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加速する絶望 編
執着のはじまり
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俺はメッセージアプリで中村さんを呼び出し、彼女とホテルのラウンジカフェにいた。
女子の好きそうなものを……と思い、アフターヌーンティーに誘ったら快く応じてくれた。勿論、甘い物を食べるのは彼女に任せたが。
久しぶりに誰かにご馳走すると、少し気分が良くなる。
こんな俺でも金を出す事で、誰かに喜んでもらえると思えるからだ。
『お久しぶりですね』
二年経った中村さんは、雰囲気はそのままだが、ボブヘアまで髪が伸びていた。
『元気そうで良かった』
俺はテーブルの下で脚を組み、注がれた紅茶をストレートで飲む。
『私はずっと写真や動画、報告のメッセージを送ってるのに、篠宮さんったらほぼ返信しないし、近影も送ってくれないからどうしようかと……』
『悪い。……っていうか、俺の近影を見てもしゃーないだろ』
俺は苦笑いし、自分の不義理を誤魔化す。
中村さんはしばらく俺を見つめ、苦笑いしながら言った。
『……篠宮さん、大人になって凄く格好良くなりましたけど、……あんまり幸せそうじゃないですね。パッと見イケメンで、鍛えた体をしているのに、雰囲気がめっちゃ不健康で暗いです。ぶっちゃけ、病んでる感じがして恐いです』
ズバッと言われ、さすがに笑ってしまった。
『……大人になったら色々あるんだよ』
俺はそれっぽい事を言ってごまかし、中村さんから学生生活や朱里、田村の話を聞いた。
中村さんは二人前のアフターヌーンティーの菓子をペロッと食べ、ミルクと砂糖を入れた紅茶を飲んで俺を見る。
『…………で、何ですか? 今まで報告を受けるだけだった篠宮さんが、私を呼び出してご馳走してくれて終わり……、じゃないでしょう?』
また鋭く指摘され、俺は暗い笑みを浮かべる。
『前に中村さんは、進路は朱里次第だって言ってたよな? それは今も変わらない?』
話が真面目なものになり、彼女は少し表情を引き締める。
『変わってません。心変わりするかな? って思いましたが、今でも朱里が好きです。彼女は田村くんと付き合ってますし、恋愛対象が男性なのも分かっています。でも私は朱里の側に、一番の親友としていられるならいいかなって。それに私、男子の事もちゃんと恋愛対象に見られるっぽいです。朱里以上の人は現れないけれど、隠れ蓑的に誰かと付き合うならできそうです。だから結婚したあとも、朱里とずっと親友でいられたらなって思ってます』
ボーイッシュな彼女は爽やかに笑いながら、ドロドロの執着を見せる。
そんな彼女だからこそ〝話せる〟と思った。
『なら、同じ就職先があったら嬉しくないか?』
俺は笑みを深め、ソファに預けていた体をゆっくり起こした。
そして懐に手を入れ、篠宮フーズの名刺を出してテーブルの上に滑らせる。
――父に確認はとった。
――怜香に内緒で人事に融通を利かせる事は可能だ。
――あの男も、たまには役に立つところがあるじゃないか。
『俺は篠宮フーズという会社の、社長の息子だ。……婚外子だけどな。そこなら君たち二人を一緒に雇用する事ができる』
中村さんは名刺を手に取って読んでから、慎重に俺の表情を伺う。
『…………何が望みですか?』
『…………〝朱里〟』
俺は迷わず、中村さんの思い人の名前を口にする。
『好きなんですか?』
『まさか。未成年に興味はない。……ただ、あの子を手元に置いて、その安全と健康を見守っていたいだけだ』
『就職する年齢になれば立派な大人です。見守るだけじゃ済まないでしょう』
中村さんは俺をひたと見据え、核心をついてくる。
『……さぁな。先の事は分からねぇよ。今の朱里に手を出すつもりはないが、君の言う通り、大人になったら見方が変わるかもしれない。けど、朱里が新卒で入ってくる頃には、俺は二十八歳だ。誰かと付き合ってるかもしれないだろ』
自分で言っておきながら、その可能性は限りなく低いと思っていた。
時々つまみ食いはするものの、相変わらず朱里以外の女への期待値はゼロだ。
『ズバリ聞くけど、中村さんは田村クンの事を気に入ってる? 彼になら朱里を任せられると思ってる?』
尋ねると、彼女はさりげなく目を逸らした。
――不満に思ってるんだろ。分かってる。
俺は心の中でニヤリと笑った。
中村さんは俺があまり返信しないのをいい事に、メッセージで壁打ちするように田村への不満をツラツラと書いていた。
朱里から『昭人とは価値観が合わない』と聞いた中村さんは、田村を『朱里に相応しくない男』として見ている。
一緒にいて楽でも、恵まれた環境で育った田村と〝訳アリ〟の俺たちとでは、根本的に考え方が違う。
――あんな奴に朱里の相手が務まるもんか。
そこが俺の狙い目だった。
女子の好きそうなものを……と思い、アフターヌーンティーに誘ったら快く応じてくれた。勿論、甘い物を食べるのは彼女に任せたが。
久しぶりに誰かにご馳走すると、少し気分が良くなる。
こんな俺でも金を出す事で、誰かに喜んでもらえると思えるからだ。
『お久しぶりですね』
二年経った中村さんは、雰囲気はそのままだが、ボブヘアまで髪が伸びていた。
『元気そうで良かった』
俺はテーブルの下で脚を組み、注がれた紅茶をストレートで飲む。
『私はずっと写真や動画、報告のメッセージを送ってるのに、篠宮さんったらほぼ返信しないし、近影も送ってくれないからどうしようかと……』
『悪い。……っていうか、俺の近影を見てもしゃーないだろ』
俺は苦笑いし、自分の不義理を誤魔化す。
中村さんはしばらく俺を見つめ、苦笑いしながら言った。
『……篠宮さん、大人になって凄く格好良くなりましたけど、……あんまり幸せそうじゃないですね。パッと見イケメンで、鍛えた体をしているのに、雰囲気がめっちゃ不健康で暗いです。ぶっちゃけ、病んでる感じがして恐いです』
ズバッと言われ、さすがに笑ってしまった。
『……大人になったら色々あるんだよ』
俺はそれっぽい事を言ってごまかし、中村さんから学生生活や朱里、田村の話を聞いた。
中村さんは二人前のアフターヌーンティーの菓子をペロッと食べ、ミルクと砂糖を入れた紅茶を飲んで俺を見る。
『…………で、何ですか? 今まで報告を受けるだけだった篠宮さんが、私を呼び出してご馳走してくれて終わり……、じゃないでしょう?』
また鋭く指摘され、俺は暗い笑みを浮かべる。
『前に中村さんは、進路は朱里次第だって言ってたよな? それは今も変わらない?』
話が真面目なものになり、彼女は少し表情を引き締める。
『変わってません。心変わりするかな? って思いましたが、今でも朱里が好きです。彼女は田村くんと付き合ってますし、恋愛対象が男性なのも分かっています。でも私は朱里の側に、一番の親友としていられるならいいかなって。それに私、男子の事もちゃんと恋愛対象に見られるっぽいです。朱里以上の人は現れないけれど、隠れ蓑的に誰かと付き合うならできそうです。だから結婚したあとも、朱里とずっと親友でいられたらなって思ってます』
ボーイッシュな彼女は爽やかに笑いながら、ドロドロの執着を見せる。
そんな彼女だからこそ〝話せる〟と思った。
『なら、同じ就職先があったら嬉しくないか?』
俺は笑みを深め、ソファに預けていた体をゆっくり起こした。
そして懐に手を入れ、篠宮フーズの名刺を出してテーブルの上に滑らせる。
――父に確認はとった。
――怜香に内緒で人事に融通を利かせる事は可能だ。
――あの男も、たまには役に立つところがあるじゃないか。
『俺は篠宮フーズという会社の、社長の息子だ。……婚外子だけどな。そこなら君たち二人を一緒に雇用する事ができる』
中村さんは名刺を手に取って読んでから、慎重に俺の表情を伺う。
『…………何が望みですか?』
『…………〝朱里〟』
俺は迷わず、中村さんの思い人の名前を口にする。
『好きなんですか?』
『まさか。未成年に興味はない。……ただ、あの子を手元に置いて、その安全と健康を見守っていたいだけだ』
『就職する年齢になれば立派な大人です。見守るだけじゃ済まないでしょう』
中村さんは俺をひたと見据え、核心をついてくる。
『……さぁな。先の事は分からねぇよ。今の朱里に手を出すつもりはないが、君の言う通り、大人になったら見方が変わるかもしれない。けど、朱里が新卒で入ってくる頃には、俺は二十八歳だ。誰かと付き合ってるかもしれないだろ』
自分で言っておきながら、その可能性は限りなく低いと思っていた。
時々つまみ食いはするものの、相変わらず朱里以外の女への期待値はゼロだ。
『ズバリ聞くけど、中村さんは田村クンの事を気に入ってる? 彼になら朱里を任せられると思ってる?』
尋ねると、彼女はさりげなく目を逸らした。
――不満に思ってるんだろ。分かってる。
俺は心の中でニヤリと笑った。
中村さんは俺があまり返信しないのをいい事に、メッセージで壁打ちするように田村への不満をツラツラと書いていた。
朱里から『昭人とは価値観が合わない』と聞いた中村さんは、田村を『朱里に相応しくない男』として見ている。
一緒にいて楽でも、恵まれた環境で育った田村と〝訳アリ〟の俺たちとでは、根本的に考え方が違う。
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そこが俺の狙い目だった。
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