ったように両手で顔を覆い、両肘をデスクにつけて項垂れている。
「……ごめんなさい」
その姿を見ると本当に申し訳なくなり、今度は本気で謝った。
《……まぁ、しょうがないか。今まで自分一人で安全を確認して生きてきたんだもんな。……ただ、今のゾンビ映画だったら絶対にフラグだったからな。いいか、不審者はゾンビだと思え。少しでも触れられたらアウトだ》
「はいっ」
最後はビシッと言われ、私は背筋を伸ばして返事をする。
《……はぁ……。早くお前と一緒に住みたいよ。……女性の一人暮らしってそういう危険もあるもんな。……分かっていたようで失念してた》
尊さんは心底心配してくれているようで、やや粗い画質越しにも眉間の皺が深いのが分かる。
「心配してくれてありがとうございます。あと少しでそちらに厄介になりますし、短期間にもう変な事は起こらないと思います」
《……そうだな。信じよう。……早く俺の家でジャージ姿の朱里を見たいよ》
「えっ……。……あっ、あーっ!」
ジャージと言われて初めて気づいたけれど、家で着ている学ジャー姿のまま、うっかり尊さんとのテレビ電話に出てしまっていた。
スピーカーから尊さんの焦った声が聞こえ、私は心配してくれる彼にクスッと笑う。
「大丈夫です。インターフォンのカメラで覗くだけですから。幾ら私でも、いきなり開けたりしませんよ」
尊さんが心配するから詳しく言っていないし、昔の事だからもう話題にする必要がないけれど、学生時代も成人してからも、そこそこ嫌な目には遭った。
最寄り駅から歩いて家に帰ろうとしている間、男性につけられてコンビニの店員さんに助けを求めた事があった。
学生時代は制服を着ていたからだと思うけど、車に乗った男から『写真撮らせてくれない?』と声を掛けられた事もあったし、いきなり『三でどう?』と援助交際を求められた事もあった。
成人したあとは何回か引っ越ししていて、その内の一回はドアを無理矢理開けて中に入られかけた事が原因だった。
その時は本当に怖くて、すぐ恵と昭人に電話を掛けた。最終的に昭人が駆けつけてくれて、私の家に泊まって安心させてくれた。
恵には『親に言え』と何回も言われたけど、新しい家庭に馴染もうとしている母を心配させたくなくて、大丈夫、大丈夫と言い聞かせながら沈黙を選んだ。
ただ、『何回も引っ越ししてるのね』と言われたから、なんとなく気づかれてはいるのかもしれない。
それを裏付けるように亮平が頻繁に、何やかや手土産を持ちつつ様子を見に来た。
今となると、心配してくれていたのに鬱陶しがって、申し訳ない事をした。
そんな訳で、危機管理対策はバッチリしているつもりだ。
玄関先にはバットを置いてあるし、痴漢防止スプレーもある。バッグにはハート型のチャームに模した防犯ブザーもつけている。
(だから大丈夫。マンション選びも女性専用の防犯対策バッチリの所に決めてるし)
そう思いながら、私はインターフォンのカメラをオンにした。
(これがホラー映画によくある展開だったらウケるな)
ガチだったらウケるどころじゃないけど、引っ越してきてから変わった事はないので大丈夫なはずだ。
(んーと……)
モニターの向こうを見ても、普通に廊下が見えるだけだ。
しばらく窺うようにモニターを見たあと、誰もいなさそうだと判断して少しだけ様子を見る事にした。
玄関にあるバットを握り締め、何個かある鍵を開ける。
チェーンを残したままそっとドアを開いたけれど、特に何も聞こえなかった。
「誰かいますかー」
今日、置き配にするような荷物はなかったはずだ。
声を掛けても反応がなかったから、チェーンを外して顔を出した。
(……おや)
いない。
右を見ても左を見ても、廊下は静まりかえっている。
玄関ドアの周辺を見ても、特に何もイタズラされていない。
(近所の人でも帰ってきたのかな)
安心した私はドアを閉め、また幾つもある鍵を閉めてチェーンもしてから、スマホの前に戻った。
「誰もいませんでした」
《……『出るな』って言ったよな?》
……あ、怒ってる。
「……すみません。……安心したかったので」
謝ると、尊さんは溜め息をつく。
《無事だったから良かったけどさ。……ホント、頼むよ……》
尊さんは疲れ切ったように両手で顔を覆い、両肘をデスクにつけて項垂れている。
「……ごめんなさい」
その姿を見ると本当に申し訳なくなり、今度は本気で謝った。
《……まぁ、しょうがないか。今まで自分一人で安全を確認して生きてきたんだもんな。……ただ、今のゾンビ映画だったら絶対にフラグだったからな。いいか、不審者はゾンビだと思え。少しでも触れられたらアウトだ》
「はいっ」
最後はビシッと言われ、私は背筋を伸ばして返事をする。
《……はぁ……。早くお前と一緒に住みたいよ。……女性の一人暮らしってそういう危険もあるもんな。……分かっていたようで失念してた》
尊さんは心底心配してくれているようで、やや粗い画質越しにも眉間の皺が深いのが分かる。
「心配してくれてありがとうございます。あと少しでそちらに厄介になりますし、短期間にもう変な事は起こらないと思います」
《……そうだな。信じよう。……早く俺の家でジャージ姿の朱里を見たいよ》
「えっ……。……あっ、あーっ!」
ジャージと言われて初めて気づいたけれど、家で着ている学ジャー姿のまま、うっかり尊さんとのテレビ電話に出てしまっていた。
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