【完結】社畜でしたが冷酷で慈悲深い吸血鬼におやつとして愛されます――転移したら唯一無二の高級食材でした

エピソード・ゼロ

０-２ 女神たち

　はい、次の魂ー。
　ん？　この子、なんか薄汚れてるわね。
　年季を感じるというか、なんでかもうスキル付与されてるし……。

　はぁ、この子も《アレ》か。

　うん？　あー、新人ちゃんはわからないよね。
　前任の女神がねー。転生待ちの魂の振り分けが雑だったらしくてね。そうそう、いまは退職して地球のガストで働いてるあの子ね。

　振り分けが乱暴すぎて、天界の転生レーンから落ちて地上に降る魂が多かったみたいなのよね。
　在庫の紛失もいいところよ。

　地上から天に昇るのってエネルギーがいるから、大抵の魂は地上でさまよい続けて腐るんだけど、たまにいるのよねー。自力で天へ戻ってくる魂。
　これがそう。

　送られてくる死者の魂ってさ、スキル汁のバケツに突っ込んで才能スキルを与えてから、それぞれの転生レーンに手渡しするじゃない？
　あ、そっちは「解脱」とか「無」とか呼ばれる穴で上位女神しか関わらないから、いまはまだ覚えなくて大丈夫だよ。

　でね、こういう、もうスキル汁に漬かった後っぽい魂は、そのままレーンを移してオッケーだからね。
　たまに二度漬けする女神がいるけど、あれって本来ダメなことだから、覚えておいて。

　この子は『栄養満点で美味しい』っていうスキルがもう付与されてるんだね。食べ物で困ってそうな世界の……植物に転生で良いかも。

　おとなしい魂だし、新人ちゃん持ってみなよ。
　このレーンに置こっか。

　そうだよー。前がインシデントだらけだったから、いまの女神は数人シフト体制になったのよね。

　ん？　その魂、なんか変だって？
　ほんとだね。なにか持ってる。
　埋まってるからよく見えないし、取れないな。
　こういうのって、転生先に前世の記憶を持ち込む原因になるんだよねー。記憶が残ってると外見にも影響が出ることがあるから、良くないんだよなぁ。
　ま、仕方ない。このまま行かせちゃいなよ。
　上に報告するとレーン止まっちゃうもん。ダルいしょ。
　それに、報告して「無」行きにするのは気の毒じゃん。
　前任の雑な仕事のせいで、この子は悪くないもんね。
　やってみようよ。何かあったら先輩の私が謝るだけだからさ。

　どんな植物に生まれ変わるだろうねー。
　おいしいニンジンとか、あるいは耽美吸血鬼が食はむ薔薇の花にでも。……ピンポイントすぎる？　あはは、最近映画見たんだよね。めっちゃイケメンの吸血鬼が出るヤツ。良かったよ～。

　あっ！！
　あああ、なにあれ、別のやんちゃな魂にぶつかられて隣のレーンに弾かれちゃった。
　あれって、人間に転生するレーンじゃない？

　おわー、勢い余ってそっちのレーンでも玉突き事故ってる。
　ぶつかられた魂のほう、スキル汁まだ乾いてなかったな。あのあたりの位置にいてまだ乾いてないって、担当した女神はバケツにどうジャブジャブ漬けたんだ。しかもなんか……あの加護の輝き……特別対応してないか？　あれはあれで問題じゃないの？

　……あれ？　『美味しい』の魂のコ、どこ行った？　見失っちゃった。新人ちゃんわかる？
　…………レーンから転がり落ちてった？
　また地上落ち？

　あーあ。あんな運がない魂もいるんだね。
　魂が腐るとね、もう目も当てられないよ。
　でも、あれだけエネルギーを持ってる魂だと、地上をさまよううちに自力で肉体を《復元》しそうだなあ。
　かわいそうに。それはそれで、苦労するよ～。