【完結】社畜でしたが冷酷で慈悲深い吸血鬼におやつとして愛されます――転移したら唯一無二の高級食材でした

牛丸 ちよ

文字の大きさ
59 / 63
エピソード・ゼロ

0-1 出征前

しおりを挟む
 使用人全員に暇を与えた。この庭園は枯れるだろう。

 月明かりに照らされた木々を眺める。
 どの季節でも楽しめるよう、様々な種類を植えさせた。沈丁花、無花果、花菖蒲、犬槐……庭師自慢の景色も今夜が見納めだ。

「なんだ? 光が……」

 花壇の片隅に弱々しい光が見えた。まるで小さな星が一粒、空から落ちてきたようだ。

 すすり泣くように揺れる光にそっと近付く。

「おまえ、さまよう魂ウィルオウィスプか?」

 かがんで声をかけるが、こちらの声が聞こえているのかもわからない。

「生まれ変わる魂がなぜ独りでいる。しかも、こんな場所で……。神の導きからはぐれたか」

 伝承で聞く存在を目の当たりにしても、不思議とそれほど驚かなかった。

 仲間を探す一匹の光虫のような、夜の海を渡る一艘の船灯のような、不安と孤独を感じさせる輝きに思わず憫笑びんしょうしてしまう。

「ふふ、いまの私のようだな」

 行く末のわからない闇をあてもなく彷徨さまようことになりながら、それでも輝きを放って誰かを呼び続けている。

「私はしばらく戻らないし、人が寄りつく場所でもない。ここにいても退屈だぞ。──光は見えるか? そこへ行けば来世へ行けるはずだが……飛ぶ余力がないのか」

 思いついて、首につけていたネックレスを外す。なんでも良かったが、指輪やボタンよりかは失くさないと思えたからだ。
 どこが首かもわからないが、光の玉へチェーンをかけてやる。

「これを渡そう。ドラキュリア家に代々伝わるネックレスだ。宝石に私の魔力を込めておく。──力になりそうか? おお、浮いたな」

 光がよろよろと浮き上がり、私も嬉しくなる。

 ……こんな小さな善行をしたところで、これからの自分の罪が軽くなるとは思わない。

「名もなき魂よ、私はこれから戦争に行く。我々はあれらを見せしめに嬲り尽くすだろう」

 そうしなければこの国に安寧はない。

 あれらは我々の魔法技術を盗むため、誘拐、生体解剖をやめない。科学などという得体の知れない技術とかけ合わせ、滅茶苦茶な実験を仕掛けてくる。
 あれらこそ……我々を同じ生き物と思っていない。

「これ以上増長させるわけにはいかないと、魔王は判断した。私も賛成したことだ」

 そうだ、私が自分で決めた。彼らから歴史を奪い、家族を奪うことを。

「あれらに我々とそう変わらない知能や痛みを感じる力があるとしても、私は魔族のために働くつもりだ」

 光がゆっくりと空に上がっていく。
 数々の星の輝きに紛れて、今まで話していた魂がどれだか見失った。

 送り出した側でありながら、なんだか取り残されたような気になってしまう。

「おまえの旅路に幸福があるよう祈る。

 ……魂の生まれ変わりにどれほどの時が経つものか知らないが、もし道に迷ったら、そのネックレスを持って私の元へ来なさい。きっと力になってやろう。

 どうか覚えておいてくれ。ジェード・ドラキュリアにも慈悲の心があったことを。

 私自身が忘れても……」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学で逃げ出して後悔したのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】

ゆらり
BL
 帝国の侵略から国境を守る、レゲムアーク皇国第一魔導騎士団の駐屯地に派遣された、新人の魔導騎士ネウクレア。  着任当日に勃発した砲撃防衛戦で、彼は敵の砲撃部隊を単独で壊滅に追いやった。  凄まじい能力を持つ彼を部下として迎え入れた騎士団長セディウスは、研究機関育ちであるネウクレアの独特な言動に戸惑いながらも、全身鎧の下に隠された……どこか歪ではあるが、純粋無垢であどけない姿に触れたことで、彼に対して強い庇護欲を抱いてしまう。  撫でて、抱きしめて、甘やかしたい。  帝国との全面戦争が迫るなか、ネウクレアへの深い想いと、皇国の守護者たる騎士としての責務の間で、セディウスは葛藤する。  独身なのに父性強めな騎士団長×不憫な生い立ちで情緒薄めな甘えたがり魔導騎士+仲が良すぎる副官コンビ。  甘いだけじゃない、骨太文体でお送りする軍記物BL小説です。番外は日常エピソード中心。ややダーク・ファンタジー寄り。  ※ぼかしなし、本当の意味で全年齢向け。 ★お気に入りやいいね、エールをありがとうございます! お気に召しましたらぜひポチリとお願いします。凄く励みになります!

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

溺愛の加速が尋常じゃない!?~味方作りに全振りしたら兄たちに溺愛されました~

液体猫(299)
BL
毎日AM2時10分投稿 【《血の繋がりは"絶対"ではない。》この言葉を胸に、末っ子クリスは過保護な兄たちに溺愛されながら、大好きな四男と幸せに暮らす】  アルバディア王国の第五皇子クリスが目を覚ましたとき、九年前へと戻っていた。  巻き戻す前の世界とは異なるけれど同じ場所で、クリスは生き残るために知恵を振り絞る。  かわいい末っ子が過剰なまでにかわいがられて溺愛されていく──  やり直しもほどほどに。罪を着せた者への復讐はついで。そんな軽い気持ちで始まった新たな人生はコミカル&シリアス。だけどほのぼのとしたハッピーエンド確定物語。  主人公は後に18歳へと成長します(*・ω・)*_ _)ペコリ ⚠️濡れ場のサブタイトルに*のマークがついてます。冒頭のみ重い展開あり。それ以降はコミカルでほのぼの✌ ⚠️本格的な塗れ場シーンは三章(18歳になって)からとなります。 ⚠️若干の謎解き要素を含んでいますが、オマケ程度です!

処理中です...