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旧エチルデ領の歴史
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「エチルデには莫大な財があると言われていましたが、戦が終わりハーティリアの兵が確認のため国内、城内を探っても宝は一つも出てきませんでした。『こんなはずはない』と誰もが思うものの、幾度もの調査を経て現在は調査隊の活動も停止。旧エチルデは完全に沈黙し、当時の英雄バフェット辺境伯が土地を守るようになりました。いまだバフェット領近辺は周辺国から狙われているものの、一応の平和は約束されている。……このような感じで如何でしょうか?」
「完璧だ。まるで歴史の本でも暗記したかのようだな」
ディストは軽く拍手をする。
それに対し、クローディアはにっこり笑ってみせた。
「これでもバフェット辺境伯の妻でした。土地の事は嫁ぐ前からしっかり調べ、現地でも城の者や民たちから色んな話を聞きました」
「君は外見や噂に似合わず、本当は勤勉でまじめな性格なんだな」
言い当てられ、クローディアは苦笑いをする。
「わざと喪服を着て目立ってみせたのは、イグナットに毒を飲ませた犯人を捜し当てるためか?」
「はい。喪に服した悲しみの未亡人として王都に行っても、過去に交流のあった人と話をして終わりだったでしょう。基本的に未亡人というものは、舞踏会になど行きませんから」
「確かに」
思わずディストとイェールン伯爵が笑った。
「目立って、〝バフェット伯の未亡人〟がいるという事を全員に知らしめたかったのです。こちらが目的の人を知らなくても、相手は私が何かを考えていると察したかもしれません。おかしな動きをしたなら、私に興味を持った人が教えてくれるかもしれません」
「確かに……一理ある。普通の未亡人ならまず考えない行動だが、君は目的のためなら、自分がゴシップの種になっても構わないと判断した。その勇気は認めよう」
「ありがとうございます」
少なくとも、正直に話してからというもの、ディストの気を引けたと思っている。
(殿下が情報を持っているかどうかは置いておいて、協力はしてくれそうな雰囲気かもしれない)
ディストは紅茶を一口飲み、息をつく。
少し迷うように沈黙してから、口を開いた。
「イグナットには生涯秘密にしてほしいと言われていたが、君は彼の妻であるから、その秘密を聞く権利はあると思う」
「はい」
確信に触れてきたと思い、クローディアは背筋を伸ばす。
「君はイグナットの老いた姿しか知らないと思うが、彼は若い頃は相当女性からモテて、腕力もあり剣が強く、騎士たちからも尊敬されていた男だったらしい」
「城の者たちは全員イグナット様を好いていました。想像できます」
「勇猛果敢な辺境伯は、二十年前の戦争の時も自ら剣を持って前線に立っていた。エチルデの見方になろうとし、彼の国の王城に立てこもって一緒に作戦会議を開いていたようだ」
クローディアは小さく頷く。
「やがて戦は熾烈さを増し、城の中でも戦闘が始まった」
そこまで言って、ディストは細く長く息を吐いた。
「エチルデの国王ガルティアは戦のさなか亡くなったとされていたが、本当はイグナットが誤って王を切ってしまったのが原因だ」
知らなかったイグナットの罪を聞かされ、クローディアは静かに息を吸う。
「それほどの激戦だったのだろう。複数の敵を相手に切り結めば、興奮して敵も味方も分からなくなる。大勢の命を奪いながらも冷静でいられるのは、よほど戦いに慣れた者でない限り無理だ」
「……分かります。私自身も剣を握り騎士たちと手合わせをする事がありますが、一対一の模擬戦でも精一杯になり、戦形式になるとあっという間に〝死者〟の印をつけられて退場になりました」
しんみりとして言った途端、ディストが噴き出した。
「見かけとは違うと思っていたが、そこまでお転婆だったのか」
「あ、その……。ええ、これがお転婆というのなら」
笑われて一瞬恥ずかしいと思ったものの、自分の生き方になんら恥など感じていない。
クローディアはすぐに開き直り、小首を傾げ笑ってみせた。
「イグナットがガルティアに負わせた傷は、浅いものではなかったそうだ。王はイグナットと打ち解けていたから、彼を疑わず責める事もしなかった。だが話し合う余裕もなく、ガルティアは傷ついた体で戦い続け隙を突かれて戦死してしまった」
ディストの言葉から、エチルデ王の人柄が分かる気がする。
「王妃アリシアは王太子と王女を外に逃がしたあと、国の誇りとして塔に留まっていた。が、国王崩御の知らせを聞き、自ら塔から飛び降りてしまった」
悲劇の王家の話を聞き、クローディアは軽く唇を噛む。
「その戦でイグナットは戦場に出た自分の息子も喪っていた。自分が不甲斐ないばかりに……と、己を責め、けれど最後まで自身の役割を果たし連合軍を撃退した。現場の整理をし、協力してくれた帝国に礼を言う手続きを取り、王をなくしたエチルデの民を己の領地に導いたあと、彼はドッと疲れたのだろう」
ディストの言葉を聞き、クローディアはイグナットが負っていたものの大きさを改めて思い知る。
「完璧だ。まるで歴史の本でも暗記したかのようだな」
ディストは軽く拍手をする。
それに対し、クローディアはにっこり笑ってみせた。
「これでもバフェット辺境伯の妻でした。土地の事は嫁ぐ前からしっかり調べ、現地でも城の者や民たちから色んな話を聞きました」
「君は外見や噂に似合わず、本当は勤勉でまじめな性格なんだな」
言い当てられ、クローディアは苦笑いをする。
「わざと喪服を着て目立ってみせたのは、イグナットに毒を飲ませた犯人を捜し当てるためか?」
「はい。喪に服した悲しみの未亡人として王都に行っても、過去に交流のあった人と話をして終わりだったでしょう。基本的に未亡人というものは、舞踏会になど行きませんから」
「確かに」
思わずディストとイェールン伯爵が笑った。
「目立って、〝バフェット伯の未亡人〟がいるという事を全員に知らしめたかったのです。こちらが目的の人を知らなくても、相手は私が何かを考えていると察したかもしれません。おかしな動きをしたなら、私に興味を持った人が教えてくれるかもしれません」
「確かに……一理ある。普通の未亡人ならまず考えない行動だが、君は目的のためなら、自分がゴシップの種になっても構わないと判断した。その勇気は認めよう」
「ありがとうございます」
少なくとも、正直に話してからというもの、ディストの気を引けたと思っている。
(殿下が情報を持っているかどうかは置いておいて、協力はしてくれそうな雰囲気かもしれない)
ディストは紅茶を一口飲み、息をつく。
少し迷うように沈黙してから、口を開いた。
「イグナットには生涯秘密にしてほしいと言われていたが、君は彼の妻であるから、その秘密を聞く権利はあると思う」
「はい」
確信に触れてきたと思い、クローディアは背筋を伸ばす。
「君はイグナットの老いた姿しか知らないと思うが、彼は若い頃は相当女性からモテて、腕力もあり剣が強く、騎士たちからも尊敬されていた男だったらしい」
「城の者たちは全員イグナット様を好いていました。想像できます」
「勇猛果敢な辺境伯は、二十年前の戦争の時も自ら剣を持って前線に立っていた。エチルデの見方になろうとし、彼の国の王城に立てこもって一緒に作戦会議を開いていたようだ」
クローディアは小さく頷く。
「やがて戦は熾烈さを増し、城の中でも戦闘が始まった」
そこまで言って、ディストは細く長く息を吐いた。
「エチルデの国王ガルティアは戦のさなか亡くなったとされていたが、本当はイグナットが誤って王を切ってしまったのが原因だ」
知らなかったイグナットの罪を聞かされ、クローディアは静かに息を吸う。
「それほどの激戦だったのだろう。複数の敵を相手に切り結めば、興奮して敵も味方も分からなくなる。大勢の命を奪いながらも冷静でいられるのは、よほど戦いに慣れた者でない限り無理だ」
「……分かります。私自身も剣を握り騎士たちと手合わせをする事がありますが、一対一の模擬戦でも精一杯になり、戦形式になるとあっという間に〝死者〟の印をつけられて退場になりました」
しんみりとして言った途端、ディストが噴き出した。
「見かけとは違うと思っていたが、そこまでお転婆だったのか」
「あ、その……。ええ、これがお転婆というのなら」
笑われて一瞬恥ずかしいと思ったものの、自分の生き方になんら恥など感じていない。
クローディアはすぐに開き直り、小首を傾げ笑ってみせた。
「イグナットがガルティアに負わせた傷は、浅いものではなかったそうだ。王はイグナットと打ち解けていたから、彼を疑わず責める事もしなかった。だが話し合う余裕もなく、ガルティアは傷ついた体で戦い続け隙を突かれて戦死してしまった」
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「その戦でイグナットは戦場に出た自分の息子も喪っていた。自分が不甲斐ないばかりに……と、己を責め、けれど最後まで自身の役割を果たし連合軍を撃退した。現場の整理をし、協力してくれた帝国に礼を言う手続きを取り、王をなくしたエチルデの民を己の領地に導いたあと、彼はドッと疲れたのだろう」
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