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馴れ初め編/最終章 その瞳に映るモノ、その唇で紡ぐモノ
73.神様は間違わない(R-18)
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「ちゅ、ん……」
「……っ、んん」
彼が発した言葉は、三度目となる國枝宅への招待だった。
しかし、差し出された招待状は千優の手に渡ることなく、熱く濃厚な口づけを交わす二人の間に消えていく。
恥ずかしくも嬉しい誘いに頷こうとした瞬間、唇を塞がれては何も出来ない。
気づいた時にはただ瞳を見開き、与えらえるだけの熱烈なキスを戸惑うばかりだ。
火照った唇に、熱のこもった自分を間近で見つめる視線。
それらはすべて、千優に國枝の熱を分け与え、彼女の身体に更なる熱を注ぐ。
注がれた熱は彼女の体内を巡り、じわりと股下を湿らせる。
戸惑いが抜けない脳内とは違い、千優の蜜壺は歓喜したように涎を垂らし、下着を濡らし始めた。
それは、交わりを覚え日の浅い彼女の確かな変化。その原因は、二人が仕事中こそこそと隠れ密会し、千優曰く國枝からのセクハラを受けたせいでもある。
密会時、國枝は千優の秘部を執拗に愛撫し早々に彼女を一度果てさせていた。
その後、ぐったりと疲れた様子でその場に座りこむ千優の唇を、彼は貪り続けた。
國枝が時間を見計らい立ち去るまでの間、二人は言葉ではなくキスを交わし続ける。
ただ唇を重ねるだけでなく、舌を擦り合わせ、唾液を吸い合い、時に与え合い、口内を舌で蹂躙され生まれる幾多の快感は、千優のナカを確実に変えていった。
無意識下ながら、散々愛する人から教えこまれた甘美な快楽は、すっかり彼女を虜にし、覚醒したばかりの女としての性を刺激する。
不意打ちのキスに驚愕し、身体を強張らせていた千優。
しかし、唇を食む彼の柔らかな唇の動きと分け与えられる熱に、その強張りは次第に溶けていき、見開いていたはずの瞳は、気づけば甘く蕩け、時折瞼の奥へ消えていく。
疑問形で質問しておきながら、國枝は端から拒否権など与えないのだ。
万が一戸惑う様子を見せたとしても、きっと彼は上手く不安な気持ちを絡めとってしまうはず。
「クチュ……っ、は。いい?」
「ぁ、ん……は、い……ふ、んっ」
最終確認の言葉に、掠れた声で返答をする。
それは、気を抜けば聞き逃しそうな程小さかったが、車内にいるのは二人だけ。しかも触れ合う程の距離にいる彼女達にとっては、何の問題も無かった。
千優の承諾を得た國枝は、彼女の宿泊用に荷物を取りに行くと言い、自宅よりも先に千優の住むアパートへ向かった。
「あ、そうだ。明日用の服は、普段着でいいからね」
その途中、信号待ちをしている最中、彼は思い出した様子で口を開く。
「……? でも、仕事が」
「一日くらい休んだって罰当たらないわよ。……どうせスーツ持って行っても、無駄になるだけだし」
「……?」
週末と違い、明日はごく普通の平日だ。二人共もちろん仕事がある。
だが、國枝は首を横に振った。直接的な言葉は口にしていないが、暗に仕事を休めと言っている様なもの。
スーツ一式を國枝のマンションへ持って行かなければと考えていた千優にとって、彼の言葉は予想外だった。
パチンとウィンクをする彼の言葉が示すことを、千優は半分も理解出来ていない。
どうしてと疑問を投げかけようにも、國枝の意識は青へ変わった信号へ向いたため、声をかけるタイミングを失ってしまった。
そのまま、どうすれば良いのかわからず、千優は大人しく助手席に座り、窓を通して見える景色を眺める。
時折運転席の様子を気にし、ふと隣を見つめれば、一瞬だが確かに互いの視線が絡みあう。
どこか気恥ずかしそうに微笑む男の様子を前に、千優まで頬が熱くなった。
疑問は解決しないまま、二人を乗せた車は確実にアパートへ近づいていく。
信号待ちの間、國枝は手持無沙汰なようで、鞄を掴掴んだままな千優の手を、大きな手のひらで覆い隠した。
そのまま彼は、優しく指の間を撫でられ、指と指を絡ませていく。
どことなく煽情的なものを感じた千優の脳内からは、次第に小難しい思考が消える。
ちらりと横へ視線を向ければ、相変わらず嬉し気に微笑む彼が居た。
瞳の奥に宿るわずかな欲の熱を感じ、身体の奥が不意に熱くなる。
「千優、大好きだよ」
「っ! わ、わたし、も……」
「んー?」
「大好き、です」
「うん、知ってる」
「……っ、馬鹿!」
どこまでも余裕を見せる彼の態度に、つい悪態をついてしまう。
悪戯好きな子供のように、彼はすぐ隣で愛を囁くのだ。
こちらの精神状態がパンク寸前なことなど、知っているはずなのに、攻撃が止まることはない。
本当に想いが通じたのだろうか。そんな不安が時折頭の中を過る。
しかし、すぐ隣にある頼もしい姿を瞳に映してしまえば、千優の中で最後まで燻っていた黒いモヤが、跡形もなく消えていくのがわかった。
「……っ、ん、ちゅ。はぁ……」
「んんっ! ん、ぁ。……ん、ふ」
アパートへ到着し、宿泊準備を済ませた千優は、再び國枝の車へ乗り込み、彼の住むマンションへ向かった。
彼に促されるまま玄関へ足を踏み入れ、「お、お邪魔します」と緊張気味の挨拶をしながら、靴を脱ごうと彼女は体を屈める。
しかしヒールに指を引っかけるよりも早く、背後からガチャリと鍵を施錠する音が聞こえた。
そして、背後から覆いかぶさるような抱擁と、熱烈な口づけの嵐が千優へ襲い掛かる。
移動中、必死に堪えたいたものを解き放つように、千優は國枝の腕の中に閉じ込められ、絶え間なく口づけを交わす。
そこにはもう、普段の余裕たっぷりな男の影は無い。
唐突過ぎる彼の行動に、千優は困惑するあまり瞬く間に、全身を強張らせていく。
しばらくすると、國枝から新たな刺激が与えられる。
それは、貪るようなキスとは正反対な、優しく背中を撫でる感覚だ。
まるで千優の緊張をほぐさんとする手つきは、なんとも言えぬ程心地良い。
荒ぶっていた彼の心も落ち着きを取り戻しつつあるようで、貪るだけだった口づけもいつの間にか変化していた。
千優の口内から、彼女の吐息や唾液、その他様々なものを吸い取ろうと、しつこく、そして厭らしいそれ。
加えて、恋愛初心者な千優にとって、許容オーバーな快楽を舌先の愛撫で小さな口へ送り込んでくる。
玄関に一歩足を踏み入れてから数分と経たず、千優はすっかり目の前の男によって染められていく。
その体からは徐々に力が抜けていき、いつの間にか手にしていたはずの鞄は、足元へ落ち転がっている。
いつもなら慌てて拾い上げるそれを、千優は一切気にする様子はなく、ただ自分を包み込む彼に、その身を委ねることだけに意識を向けた。
「ほんと……夢みたい。ん、はぁ……千優、好きだよ。愛してる」
愛を囁く甘やかな低音に、身体の奥がジンと熱くなった。遠慮がちに広い背中へ回していた両手が、思わず彼の上着を掴む。
「は、ぁ……くに、だ……んん」
羞恥心に負け閉じていた瞳をゆっくり開くと、視界に飛び込んできたのは獣と化す寸前の男の顔。
ギラついた熱い眼差しに思わず身体が震えそうになるが、千優は怯むことなく、両腕に力を込め体を自ら密着させる。
こんなに大胆な行動を取るのは、人生で初めてではないかと感じつつ、彼女は密着し一つになった彼の口内へ、熱い吐息を吐き出す。
真っ赤に染まる瞳の中に、ほんの少しだけ残る優しげな白。
今ここにいるのは、正真正銘自分が愛する人だという実感が、一際千優の胸を熱くした。
「だ、めで……國枝さ、ひゃっ」
「もう……ダメも嫌も禁止って言ってるじゃないの。ほら、聞こえる? 柳ちゃんの此処、アタシの指を美味しそうに飲み込んでるの」
照明を落とした薄暗い寝室には、女の羞恥に満ちた啼き声と、嬉々とした男の声が木霊する。
時折聞こえる熱く艶めかしい吐息と淫靡な水音は、二人の興奮を煽る材料としては十分すぎた。
家の中へ入った直後から、二人は時間を忘れ、玄関で靴すら脱がず、互いが飽きるまで情熱的な口づけを交わした。
國枝の拘束から解放された頃には、すっかり千優の息はあがってしまい、その顔は熱のせいで真っ赤に染まる。
そんな彼女の靴を手早く脱がせ、荷物一先ず廊下の隅へ置いた國枝は、そのまま千優を軽々抱え上げた。
彼女を横抱きにしたまま國枝が向かった先、それは寝室である。
『は? えっ、國枝さん、何して……』
『……ダメ?』
『うっ』
ベッドの上に下ろされてしまった千優が、戸惑いを隠せずにいると、何故か恋人は囁くような強請り声を発し迫ってくる。
潤んだ眼差しのおねだりに、何も言葉を返せず口を閉ざせば、ペロリと唇を舐め、ご機嫌な彼と目が合った。
千優はこの日、新たな自分の性格の一片を理解した。どうやら彼女は、愛する人の強気な態度とお強請りに弱いらしい。
戸惑っている間に、あれよあれよと服を脱がされ、気づけば身体の中心――蜜壺は角ばった男の指をのみ込んでいた。
終始逃げ腰の千優に國枝は迫り、たくさんのキスと愛撫、そして情熱的な愛を囁き続ける。
彼と体を重ねる行為が嫌というわけではない。そんな彼女の気持ちを表すならば、恥ずかしいの一点に尽きる。
前回は酒のせいで酔いつぶれていたこともあり、記憶と思考はどこか頼りなかった。
しかし、今日は酒を一滴も飲んでおらず、完全に素面状態だ。だからこそ、千優の心は恥ずかしさのあまり爆発寸前まで追い詰められている。
「あ、あっ……ンぁ……やぁっ」
到底自分のものとは思えぬ甘ったるい声が、意思に反し口からこぼれ落ちる。それだけでもう恥ずかしくてたまらない。
千優は必死に枕に顔を埋め、声を押し殺そうと努めた。
しかし、自身の奥から止めどなく流れる蜜の厭らしい音、そしてそれをかき混ぜる複数の指による刺激が、未知の快感となりビクビクと四肢を震わせる。
「柳ちゃん、目を開けて」
「っ……ぁ」
心に余裕など無く、力一杯閉じていた瞳は、額へ贈られたチュッと触れるだけの口づけと、耳元で囁かれた声によって開かれる。
すると、先程まであったはずの距離感は無くなり、鼻先が触れ合う程の距離で二人は互いを見つめ合っているではないか。
更なる羞恥に、千優の体温は上昇の一途を辿る。
「やっぱり怖い? ……止める?」
國枝が言葉を紡ぐたび、唇に彼の吐息がかかる。こんな状況にも関わらず、どこまでも優しいその態度に、不思議と愛しさがこみ上げた。
「やめ、な……でください。その……あの……んっ」
チュッと目元に口づけが落とされ、一瞬ぬるりと不思議なものを感じた。まるで何かを舐め取られたような感覚だ。
「変な、声……出ちゃうから、その……恥ずかしくて」
「全然変じゃないわ。すっごく可愛い声よ。だから……アタシにもっと聞かせて」
「あぁっ!」
千優は囁かれる言葉を最後まで聞くことなく、挿入された指の快感に悶え軽く果てる。
性に関する知識は人並み以下、経験はほぼ皆無。そんな彼女は軽いパニック状態に陥り、ただ乱れた呼吸を整えようと浅く息を吐き出した。
「……ほら、ここ。わかる?」
「え? ……あっ」
そんな中、不意に片手を掴まれどこかへ導かれる。その先、指先が触れたのは何やら太くひどく熱い。
「不安がらないで。怖がらないで。アタシも……貴女と一緒だから」
國枝の導きによって指先が触れたモノ。その正体については流石の千優でも理解した様だ。
(國枝さんも……熱くて、ドキドキして……気持ち、いいの?)
時折ビクビクと震える熱を己の細い指に感じながら、そっと伏せていた視線を彼へ向ける。
そこには、頬を薄っすら染めながら、優しくそして淫靡に笑う國枝が居た。
「声も我慢しなくていいから。もっと、もっと聞かせてちょうだい。ね?」
自分より大きな身体に抱きこまれると、真綿の布団で包むようなぬくもりが全身へ広がっていく。
同時に、心の中に残っていた不安や戸惑いが少しずつ消えていくのがわかった。
「痛くないように、出来るだけ頑張るから。一緒に気持ちよくなろう……千優」
そっと囁く愛しい人の声に、再び伏せた瞼はかすかに震えるも、気づけば小さく首を縦に振り、千優は眼前の胸元にぎこちなく唇で触れた。
「い、ぁ……あ、あっ……ふぁ、あぁ!」
「くっ、はぁ……あっ……んんっ」
千優は己を抱きしめる男の背にしがみつき、絶え間なく与えられる快感に溺れていく。
先程まで感じていた羞恥心や不安など忘れてしまう程、大きく深い愛情が心と身体を満たしていくのがわかった。
國枝が懸命に慣らしてくれたものの、一際大きな彼の熱を受け入れた時は、快感より痛みが千優を襲う。
しかし、それよりも勝ったのは、愛する人と一つになれた喜びだった。
互いに相手の身体を抱きしめ、息つく暇もなく貪るような口づけの雨が降り注ぐ。
國枝との口づけは、セックスとは一味違う快感を千優に与えてくれる。
そのお陰か、彼女の蜜壺は止めどなく蜜を垂れ流し、時折咥えこんだ國枝の熱を強請るように蠢く。
無意識かつ本能的な欲求を、まだ上手く理解出来ない千優は、國枝を受け入れたまま、与えられるものを懸命に受け止めていった。
そして時には、精一杯の勇気を出して、彼の舌へ己のそれを絡めようと、舌先でツンツンと熱くぬるついたモノを突く。
たったそれだけのことで、國枝は破顔し、蜜壺に挿入された彼の熱もドクンと脈打ち反応を示す。
「く……だしゃ、あ、あっ……なんか、変で……ふぁ」
「はぁ、はぁ……一緒に、いこう、な……う、ぁ」
最初は穏やかに、こちらを労わるような動きを見せる國枝だったが、次第に彼の顔と動きから余裕が消えていく。
気づいた時にはもう、一心不乱に腰を振る彼の一際熱く太い熱に膣内を突かれ、千優は何も考えられなくなっていた。
ただ与えられる快感にその身を委ね、己の中で処理しきれなかった熱を、彼女は絶え間なく喘ぎへ変える。
「あっあっ、んん……あぁあっ」
「はぁはぁ……う、くっ……あぁっ」
二人は最後まで、腕の中にあるぬくもりを離そうとせず、深い深い互いへの愛に溺れながら果てていった。
◇ ◇ ◇
翌朝、國枝宅のベッドで目を覚ました千優は、全身を襲う強烈な筋肉痛のせいでその場から一歩も動けずにいた。
今日は平日、仕事があるのだと己を叱責するも、気持ちとは裏腹に身体は全然言う事を聞いてくれない。
「うぅ……し、ごとぉ……」
「もう。だから、今日は休みなさいって、昨日言ったでしょう?」
枕に埋もれていた顔をわずかに上げれば、視線の先では國枝が苦笑いを浮かべ自分を見下ろしている。
満身創痍な千優とは違い、妙に肌艶が良く、ピンピンしている彼の様子を目にすれば、心の底から憎らしさが湧き上がった。
(まさか……最初からこうなるってわかってた!?)
頭を過る可能性に、唖然としながら瞬きをくり返すこと数秒。
改めて見上げる先にいたのは、満面の笑みを浮かべる恋人だった。
「アタシも今日は休むから、二人でゆっくり過ごしましょうね」
ニコニコと微笑む彼氏様に文句を言おうにも、強烈すぎる筋肉痛がことごとく邪魔をする。
納得出来ずとも、國枝の提案を受け入れるしかない千優は、渋々手渡されたスマートフォンで、同期の文香に体調不良のメッセージを送った。
千優はこの時、まだ知りもしなかった。
介抱という名目で國枝から更なる愛情を注がれ、外が闇に包まれる頃ようやくアパートへ帰宅することを。
そして國枝に餌付けされる形で昼食を食べていた時、欠勤を心配する茅乃からの電話をきっかけに、即刻仮病がバレ、友人におもちゃにされることを。
『柳さんと國枝さんって、本当に性別と中身が真逆ですよねー』
以前、同じ会社の誰かが噂をしていた。
「柳ちゃん、大好きよ!」
「…………」
「あらー、赤くなっちゃって可愛いんだから!」
――きっと神様が、二人の性別を間違えたのだろうと。
「んん……國枝さん、や、やめてくださいっ」
「あぁ、悪い悪い。千優の耳、凄い真っ赤になってるから。つい美味そうだと思って……チュッ」
しかし――神様は間違わなかった。
二人にそれぞれの命と、互いを繋ぐ赤い糸を、しっかり授けたのだから。
おわり
「……っ、んん」
彼が発した言葉は、三度目となる國枝宅への招待だった。
しかし、差し出された招待状は千優の手に渡ることなく、熱く濃厚な口づけを交わす二人の間に消えていく。
恥ずかしくも嬉しい誘いに頷こうとした瞬間、唇を塞がれては何も出来ない。
気づいた時にはただ瞳を見開き、与えらえるだけの熱烈なキスを戸惑うばかりだ。
火照った唇に、熱のこもった自分を間近で見つめる視線。
それらはすべて、千優に國枝の熱を分け与え、彼女の身体に更なる熱を注ぐ。
注がれた熱は彼女の体内を巡り、じわりと股下を湿らせる。
戸惑いが抜けない脳内とは違い、千優の蜜壺は歓喜したように涎を垂らし、下着を濡らし始めた。
それは、交わりを覚え日の浅い彼女の確かな変化。その原因は、二人が仕事中こそこそと隠れ密会し、千優曰く國枝からのセクハラを受けたせいでもある。
密会時、國枝は千優の秘部を執拗に愛撫し早々に彼女を一度果てさせていた。
その後、ぐったりと疲れた様子でその場に座りこむ千優の唇を、彼は貪り続けた。
國枝が時間を見計らい立ち去るまでの間、二人は言葉ではなくキスを交わし続ける。
ただ唇を重ねるだけでなく、舌を擦り合わせ、唾液を吸い合い、時に与え合い、口内を舌で蹂躙され生まれる幾多の快感は、千優のナカを確実に変えていった。
無意識下ながら、散々愛する人から教えこまれた甘美な快楽は、すっかり彼女を虜にし、覚醒したばかりの女としての性を刺激する。
不意打ちのキスに驚愕し、身体を強張らせていた千優。
しかし、唇を食む彼の柔らかな唇の動きと分け与えられる熱に、その強張りは次第に溶けていき、見開いていたはずの瞳は、気づけば甘く蕩け、時折瞼の奥へ消えていく。
疑問形で質問しておきながら、國枝は端から拒否権など与えないのだ。
万が一戸惑う様子を見せたとしても、きっと彼は上手く不安な気持ちを絡めとってしまうはず。
「クチュ……っ、は。いい?」
「ぁ、ん……は、い……ふ、んっ」
最終確認の言葉に、掠れた声で返答をする。
それは、気を抜けば聞き逃しそうな程小さかったが、車内にいるのは二人だけ。しかも触れ合う程の距離にいる彼女達にとっては、何の問題も無かった。
千優の承諾を得た國枝は、彼女の宿泊用に荷物を取りに行くと言い、自宅よりも先に千優の住むアパートへ向かった。
「あ、そうだ。明日用の服は、普段着でいいからね」
その途中、信号待ちをしている最中、彼は思い出した様子で口を開く。
「……? でも、仕事が」
「一日くらい休んだって罰当たらないわよ。……どうせスーツ持って行っても、無駄になるだけだし」
「……?」
週末と違い、明日はごく普通の平日だ。二人共もちろん仕事がある。
だが、國枝は首を横に振った。直接的な言葉は口にしていないが、暗に仕事を休めと言っている様なもの。
スーツ一式を國枝のマンションへ持って行かなければと考えていた千優にとって、彼の言葉は予想外だった。
パチンとウィンクをする彼の言葉が示すことを、千優は半分も理解出来ていない。
どうしてと疑問を投げかけようにも、國枝の意識は青へ変わった信号へ向いたため、声をかけるタイミングを失ってしまった。
そのまま、どうすれば良いのかわからず、千優は大人しく助手席に座り、窓を通して見える景色を眺める。
時折運転席の様子を気にし、ふと隣を見つめれば、一瞬だが確かに互いの視線が絡みあう。
どこか気恥ずかしそうに微笑む男の様子を前に、千優まで頬が熱くなった。
疑問は解決しないまま、二人を乗せた車は確実にアパートへ近づいていく。
信号待ちの間、國枝は手持無沙汰なようで、鞄を掴掴んだままな千優の手を、大きな手のひらで覆い隠した。
そのまま彼は、優しく指の間を撫でられ、指と指を絡ませていく。
どことなく煽情的なものを感じた千優の脳内からは、次第に小難しい思考が消える。
ちらりと横へ視線を向ければ、相変わらず嬉し気に微笑む彼が居た。
瞳の奥に宿るわずかな欲の熱を感じ、身体の奥が不意に熱くなる。
「千優、大好きだよ」
「っ! わ、わたし、も……」
「んー?」
「大好き、です」
「うん、知ってる」
「……っ、馬鹿!」
どこまでも余裕を見せる彼の態度に、つい悪態をついてしまう。
悪戯好きな子供のように、彼はすぐ隣で愛を囁くのだ。
こちらの精神状態がパンク寸前なことなど、知っているはずなのに、攻撃が止まることはない。
本当に想いが通じたのだろうか。そんな不安が時折頭の中を過る。
しかし、すぐ隣にある頼もしい姿を瞳に映してしまえば、千優の中で最後まで燻っていた黒いモヤが、跡形もなく消えていくのがわかった。
「……っ、ん、ちゅ。はぁ……」
「んんっ! ん、ぁ。……ん、ふ」
アパートへ到着し、宿泊準備を済ませた千優は、再び國枝の車へ乗り込み、彼の住むマンションへ向かった。
彼に促されるまま玄関へ足を踏み入れ、「お、お邪魔します」と緊張気味の挨拶をしながら、靴を脱ごうと彼女は体を屈める。
しかしヒールに指を引っかけるよりも早く、背後からガチャリと鍵を施錠する音が聞こえた。
そして、背後から覆いかぶさるような抱擁と、熱烈な口づけの嵐が千優へ襲い掛かる。
移動中、必死に堪えたいたものを解き放つように、千優は國枝の腕の中に閉じ込められ、絶え間なく口づけを交わす。
そこにはもう、普段の余裕たっぷりな男の影は無い。
唐突過ぎる彼の行動に、千優は困惑するあまり瞬く間に、全身を強張らせていく。
しばらくすると、國枝から新たな刺激が与えられる。
それは、貪るようなキスとは正反対な、優しく背中を撫でる感覚だ。
まるで千優の緊張をほぐさんとする手つきは、なんとも言えぬ程心地良い。
荒ぶっていた彼の心も落ち着きを取り戻しつつあるようで、貪るだけだった口づけもいつの間にか変化していた。
千優の口内から、彼女の吐息や唾液、その他様々なものを吸い取ろうと、しつこく、そして厭らしいそれ。
加えて、恋愛初心者な千優にとって、許容オーバーな快楽を舌先の愛撫で小さな口へ送り込んでくる。
玄関に一歩足を踏み入れてから数分と経たず、千優はすっかり目の前の男によって染められていく。
その体からは徐々に力が抜けていき、いつの間にか手にしていたはずの鞄は、足元へ落ち転がっている。
いつもなら慌てて拾い上げるそれを、千優は一切気にする様子はなく、ただ自分を包み込む彼に、その身を委ねることだけに意識を向けた。
「ほんと……夢みたい。ん、はぁ……千優、好きだよ。愛してる」
愛を囁く甘やかな低音に、身体の奥がジンと熱くなった。遠慮がちに広い背中へ回していた両手が、思わず彼の上着を掴む。
「は、ぁ……くに、だ……んん」
羞恥心に負け閉じていた瞳をゆっくり開くと、視界に飛び込んできたのは獣と化す寸前の男の顔。
ギラついた熱い眼差しに思わず身体が震えそうになるが、千優は怯むことなく、両腕に力を込め体を自ら密着させる。
こんなに大胆な行動を取るのは、人生で初めてではないかと感じつつ、彼女は密着し一つになった彼の口内へ、熱い吐息を吐き出す。
真っ赤に染まる瞳の中に、ほんの少しだけ残る優しげな白。
今ここにいるのは、正真正銘自分が愛する人だという実感が、一際千優の胸を熱くした。
「だ、めで……國枝さ、ひゃっ」
「もう……ダメも嫌も禁止って言ってるじゃないの。ほら、聞こえる? 柳ちゃんの此処、アタシの指を美味しそうに飲み込んでるの」
照明を落とした薄暗い寝室には、女の羞恥に満ちた啼き声と、嬉々とした男の声が木霊する。
時折聞こえる熱く艶めかしい吐息と淫靡な水音は、二人の興奮を煽る材料としては十分すぎた。
家の中へ入った直後から、二人は時間を忘れ、玄関で靴すら脱がず、互いが飽きるまで情熱的な口づけを交わした。
國枝の拘束から解放された頃には、すっかり千優の息はあがってしまい、その顔は熱のせいで真っ赤に染まる。
そんな彼女の靴を手早く脱がせ、荷物一先ず廊下の隅へ置いた國枝は、そのまま千優を軽々抱え上げた。
彼女を横抱きにしたまま國枝が向かった先、それは寝室である。
『は? えっ、國枝さん、何して……』
『……ダメ?』
『うっ』
ベッドの上に下ろされてしまった千優が、戸惑いを隠せずにいると、何故か恋人は囁くような強請り声を発し迫ってくる。
潤んだ眼差しのおねだりに、何も言葉を返せず口を閉ざせば、ペロリと唇を舐め、ご機嫌な彼と目が合った。
千優はこの日、新たな自分の性格の一片を理解した。どうやら彼女は、愛する人の強気な態度とお強請りに弱いらしい。
戸惑っている間に、あれよあれよと服を脱がされ、気づけば身体の中心――蜜壺は角ばった男の指をのみ込んでいた。
終始逃げ腰の千優に國枝は迫り、たくさんのキスと愛撫、そして情熱的な愛を囁き続ける。
彼と体を重ねる行為が嫌というわけではない。そんな彼女の気持ちを表すならば、恥ずかしいの一点に尽きる。
前回は酒のせいで酔いつぶれていたこともあり、記憶と思考はどこか頼りなかった。
しかし、今日は酒を一滴も飲んでおらず、完全に素面状態だ。だからこそ、千優の心は恥ずかしさのあまり爆発寸前まで追い詰められている。
「あ、あっ……ンぁ……やぁっ」
到底自分のものとは思えぬ甘ったるい声が、意思に反し口からこぼれ落ちる。それだけでもう恥ずかしくてたまらない。
千優は必死に枕に顔を埋め、声を押し殺そうと努めた。
しかし、自身の奥から止めどなく流れる蜜の厭らしい音、そしてそれをかき混ぜる複数の指による刺激が、未知の快感となりビクビクと四肢を震わせる。
「柳ちゃん、目を開けて」
「っ……ぁ」
心に余裕など無く、力一杯閉じていた瞳は、額へ贈られたチュッと触れるだけの口づけと、耳元で囁かれた声によって開かれる。
すると、先程まであったはずの距離感は無くなり、鼻先が触れ合う程の距離で二人は互いを見つめ合っているではないか。
更なる羞恥に、千優の体温は上昇の一途を辿る。
「やっぱり怖い? ……止める?」
國枝が言葉を紡ぐたび、唇に彼の吐息がかかる。こんな状況にも関わらず、どこまでも優しいその態度に、不思議と愛しさがこみ上げた。
「やめ、な……でください。その……あの……んっ」
チュッと目元に口づけが落とされ、一瞬ぬるりと不思議なものを感じた。まるで何かを舐め取られたような感覚だ。
「変な、声……出ちゃうから、その……恥ずかしくて」
「全然変じゃないわ。すっごく可愛い声よ。だから……アタシにもっと聞かせて」
「あぁっ!」
千優は囁かれる言葉を最後まで聞くことなく、挿入された指の快感に悶え軽く果てる。
性に関する知識は人並み以下、経験はほぼ皆無。そんな彼女は軽いパニック状態に陥り、ただ乱れた呼吸を整えようと浅く息を吐き出した。
「……ほら、ここ。わかる?」
「え? ……あっ」
そんな中、不意に片手を掴まれどこかへ導かれる。その先、指先が触れたのは何やら太くひどく熱い。
「不安がらないで。怖がらないで。アタシも……貴女と一緒だから」
國枝の導きによって指先が触れたモノ。その正体については流石の千優でも理解した様だ。
(國枝さんも……熱くて、ドキドキして……気持ち、いいの?)
時折ビクビクと震える熱を己の細い指に感じながら、そっと伏せていた視線を彼へ向ける。
そこには、頬を薄っすら染めながら、優しくそして淫靡に笑う國枝が居た。
「声も我慢しなくていいから。もっと、もっと聞かせてちょうだい。ね?」
自分より大きな身体に抱きこまれると、真綿の布団で包むようなぬくもりが全身へ広がっていく。
同時に、心の中に残っていた不安や戸惑いが少しずつ消えていくのがわかった。
「痛くないように、出来るだけ頑張るから。一緒に気持ちよくなろう……千優」
そっと囁く愛しい人の声に、再び伏せた瞼はかすかに震えるも、気づけば小さく首を縦に振り、千優は眼前の胸元にぎこちなく唇で触れた。
「い、ぁ……あ、あっ……ふぁ、あぁ!」
「くっ、はぁ……あっ……んんっ」
千優は己を抱きしめる男の背にしがみつき、絶え間なく与えられる快感に溺れていく。
先程まで感じていた羞恥心や不安など忘れてしまう程、大きく深い愛情が心と身体を満たしていくのがわかった。
國枝が懸命に慣らしてくれたものの、一際大きな彼の熱を受け入れた時は、快感より痛みが千優を襲う。
しかし、それよりも勝ったのは、愛する人と一つになれた喜びだった。
互いに相手の身体を抱きしめ、息つく暇もなく貪るような口づけの雨が降り注ぐ。
國枝との口づけは、セックスとは一味違う快感を千優に与えてくれる。
そのお陰か、彼女の蜜壺は止めどなく蜜を垂れ流し、時折咥えこんだ國枝の熱を強請るように蠢く。
無意識かつ本能的な欲求を、まだ上手く理解出来ない千優は、國枝を受け入れたまま、与えられるものを懸命に受け止めていった。
そして時には、精一杯の勇気を出して、彼の舌へ己のそれを絡めようと、舌先でツンツンと熱くぬるついたモノを突く。
たったそれだけのことで、國枝は破顔し、蜜壺に挿入された彼の熱もドクンと脈打ち反応を示す。
「く……だしゃ、あ、あっ……なんか、変で……ふぁ」
「はぁ、はぁ……一緒に、いこう、な……う、ぁ」
最初は穏やかに、こちらを労わるような動きを見せる國枝だったが、次第に彼の顔と動きから余裕が消えていく。
気づいた時にはもう、一心不乱に腰を振る彼の一際熱く太い熱に膣内を突かれ、千優は何も考えられなくなっていた。
ただ与えられる快感にその身を委ね、己の中で処理しきれなかった熱を、彼女は絶え間なく喘ぎへ変える。
「あっあっ、んん……あぁあっ」
「はぁはぁ……う、くっ……あぁっ」
二人は最後まで、腕の中にあるぬくもりを離そうとせず、深い深い互いへの愛に溺れながら果てていった。
◇ ◇ ◇
翌朝、國枝宅のベッドで目を覚ました千優は、全身を襲う強烈な筋肉痛のせいでその場から一歩も動けずにいた。
今日は平日、仕事があるのだと己を叱責するも、気持ちとは裏腹に身体は全然言う事を聞いてくれない。
「うぅ……し、ごとぉ……」
「もう。だから、今日は休みなさいって、昨日言ったでしょう?」
枕に埋もれていた顔をわずかに上げれば、視線の先では國枝が苦笑いを浮かべ自分を見下ろしている。
満身創痍な千優とは違い、妙に肌艶が良く、ピンピンしている彼の様子を目にすれば、心の底から憎らしさが湧き上がった。
(まさか……最初からこうなるってわかってた!?)
頭を過る可能性に、唖然としながら瞬きをくり返すこと数秒。
改めて見上げる先にいたのは、満面の笑みを浮かべる恋人だった。
「アタシも今日は休むから、二人でゆっくり過ごしましょうね」
ニコニコと微笑む彼氏様に文句を言おうにも、強烈すぎる筋肉痛がことごとく邪魔をする。
納得出来ずとも、國枝の提案を受け入れるしかない千優は、渋々手渡されたスマートフォンで、同期の文香に体調不良のメッセージを送った。
千優はこの時、まだ知りもしなかった。
介抱という名目で國枝から更なる愛情を注がれ、外が闇に包まれる頃ようやくアパートへ帰宅することを。
そして國枝に餌付けされる形で昼食を食べていた時、欠勤を心配する茅乃からの電話をきっかけに、即刻仮病がバレ、友人におもちゃにされることを。
『柳さんと國枝さんって、本当に性別と中身が真逆ですよねー』
以前、同じ会社の誰かが噂をしていた。
「柳ちゃん、大好きよ!」
「…………」
「あらー、赤くなっちゃって可愛いんだから!」
――きっと神様が、二人の性別を間違えたのだろうと。
「んん……國枝さん、や、やめてくださいっ」
「あぁ、悪い悪い。千優の耳、凄い真っ赤になってるから。つい美味そうだと思って……チュッ」
しかし――神様は間違わなかった。
二人にそれぞれの命と、互いを繋ぐ赤い糸を、しっかり授けたのだから。
おわり
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みんなの感想(5件)
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新しい國枝さん!
前回の國枝さんも素敵でしたが、今回の國枝さんもいい‼︎
早く両思いになって欲しいけど、終わって欲しくない。
幸せになってね!
また楽しみながら読ませていただきます(╹◡╹)
ballyさんへ
二度目の感想、ありがとうございます!
改稿版の方も、楽しんでいただけているようで何よりです!(^^)!
以前の物を読んでくださった皆さまにも楽しんで頂けるよう、新エピソードを随所に散りばめましたので、今回もニヤニヤしながら楽しんでいただければと思います♪
完走お疲れ様でした!
綺麗な終わり方で満足満足
ちーちゃんさんへ
作品を読んでいただき、ありがとうございます!
皆さまの応援のお陰で、無事完結することが出来ました。
楽しんで頂けたようで、とても嬉しく思います♪
國枝さん素敵です!自分の気持ちに気づいた千優!ん~早く両想いになって欲しい!! 毎日0時を楽しみにしてたのに… 次回の更新を楽しみに待っています!
ballyさんへ
作品を読んでいただき、ありがとうございます!
連日の更新がストップしてしまい、申し訳ないです(;´Д`)
現在、続きを執筆中ですので、最新話は書きあがり次第アップしていきます。
なので、もうしばしお待ちください。