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吸血鬼と人間 編

22 魔王と魔王城

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 飛竜ワズワースと再会し、魔王城までびゅんとひとっ飛び。

 城は魔都から離れたさみしい土地にあった。
 常に曇り空で、たまに酸の雨が降る。地上は瘴気に満ちて枯れ、汚染された水たまりしかない。
 限られた種族しか生きられない過酷な環境なのだそうだ。

 城はおどろおどろしくも威厳のある構えで、安っぽい言い方をするとゲームのラスボスがいかにも住んでそう。
 広いバルコニーがあり、飛竜はそこへ降り立つ。
 魔法の空調で快適だったキャリッジを出ると、とたんに息苦しくなる。空気が重くて痛い。

「この気候に長居するとおそらくおまえは死ぬ」

「わかった。早歩きで行こう?」

 びくびくしながらジェードの後ろについていく。
 広い廊下に俺たち二人の足音が響いた。
 前方からも、足音が近付いてくることに気付く。


「ジェード! 我が友、久しいな」


 現れたのは雄々しく美しい男だった。真赤な髪が薄暗い城の中で輝き、神を模した彫刻芸術のような造形をしている。その笑顔の眩しさも太陽を連想させた。
 陰気で黒装束のジェードがものすごく暗く見える。

「ベクトルド、相変わらずだな。これは私の……携帯食のハヤトキだ」

「はじめまして、携帯食のハヤトキです」

おれは魔王ベクトルド。人間の客は久しぶりだ。よく来てくれたなぁ!」

 魔王ベクトルドは気さくな好青年だった。力強い握手をされる。住んでいるところとのギャップといい、イメージしてた感じと違うな。

 立ち話も何だからと客間へ案内される。
 そこは、だだっ広いタイル張りの部屋にソファとテーブルがぽんと置かれていた。
 ベクトルドと、ジェードと俺。一対二で向き合う形になって座る。

 テーブル上にティーカップやポットが現れた。いまさら魔法に驚かない。
 良い香りをさせながら紅茶が注がれ、三者それぞれの前にソーサーに乗ったカップは移動する。

 手に取る前にジェードを見やると、首を横に振られた。飲まないほうが良さそうだ。
 ……使われた水がどこから汲まれてきたのか考えると、確かに怖い。

 ベクトルドは気にせずに紅茶をぐびぐび飲んでいた。ジェードもだ。魔族の消化器官、強いな。

「ついにまともな食事をする気になったのか。百年前から菜食主義のようになって、みるみる痩せていたからなぁ。安心したぞ」

「国が食糧難になっているのに、私ばかりが贅沢をするわけにもいかんだろう」

 二人は王と臣下しんかである以前に、友達でもあるらしい。声色や仕草から親しさを感じ取れた。

「ははは、おぬしのそういう律儀なところがおれは好きだぞ。──ハヤトキ、これを頼んだぞ。どんどん太らせてやってくれ」

 急に話題が飛んできて、背筋が伸びる。

「は、はい」

 ジェードがカップの乗ったソーサーをテーブルに置いた。そして立ち上がる。

「では、勇者の捜索もあるのでな。これで失礼する」

 慌てて俺も立ち上がった。

「なんだ、もう行くのか。せっかく来たのだから、農場ファームについて相談に乗ってほしいんだがなぁ」

「政治は門外漢だ。勘弁してくれ」

 ジェードは魔王と親しげに話すわりに早く帰りたがっている。
 俺の体調への気遣いか、体質を悟らせたくないか、あるいは、したくない話があるのか……。

「わかったわかった。おぬしはおぬしの仕事をすればいい」

「ああ。情報は都度共有する」

「……ジェード。なぜいつも勇者を殺さない? 手加減をするから今回のように逃すのだろう。《まぞくと動物の間》たる"人間"に情けをかけたところで、あだで返されるだけだぞ」

「ヴィニを私に任せたのはおまえだ。私のやり方に口出しは無用」

「はいはい。じゃあな」

「──行こう、ハヤトキ」

 かつ、かつ、かつ。早いペースで進む足音を追いかける。

 背中に、いつまでも魔王の視線を感じていた。
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