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久賀城家挨拶 編
年末年始
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『浜崎くんと何の話をしたの? 大丈夫?』
彼女らしい心配だな、と思った俺は、『何でもない。もう帰る』とメッセージを返しておいた。
**
そわそわしているうちに、あっという間に大晦日になった。
三十日あたりから私は慎也と協力しあって、年末年始のご馳走を作った。
正樹は料理はできないので、膝を抱えてソファに座りテレビを見ていた。すまん。
最初は「小道具を出したりするのぐらいできると思う」と言っていたけれど、キッチンのどこに何があるかを彼は分かっていない。
無駄な捜し物になってしまうぐらいなら、最初から一人分場所を空けてくれたほうが、ぶっちゃけ助かる。
すっかりいじけてしまった正樹だけど、「いいもんね」と言ってスマホを何やら弄っていた。
と思ったら、懇意にしているお寿司屋さんで、とっておきのお寿司を予約してくれたらしい。
他にも正樹はローストビーフ用の上質で大きな塊や、伊勢海老、タラバガニなど、高級食材を手配してくれた。
「僕はこれぐらいしかできないからね」と言っているけれど、出資者がいるといないのとでは大違いだ。
大晦日では正樹が持ち帰ってくれたお寿司や他のご馳走を皆で食べ、シャンパンやワインを片手に大晦日特番のテレビを見て笑いに笑った。
そして年越し蕎麦を食べ、三人で初詣に向かう。
見事、三人して大吉を引き、満足して帰ったあとは、明日に備えて早めに寝た。
「ねぇ、ちょっと……マジ?」
「マジ」
「大マジ」
元旦になってお雑煮を食べ、さてそろそろ二人の実家に向かおうか……となった時、いきなり正樹が「見せたい物があるんだ」と言って、着物の入った箱を出してきた。
中には赤と黒のパキッとした印象の、格好いい振り袖が入っていた。
白と赤の牡丹柄で、帯や帯留めもモダンな印象だ。帯揚げは目が覚めるような赤で、確かに私の雰囲気には似合うかもしれない。
「なかなかいいでしょ」と笑った正樹は、そのあと慎也を助手にしてテキパキと着付けをしてくれた。
髪の毛を纏めるのも、帯を締めるのも上手で、私は「えええええ?」となっていた。
完成した姿を全身鏡で見て、思わず記念写真を撮った。
あとから家族に見せよう……。
その間も二人は男性用の着物と羽織を着て、すっかり準備ができる。
……っていうか、着物、威力高っ!
いつも以上に格好良く見えるから、着物マジックすご……。
慎也と正樹も、私をじーっと見ている。
「…………っあー! 今すぐひんむいてエッチしたい」
「分かる! 僕も!」
「おい!」
あまりにお決まりな事を言った二人に、私は全力で突っ込んだ。
「あはは! 半分冗談!」
「そうそう! 半分冗談! 半分本気」
二人の〝冗談〟を信用できず、私は生ぬるい笑みを浮かべる。
「まぁまぁ、今は何か致すなんてしないから、安心して」
「〝今は〟」
私はなまぬるーい表情のまま、正樹の言葉を復唱する。
そんな状態でなぁなぁになったまま、元旦から働いてくれる運転手さんにお願いして、私達は田園調布にある二人の実家に向かった。
すっご……。
田園調布っていう街に来たのは初めてな気がする。
二人の実家はぐるーりと塀に囲まれた、敷地面積の広い大豪邸だ。
運転手さんが車の中からリモコン的な物を操作したのか、車が近付くと巨大な門が左右に開いて壁の中に収納されていく。
その間を通って中に進むと、美しい日本庭園のある、ゆったりとした佇まいのお屋敷があった。
アプローチっていうのか、屋根のあるところから玄関までが遠い。
壁にはシンプルな照明以外、いっさいの装飾がないからか、より高級に見える。
振り袖を着た私は緊張しながら草履を履いた足を動かして玄関まで向かう。
二人がチャイムを押したあと、スマートロックで鍵を開ける姿を見て「近代的だな」と感心してしまった。
「ただいまー」
「あけましておめでとう!」
二人がそれぞれ玄関で挨拶をすると、奥で引き戸が開いた。
彼女らしい心配だな、と思った俺は、『何でもない。もう帰る』とメッセージを返しておいた。
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そわそわしているうちに、あっという間に大晦日になった。
三十日あたりから私は慎也と協力しあって、年末年始のご馳走を作った。
正樹は料理はできないので、膝を抱えてソファに座りテレビを見ていた。すまん。
最初は「小道具を出したりするのぐらいできると思う」と言っていたけれど、キッチンのどこに何があるかを彼は分かっていない。
無駄な捜し物になってしまうぐらいなら、最初から一人分場所を空けてくれたほうが、ぶっちゃけ助かる。
すっかりいじけてしまった正樹だけど、「いいもんね」と言ってスマホを何やら弄っていた。
と思ったら、懇意にしているお寿司屋さんで、とっておきのお寿司を予約してくれたらしい。
他にも正樹はローストビーフ用の上質で大きな塊や、伊勢海老、タラバガニなど、高級食材を手配してくれた。
「僕はこれぐらいしかできないからね」と言っているけれど、出資者がいるといないのとでは大違いだ。
大晦日では正樹が持ち帰ってくれたお寿司や他のご馳走を皆で食べ、シャンパンやワインを片手に大晦日特番のテレビを見て笑いに笑った。
そして年越し蕎麦を食べ、三人で初詣に向かう。
見事、三人して大吉を引き、満足して帰ったあとは、明日に備えて早めに寝た。
「ねぇ、ちょっと……マジ?」
「マジ」
「大マジ」
元旦になってお雑煮を食べ、さてそろそろ二人の実家に向かおうか……となった時、いきなり正樹が「見せたい物があるんだ」と言って、着物の入った箱を出してきた。
中には赤と黒のパキッとした印象の、格好いい振り袖が入っていた。
白と赤の牡丹柄で、帯や帯留めもモダンな印象だ。帯揚げは目が覚めるような赤で、確かに私の雰囲気には似合うかもしれない。
「なかなかいいでしょ」と笑った正樹は、そのあと慎也を助手にしてテキパキと着付けをしてくれた。
髪の毛を纏めるのも、帯を締めるのも上手で、私は「えええええ?」となっていた。
完成した姿を全身鏡で見て、思わず記念写真を撮った。
あとから家族に見せよう……。
その間も二人は男性用の着物と羽織を着て、すっかり準備ができる。
……っていうか、着物、威力高っ!
いつも以上に格好良く見えるから、着物マジックすご……。
慎也と正樹も、私をじーっと見ている。
「…………っあー! 今すぐひんむいてエッチしたい」
「分かる! 僕も!」
「おい!」
あまりにお決まりな事を言った二人に、私は全力で突っ込んだ。
「あはは! 半分冗談!」
「そうそう! 半分冗談! 半分本気」
二人の〝冗談〟を信用できず、私は生ぬるい笑みを浮かべる。
「まぁまぁ、今は何か致すなんてしないから、安心して」
「〝今は〟」
私はなまぬるーい表情のまま、正樹の言葉を復唱する。
そんな状態でなぁなぁになったまま、元旦から働いてくれる運転手さんにお願いして、私達は田園調布にある二人の実家に向かった。
すっご……。
田園調布っていう街に来たのは初めてな気がする。
二人の実家はぐるーりと塀に囲まれた、敷地面積の広い大豪邸だ。
運転手さんが車の中からリモコン的な物を操作したのか、車が近付くと巨大な門が左右に開いて壁の中に収納されていく。
その間を通って中に進むと、美しい日本庭園のある、ゆったりとした佇まいのお屋敷があった。
アプローチっていうのか、屋根のあるところから玄関までが遠い。
壁にはシンプルな照明以外、いっさいの装飾がないからか、より高級に見える。
振り袖を着た私は緊張しながら草履を履いた足を動かして玄関まで向かう。
二人がチャイムを押したあと、スマートロックで鍵を開ける姿を見て「近代的だな」と感心してしまった。
「ただいまー」
「あけましておめでとう!」
二人がそれぞれ玄関で挨拶をすると、奥で引き戸が開いた。
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