上 下
129 / 155
完結篇

第5話 堕ちるまでに①

しおりを挟む
 俺がいたのは、とても汚い町だった。
 貧富の格差が激しく、スラム街で当時はレナードと名乗っていた。あの時の俺はまだ人間だったと思う。茶髪で顔も違っていた。
 最初は一人でやっていた。食べ物や金目のものを盗んだ日々だった。
 ある日、女の子が大人に襲われていた。何度も子供相手に踏み続けた。そんな大人に腹立って、俺はその女の子を助けた。
 女の子と目が合う。
「ありがとう・・・ありがとう・・・」
 泣きながら言った。
「エリーゼ!」
 その時、3人の子供が駆け付けた。
 それがロビンとエリーゼの出会いで、俺の人生を一番関わっていた。
 

 それからグルーブで行動することになった。
 作戦を立てて、金目のものを盗んでいた。何度も成功していたからグループから信頼された。
 ロビンは、グループのリーダー的な存在で皆をまとめていた。最初は親しく接していたが、少しずつ俺に対する態度が変わっていた。それを比例するようにエリーゼは俺のことを気にしていた。
 エリーゼとロビンは幼馴染のようで、それもロビンが気に食わない理由だろう。
 もしかしたら、もうその時からエリーゼにかけてしまったかもしれない。俺も気付かずに。
 そんなある日、作戦が失敗して仲間の1人を死なせてしまった。
「おまえのせいだ」とロビンは俺に責めた。それでもエリーゼは俺のことをかばった。
それからグループ内で重い空気を作ってしまった。さらに追い込むようにこんな噂を聞いてしまった。
「訊いているか。最近この辺で人間狩りが起きているみたいだ」
「ほんとか。別のグループがやられたって」
「見つかる前に逃げようよ」
 グループ内で不安が高まった。
「明日出よう」
 思いっきり提案した。
「おい。噂だぞ。ガゼかもしれないぞ」とロビンは言う。
「流れた時点で警戒するべきだ。どっちにしてもこんなことは長く続かない」
「だとしても俺たちには・・・」
「金ならある。皆には黙っていたが、しばらく暮らせるほどの金はある。だから今夜この街から出よう」


「おい!その金をどうやって!」
 ロビンと二人きりで話していた。
「金は地下室にあるからそれを使え。俺はこのまま消える」
「消えるって・・・」
「俺のことを気に入らないのは知っている。丁度いいだろ」
「ぐ!おまえがいつも勝手だからだ!」
「他にもあるくせに」
 ロビンから離れた。
 

 そうだ。あの夜からだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシャリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌

招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」 毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。 彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。 そして…。

大好きな母と縁を切りました。

むう子
ファンタジー
7歳までは家族円満愛情たっぷりの幸せな家庭で育ったナーシャ。 領地争いで父が戦死。 それを聞いたお母様は寝込み支えてくれたカルノス・シャンドラに親子共々心を開き再婚。 けれど妹が生まれて義父からの虐待を受けることに。 毎日母を想い部屋に閉じこもるナーシャに2年後の政略結婚が決定した。 けれどこの婚約はとても酷いものだった。 そんな時、ナーシャの生まれる前に亡くなった父方のおばあさまと契約していた精霊と出会う。 そこで今までずっと近くに居てくれたメイドの裏切りを知り……

処理中です...