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第3章
4節 過去の気持ち、現在の気持ち②
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不意に浮かんだその言葉は、ユティルさん――アレニエさんの友人が、私に託した頼み事だ。
アレニエさんの助けになる。それは、戦いの時だけじゃない。心の面でも支えることができるなら、私にとっても喜ぶべきことであり、彼女への恩返しにもなる。そんなことを、改めて意識したからだろうか。脳裏に、昨夜のアレニエさんの様子が思い起こされる。
「(そうだ、あの時彼女は……)」
これが正解かは分からない。余計なお世話でしかないかもしれない。それでも、少しでも彼女の背中を押せたなら。
私は動悸する心臓を押さえながら、二人へ向けて一歩を踏み出す。
「アレニエさん……」
「なに? リュイスちゃん」
落ち着いた、けれど距離を感じさせる声色。見えない壁が彼女の心に通じる道を閉ざしているような感触。なるほど、これは近寄りがたい。共に旅をしている私でもそう感じるのだ。昨日今日再会したばかりのユーニさんなら、なおのこと踏み込みづらいだろう。
けれど、私は踏み込まなきゃいけない。離れてしまった二人の道を、私が交わらせなきゃいけない。いや、そうしたい。ユーニさんもだが、なによりアレニエさんの気持ちを、助けられるものなら助けてあげたい。
「……私には、幼いアレニエさんの心がどれほど傷ついたか、推し量ることしかできません。でも、今のアレニエさんの気持ちなら、少しは知っているつもりです」
心の道のりを、もう一歩踏み出す。少しずつ距離を縮めていく。
「アレニエさんは昨日、ユーニさんを追い返してしまったことを、後悔、していましたよね?」
ユーニさんが、それまで伏せていた顔をバっと上げる。
「そうなの……? レニちゃん……」
「え、と……。……」
私の指摘に言葉を詰まらせるアレニエさん。ハッキリと肯定はしないが、強く否定もしない。それなら、いけるかもしれない。
「それに今も。お墓に花を供えてたのがユーニさんだと知って、本当は少し嬉しかったんじゃないですか?」
「や、リュイスちゃん……あの、もう……あー……」
恥ずかしそうに顔を赤らめてもじもじするアレニエさん。閉ざされていた道が拓けるようなその様子を目にしながら、もう一歩、最後の一歩を踏み込む。
「過去の記憶や思いが簡単に消えてくれないのは、私にも分かります。でも、今の気持ちだって、もっと大事にしてあげていいんじゃないでしょうか。……今は、どうですか? アレニエさん。友達に戻りたいという気持ちは、少しもありませんか?」
私の問い掛けにしばらく動きを止めていたアレニエさんは、やがて静かに立ち上がり、ユーニさんに向き直る。顔を少し赤くし、俯いたまま一歩を踏み出し、徐々に彼女に近づいていく。
ユーニさんはそれに、わずかに身を強張らせる。まだアレニエさんがどう反応するか分からなくて怖いのだろう。私自身、彼女の気持ちが分かるなどと嘯いたものの、この後実際にどういう行動に出るかは読めない。
やがてユーニさんの元まで辿り着いたアレニエさんは……身をすくませる彼女を静かに、抱き締めた。
「レニ、ちゃ――」
「怒ってはないんだ、本当に。わたしは、ただ――……怖かったの」
「……レニちゃん」
「周りの大人の視線が怖かった。けどそれ以上に、昨日まで一緒に遊んでいた友達にあんな目で見られたことのほうがずっと怖かったし……悲しかった」
「……うん」
少しずつ、ユーニさんの瞳に涙が浮かんでくる。ここからでは見えないが、もしかしたらアレニエさんの目にも。
「かーさんも死んで本当に一人になって、勢いで村を飛び出して……その後、誰も来ない森で一人で生活してたんだよ、わたし? 可笑しいでしょ?」
「うん……うん……」
「しかも、その後勇者に会って殺されかかって……とーさんに助けてもらわなかったら、わたし、あそこで死んでたかも、しれな、くて……」
「う……」
次第に湧き出る嗚咽に耐え切れず、ユーニさんはボロボロと涙を流し始める。
「……ごめん……ごめんねぇ……!」
「いいよ……いいんだ。こっちこそ、ごめんね……」
私たち以外誰もいない村の外れで、二人の泣き声だけが、静かに響いていた。
***
「――そっか。レニちゃんは今、冒険者なんだ」
ひとしきり泣いて落ち着いたのか、二人は付近にあった倒木に腰掛け、互いに近況を報告し合っていた。
「うん。もう何年もやってるから、そこそこベテランだよ。この村に立ち寄ったのも、依頼の途中でたまたまだったんだ」
「……そうだよね。憶えていたら、わざわざこの村に来たりしなかったよね……」
「……そうだね。近づかなかったと思う。昔を知ってる人に気づかれたら、色々面倒だっただろうし」
「今の格好のレニちゃん見ても、誰も気づかないと思うよ。私だって、すぐには気づけなかったし」
「そうかな。そうかも」
「そういえば、依頼の途中で寄ったってことは、結構急いでる……?」
「ううん。しばらくはそんなに。それに今、ちょっと剣を修理に出してるから、直るまでは村に滞在するつもり」
「あぁ、ハウフェンさんのところね。そう、よかった。それなら、こうして話す機会もまだ作れそうだね」
「ユーニちゃんのほうは、今は? 他にそれらしい人見なかったけど、宿の店主やってるの?」
「ううん、ただの代理。お父さんとお母さんは大きな街に出稼ぎに行ってるから、私が代わりに宿を切り盛りして――」
二人は先程までの緊張が嘘のように仲睦まじく談笑している。特にアレニエさんはいつもの笑顔の仮面ではなく、わずかではあるが自然な表情を覗かせていた。それが、私には嬉しい。
そうしてしばらく二人の様子を、一歩引いた位置から満足げに眺めていたのだが……
「――で、この子がリュイスちゃん。今回の旅の依頼人、兼、わたしのパートナー。色々あってわたしの過去のことももう話してるから、そのあたりは気を遣わなくていいよ」
「パートナー……そうなんだ」
アレニエさんが簡単に私のことを紹介する。いつの間にか話題の種が私に移っていたようだ。
「何度か顔は合わせてるけど、まずは自己紹介からかな。私は、ユーニ・ガストハオス。この村の冒険者の宿、〈森の恵み亭〉の店主代理です。よろしくね」
「あ、その……リュイス・フェルムと言います。よろしくお願いします」
「うん。……改めて、ありがとうね、リュイスさん。今こうしてレニちゃんと話せてるのは、貴女のおかげ」
「いえ、私はそんな……」
私がしたのは、ただアレニエさんの背中をほんの少し押しただけで、その後は彼女たち二人が自力で解決したも同然だ。改まって礼を言われるほどのことでは……
「謙遜しなくていいよ、リュイスちゃん。リュイスちゃんにああ言われなかったら、わたし多分あのまま動けなかっただろうから」
「え、と……あう……」
アレニエさんまでそんなことを言うので、私の頬は照れて赤くなっていた。普段――特に総本山では人から礼を言われることなど皆無だったので、慣れない体験になおさら頬がむずがゆくなる。
「照れてるリュイスちゃんもかわいいなぁ」
「あの、あんまり、からかわないでください……」
真っ赤になった私の頬を、アレニエさんがムニムニといじる。それを見たユーニさんが、ポツリと呟いた。
「リュイスさんと、ずいぶん仲がいいんだね」
「ん?」
「レニちゃんが過去のことを話していたり、さっきもパートナーって言っていたり……もしかして、二人はそういう仲なのかな……?」
「え、と、ユーニさん、急に何を――」
「そうです」
「――って、アレニエさん!?」
何を堂々と言ってるのこの人!?
「やっぱり、そうなんだ……噂には聞いてたんだ。神官は女性が多いし、女性を好きな人も多いって」
「いや、あの、ユーニさん? 貴女も何を仰っているので?」
「でも、私だって負けるつもりはないよ。確かにリュイスさんは恩人だけど、これに関しては別の問題だからね」
言うが早いかユーニさんは、アレニエさんの頬に手を添え、小鳥がついばむようにそっと唇を重ねる。
「な、な……!」
「……ユーニちゃん?」
唇と唇を触れ合わせるだけの短い口づけ。近づけていた顔を離し、ユーニさんが少しいたずらっぽい表情を浮かべる。
「気持ちの伝え方。昔、レニちゃんに教えてもらったでしょ?」
「や、それは大人の男女でするもの、って訂正したの、ユーニちゃんのほうじゃなかった?」
「そうだっけ? 忘れちゃった」
彼女はアレニエさんに晴れ晴れとした笑顔を返す。この顔は絶対憶えている顔だ。
「ア、ア、アレニエさん! ユーニさんも! こんな時間からそんなこと、いけないと思います!」
混乱してて、自分でも何言ってるのかちょっと分からない。なんだ時間て。
「あ、リュイスちゃんもする? わたしはリュイスちゃんとだったらいつでもいいよ」
「んなっ!?」
明け透けな発言に顔が爆発したように真っ赤になってしまう。
「ほらほら。普段なかなかしてくれないんだし、こういう機会にむちゅーっと情熱的にしてくれても神さまたちも怒らないと思うよ?」
「え……や、その……」
私はアレニエさんの要求におろおろと狼狽える。確かにあれ以来してなかったけど、こんな屋外で、こんな早朝から、ユーニさんが見てる前でするなんて……
「リュイスさんは結局しないの? じゃあ、せっかくだから私がもう一回レニちゃんと――」
「ダメーーーー!?」
なおも口づけをねだろうとするユーニさんに反射的に反発し、私は叫んだ。そして彼女からアレニエさんを奪い取り、自分の胸元に引き寄せ、抱き締める。
「わ、私、も……私だって、アレニエさんのことが……!」
勢いに押された私は、自身の顔をゆっくりと彼女に近づけていく。
動悸が早い。心臓の音がうるさいほどに響いている。
顔が熱い。熱に浮かされたように頭がぼーっとする。
二人の視線を感じる。恥ずかしさでさらに顔が熱くなっていく。
アレニエさんの匂いに、周囲の土と花の香りが混じる。思えば初めてした時もこんな屋外だった。
鳴り止まない心臓。顔の熱。見られている。外の匂い。全てがぐるぐると渦巻いて……
気が付いた時には、私と彼女の唇は、触れ合っていて。
「……!?」
慌ててその場を飛び退こうとしたのだが、それを逃がすまいとアレニエさんが私を捕まえる。
「~~かわいい! かわいいよリュイスちゃん! たまんないよ!」
そして抱き締める。ぎゅーっと、感極まったように、アレニエさんが絡みついて離してくれない。それにまた、私の顔は赤くなってしまう。
「もう、なんなんですか、これ……」
顔は熱いままだが、なんだか気が抜けてしまい、体から力が抜けてしまう。けれど……こうやって抱き締められるのも、気持ちの伝え方の一つだ。全身で私を愛でるアレニエさんにドキドキしながら、同時に安心感を覚え、少しづつ落ち着いた気持ちになっていく。
されるがままに抱かれていた私の視界、アレニエさんの肩越しに、ユーニさんの姿が映る。
彼女は、抱き合う私たちの様子を微笑ましそうに、けれど少し寂しそうに、見つめていた。
アレニエさんの助けになる。それは、戦いの時だけじゃない。心の面でも支えることができるなら、私にとっても喜ぶべきことであり、彼女への恩返しにもなる。そんなことを、改めて意識したからだろうか。脳裏に、昨夜のアレニエさんの様子が思い起こされる。
「(そうだ、あの時彼女は……)」
これが正解かは分からない。余計なお世話でしかないかもしれない。それでも、少しでも彼女の背中を押せたなら。
私は動悸する心臓を押さえながら、二人へ向けて一歩を踏み出す。
「アレニエさん……」
「なに? リュイスちゃん」
落ち着いた、けれど距離を感じさせる声色。見えない壁が彼女の心に通じる道を閉ざしているような感触。なるほど、これは近寄りがたい。共に旅をしている私でもそう感じるのだ。昨日今日再会したばかりのユーニさんなら、なおのこと踏み込みづらいだろう。
けれど、私は踏み込まなきゃいけない。離れてしまった二人の道を、私が交わらせなきゃいけない。いや、そうしたい。ユーニさんもだが、なによりアレニエさんの気持ちを、助けられるものなら助けてあげたい。
「……私には、幼いアレニエさんの心がどれほど傷ついたか、推し量ることしかできません。でも、今のアレニエさんの気持ちなら、少しは知っているつもりです」
心の道のりを、もう一歩踏み出す。少しずつ距離を縮めていく。
「アレニエさんは昨日、ユーニさんを追い返してしまったことを、後悔、していましたよね?」
ユーニさんが、それまで伏せていた顔をバっと上げる。
「そうなの……? レニちゃん……」
「え、と……。……」
私の指摘に言葉を詰まらせるアレニエさん。ハッキリと肯定はしないが、強く否定もしない。それなら、いけるかもしれない。
「それに今も。お墓に花を供えてたのがユーニさんだと知って、本当は少し嬉しかったんじゃないですか?」
「や、リュイスちゃん……あの、もう……あー……」
恥ずかしそうに顔を赤らめてもじもじするアレニエさん。閉ざされていた道が拓けるようなその様子を目にしながら、もう一歩、最後の一歩を踏み込む。
「過去の記憶や思いが簡単に消えてくれないのは、私にも分かります。でも、今の気持ちだって、もっと大事にしてあげていいんじゃないでしょうか。……今は、どうですか? アレニエさん。友達に戻りたいという気持ちは、少しもありませんか?」
私の問い掛けにしばらく動きを止めていたアレニエさんは、やがて静かに立ち上がり、ユーニさんに向き直る。顔を少し赤くし、俯いたまま一歩を踏み出し、徐々に彼女に近づいていく。
ユーニさんはそれに、わずかに身を強張らせる。まだアレニエさんがどう反応するか分からなくて怖いのだろう。私自身、彼女の気持ちが分かるなどと嘯いたものの、この後実際にどういう行動に出るかは読めない。
やがてユーニさんの元まで辿り着いたアレニエさんは……身をすくませる彼女を静かに、抱き締めた。
「レニ、ちゃ――」
「怒ってはないんだ、本当に。わたしは、ただ――……怖かったの」
「……レニちゃん」
「周りの大人の視線が怖かった。けどそれ以上に、昨日まで一緒に遊んでいた友達にあんな目で見られたことのほうがずっと怖かったし……悲しかった」
「……うん」
少しずつ、ユーニさんの瞳に涙が浮かんでくる。ここからでは見えないが、もしかしたらアレニエさんの目にも。
「かーさんも死んで本当に一人になって、勢いで村を飛び出して……その後、誰も来ない森で一人で生活してたんだよ、わたし? 可笑しいでしょ?」
「うん……うん……」
「しかも、その後勇者に会って殺されかかって……とーさんに助けてもらわなかったら、わたし、あそこで死んでたかも、しれな、くて……」
「う……」
次第に湧き出る嗚咽に耐え切れず、ユーニさんはボロボロと涙を流し始める。
「……ごめん……ごめんねぇ……!」
「いいよ……いいんだ。こっちこそ、ごめんね……」
私たち以外誰もいない村の外れで、二人の泣き声だけが、静かに響いていた。
***
「――そっか。レニちゃんは今、冒険者なんだ」
ひとしきり泣いて落ち着いたのか、二人は付近にあった倒木に腰掛け、互いに近況を報告し合っていた。
「うん。もう何年もやってるから、そこそこベテランだよ。この村に立ち寄ったのも、依頼の途中でたまたまだったんだ」
「……そうだよね。憶えていたら、わざわざこの村に来たりしなかったよね……」
「……そうだね。近づかなかったと思う。昔を知ってる人に気づかれたら、色々面倒だっただろうし」
「今の格好のレニちゃん見ても、誰も気づかないと思うよ。私だって、すぐには気づけなかったし」
「そうかな。そうかも」
「そういえば、依頼の途中で寄ったってことは、結構急いでる……?」
「ううん。しばらくはそんなに。それに今、ちょっと剣を修理に出してるから、直るまでは村に滞在するつもり」
「あぁ、ハウフェンさんのところね。そう、よかった。それなら、こうして話す機会もまだ作れそうだね」
「ユーニちゃんのほうは、今は? 他にそれらしい人見なかったけど、宿の店主やってるの?」
「ううん、ただの代理。お父さんとお母さんは大きな街に出稼ぎに行ってるから、私が代わりに宿を切り盛りして――」
二人は先程までの緊張が嘘のように仲睦まじく談笑している。特にアレニエさんはいつもの笑顔の仮面ではなく、わずかではあるが自然な表情を覗かせていた。それが、私には嬉しい。
そうしてしばらく二人の様子を、一歩引いた位置から満足げに眺めていたのだが……
「――で、この子がリュイスちゃん。今回の旅の依頼人、兼、わたしのパートナー。色々あってわたしの過去のことももう話してるから、そのあたりは気を遣わなくていいよ」
「パートナー……そうなんだ」
アレニエさんが簡単に私のことを紹介する。いつの間にか話題の種が私に移っていたようだ。
「何度か顔は合わせてるけど、まずは自己紹介からかな。私は、ユーニ・ガストハオス。この村の冒険者の宿、〈森の恵み亭〉の店主代理です。よろしくね」
「あ、その……リュイス・フェルムと言います。よろしくお願いします」
「うん。……改めて、ありがとうね、リュイスさん。今こうしてレニちゃんと話せてるのは、貴女のおかげ」
「いえ、私はそんな……」
私がしたのは、ただアレニエさんの背中をほんの少し押しただけで、その後は彼女たち二人が自力で解決したも同然だ。改まって礼を言われるほどのことでは……
「謙遜しなくていいよ、リュイスちゃん。リュイスちゃんにああ言われなかったら、わたし多分あのまま動けなかっただろうから」
「え、と……あう……」
アレニエさんまでそんなことを言うので、私の頬は照れて赤くなっていた。普段――特に総本山では人から礼を言われることなど皆無だったので、慣れない体験になおさら頬がむずがゆくなる。
「照れてるリュイスちゃんもかわいいなぁ」
「あの、あんまり、からかわないでください……」
真っ赤になった私の頬を、アレニエさんがムニムニといじる。それを見たユーニさんが、ポツリと呟いた。
「リュイスさんと、ずいぶん仲がいいんだね」
「ん?」
「レニちゃんが過去のことを話していたり、さっきもパートナーって言っていたり……もしかして、二人はそういう仲なのかな……?」
「え、と、ユーニさん、急に何を――」
「そうです」
「――って、アレニエさん!?」
何を堂々と言ってるのこの人!?
「やっぱり、そうなんだ……噂には聞いてたんだ。神官は女性が多いし、女性を好きな人も多いって」
「いや、あの、ユーニさん? 貴女も何を仰っているので?」
「でも、私だって負けるつもりはないよ。確かにリュイスさんは恩人だけど、これに関しては別の問題だからね」
言うが早いかユーニさんは、アレニエさんの頬に手を添え、小鳥がついばむようにそっと唇を重ねる。
「な、な……!」
「……ユーニちゃん?」
唇と唇を触れ合わせるだけの短い口づけ。近づけていた顔を離し、ユーニさんが少しいたずらっぽい表情を浮かべる。
「気持ちの伝え方。昔、レニちゃんに教えてもらったでしょ?」
「や、それは大人の男女でするもの、って訂正したの、ユーニちゃんのほうじゃなかった?」
「そうだっけ? 忘れちゃった」
彼女はアレニエさんに晴れ晴れとした笑顔を返す。この顔は絶対憶えている顔だ。
「ア、ア、アレニエさん! ユーニさんも! こんな時間からそんなこと、いけないと思います!」
混乱してて、自分でも何言ってるのかちょっと分からない。なんだ時間て。
「あ、リュイスちゃんもする? わたしはリュイスちゃんとだったらいつでもいいよ」
「んなっ!?」
明け透けな発言に顔が爆発したように真っ赤になってしまう。
「ほらほら。普段なかなかしてくれないんだし、こういう機会にむちゅーっと情熱的にしてくれても神さまたちも怒らないと思うよ?」
「え……や、その……」
私はアレニエさんの要求におろおろと狼狽える。確かにあれ以来してなかったけど、こんな屋外で、こんな早朝から、ユーニさんが見てる前でするなんて……
「リュイスさんは結局しないの? じゃあ、せっかくだから私がもう一回レニちゃんと――」
「ダメーーーー!?」
なおも口づけをねだろうとするユーニさんに反射的に反発し、私は叫んだ。そして彼女からアレニエさんを奪い取り、自分の胸元に引き寄せ、抱き締める。
「わ、私、も……私だって、アレニエさんのことが……!」
勢いに押された私は、自身の顔をゆっくりと彼女に近づけていく。
動悸が早い。心臓の音がうるさいほどに響いている。
顔が熱い。熱に浮かされたように頭がぼーっとする。
二人の視線を感じる。恥ずかしさでさらに顔が熱くなっていく。
アレニエさんの匂いに、周囲の土と花の香りが混じる。思えば初めてした時もこんな屋外だった。
鳴り止まない心臓。顔の熱。見られている。外の匂い。全てがぐるぐると渦巻いて……
気が付いた時には、私と彼女の唇は、触れ合っていて。
「……!?」
慌ててその場を飛び退こうとしたのだが、それを逃がすまいとアレニエさんが私を捕まえる。
「~~かわいい! かわいいよリュイスちゃん! たまんないよ!」
そして抱き締める。ぎゅーっと、感極まったように、アレニエさんが絡みついて離してくれない。それにまた、私の顔は赤くなってしまう。
「もう、なんなんですか、これ……」
顔は熱いままだが、なんだか気が抜けてしまい、体から力が抜けてしまう。けれど……こうやって抱き締められるのも、気持ちの伝え方の一つだ。全身で私を愛でるアレニエさんにドキドキしながら、同時に安心感を覚え、少しづつ落ち着いた気持ちになっていく。
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