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吸血鬼と人間 編
21 勇者、ふたたび【2】
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湖にやっと着いて、水面を覗き込んだらちょうどロコが顔を出した。
「ハヤトキ! ジェードが探してたよ」
開口一番にそう言われ、ジェードの不機嫌な顔がたやすく頭に浮かぶ。
「出かけるってちゃんと伝えたんだけどな」
「このあたりで彼にわかんないことなんかないのに、キミの気配を見失ったみたいで焦った様子だった。一体、どんな魔法を使ったの?」
「あー……。急いで帰るよ」
勇者と一緒にいたからかもしれない。彼はジェードを撒けるくらいに気配を消す力を持っている。
「そういえば、バウとすれ違わなかった? キミを探しに行ったんだけど」
「バウと?」
嫌な予感がした。
彼は俺だけではなく、勇者の匂いも知っている。
ロコに別れを告げ、急いで道を引き返す。
すると、バウとはすぐに会えた。
彼のほうが俺の匂いをたどってきたからだ。
「ああ! 良かった。途中で見失ったから消滅したのかと思ったぜ」
汗をかいた姿で駆け寄られ、ずいぶん探してくれていたのがわかる。
「ごめん、いろいろあって……その、さっき勇者リオンに助けてもらったんだ。彼はもうどこかへ行ってしまったんだけど」
「あの野郎、まだこの森にいたのか! 俺の鼻がきくって知ってから何か細工してやがるな。だからハヤトキの匂いも途切れたわけだ。くそ、イラつくぜ」
リオンの存在に気付いたからこそ汗だくになるほど走ったのだと思っていたが、気付いていなかったらしい。
勇者のほうが上手で、魔族たちは後手に回りがちなようだ。
不機嫌そうに尻尾を揺らしていた。
それからふうと息を吐くと、気持ちを切り替えたらしく爽やかに笑って俺の肩をぽんと叩いた。
「ま、あんたが無事ならいいよ。平気か?」
「お騒がせして申し訳ない」
「ジェードが過保護すぎるんだ。あいつがあんな血相変えてるの、らしくないと思ったけど……なんか納得した」
バウがじっと俺を見ている。
どういう視線なんだそれは。
「納得って?」
「俺は鼻がきくって言っただろ。……おまえからジェードのにおいがする」
「……!!!!! その……これは、ちが」
「聞きたくない。とにかく屋敷に送るから、行くぞ」
本当に違うんだ。変な関係じゃなくて。
食後酒とか夜食とかそういうアレのソレで。
言い訳のタイミングを失ったまま、歩き出したバウを追いかける。
横に並ぶと、彼が歩幅を合わせてくれるのを感じた。
二人で歩いているとやはり心強い。この森の長閑さをじっくりと味わえる。
今なら花を見つけたり、かわいらしい小動物の営みに気付けたり、違う印象を抱くことができた。怖かった森と同じ森とは思えない。
さわさわとそよぐ草や木の音が穏やかだ。
「──なあ、あんたってどこから来たんだ? まだ何も思い出せないのか?」
ふいに質問されて、あいまいな返事をしてしまう。
「う、うん。ごめん」
思い出せないというか、話せない。
信じてもらえるかもわからないし、どう話せばいいのかわからないから。
「オレはあんたが悪いやつだとは思ってないけど、ジェードの懐に入るんなら、一応言わせてくれ。あいつを傷つけるようなことはしてくれるなよ」
「言われなくてもというか……俺にそんなだいそれたことはできないから大丈夫というか……」
入るのは、懐どころか胃だし。
俺が何をしたところで、彼が傷付くほど動じることはないと思う。
けれどバウはそう思わないようで、眉根を下げて困ったように笑った。
「ジェードはあんたと会ってから、みちがえて元気になったよ。活動的っていうかさ。失った半身を取り戻したみたいで。──だから逆に言えば、あんた次第であいつはまた地の底まで落ちる。頼むよ、俺にとってジェードは友達だから」
「……うん」
右も左も分からない俺を受け入れ、良くしてくれているジェードにはいつだって報いたいと思ってはいる。
なんなら、バウにだってロコにだってそうだ。
感謝を伝える術が、信用が、今の俺にはないのだと痛感する。
さっきの勇者のときだってそうだ。ジェードを庇いたいのに、庇えるだけの根拠が俺にはない。
蚊帳の外にいるみたいで悔しくなってきた。
「バウはさ、ジェードと付き合い長いのか?」
「喋るようになったのは俺がこの森に来てからだから……六十年くらいかな」
「ろくじゅ……バウって何歳なんだ?」
「二百歳ちょっとだぜ。ちなみにロコはまだ百八十歳くらいだ」
まだ? 百歳をまるで青二才かのように言う。
「魔族の成人っていくつなんだ?」
「そんなことまで記憶喪失なのか? 種族にもよるからなぁ。でも、百歳程度じゃまだまだヒヨッコだと思うぜ。生殖ができるくらいに肉体が成熟したってだけのガキだ。オレも二百歳になってやっとオトナの自覚がでてきたっていうか」
成熟の感覚が違いすぎてわからん。
ううむ。バウは人間でいう二十代くらいなのかな。
マッチョさのせいで外見からは年齢をつかみにくいが、喋ってるとそういう年下っぽさを感じる。
年下っぽさ? 俺の七倍年上だぞ。
──前方に屋敷が見えてきた。
「俺、ロコに《友達だ》って話したんだ。バウともそう言い合えるようにがんばるよ」
なんとなくそう伝えると、バウはバツが悪そうな顔をした。
「あ……。あんたのことダチだと思ってないわけじゃない。悪ィ」
ジェードとの六十年と比べれば、俺はまだまだ新参者だから……くらいのつもりだったが、余所者扱いに対するチクチク言葉みたいに聞こえてしまったらしい。
慌てて両手を振って「ちがうちがう」と修正する。
「普通に考えていまの俺って、突然現れたのに古い友達と妙に仲良くなってる謎だらけのヤツだもんな。怪しむのは正しいと思う。俺の整理がついたら、全部話すから聞いてほしい」
屋敷の門扉に着く。
開けようと手を伸ばした瞬間、勝手に開いた。
……ジェードが俺に気付いている証拠だ。
「オレはここまでだ」
「わかった。送ってくれてありがとう」
「……あんたに悪意がないことくらいわかってる。誰にでも事情はあるから、話せるときでいい」
笑顔で手を振れば、振り替えしてくれる。
優しい狼男だな。
そうしてバウと別れ、一人で前庭を歩く。
またも勝手に開く玄関扉を潜ればエントランスに彼の姿はない。
書斎に行くと、いた。
眉間のシワがいつもより深い。
「魔物の魔力が濃くついてる。襲われたんだろう。誰がおまえを助けた?」
うっ。この……自力では解決していない前提で切り込まれるの、地味に傷付くな。
リオンと会ったことは黙っていてもバレることだ。正直に言う。
「勇者に助けてもらったんだ。そのあとバウと合流してここまで送ってもらった」
「……………」
う、う、うわ、眉間の青スジやばい。
リオンがいたこと、やっぱり気付いてなかったんだ。
都市のほうに行ったと思ってあちこち探してたのに、実際は自分の領地に潜伏されてたと知ったら頭にくるよな……。
「と、とにかく。ジェードがいないとこの土地ではとても生きていけないし、めちゃくちゃ心配かけるってよくわかった。ハーネスでもリードでもなんでも着けてくれ」
「……わかったなら良いんだ」
彼は深々と椅子に座り直し、長いため息をはいた。
そんなに疲れ切るほど心配されるとは正直思っていなかったな。
「もう寝ろ。明日も早いぞ」
「……? なにか予定があるのか?」
「魔王に会う」
「魔王っ!?」
魔王って、名前に王と付くくらいだからこの国で一番偉い人だよな?
「不法入国した人間を変にかくまっていると思われたくない。私の家畜として一言紹介しておく」
そういえば俺ってジェードの家畜なんだった。
……そうか、おいしい食材を失くしたら凹むよな。
心配をしてくれていたのはそういうことか。そうだよな。うん。
俺が黙っているのを見て、ジェードが珍しく申し訳なさそうに眉根を下げた。
「家畜は嫌だったか。携帯食のほうがいいか?」
携帯食……生理的熱量のある友達か。
ランクは上がったかもしれない。
……ん?
窓の外、木に何かいる。
でかい鳥……じゃない! あれ、リオンじゃないか!?
彼の能力が働いているのか、ジェードはまったく気付いていない。
「ここから魔王城までは距離があるが、飛竜なら半日くらいだ。早朝に出て、おまえは寝ていればいい。簡単に挨拶してすぐに帰るぞ。……どうかしたのか?」
「わー!! なんでもない! 明日のおでかけ、楽しみだなー!!」
俺の視線を追ってジェードが振り返ろうとするのを大げさな身振り手振りで阻止した。
リオンはなんだかんだ俺を心配して、様子を見に来てくれているのかもしれない。討伐が目当てならとっくに攻撃しているはずだもんな。
俺は大丈夫だから、このまま何もせず帰ってほしい。
ジェードがリオンに気付いても戦いになってしまう。
どちらにも怪我をしてほしくない。どうしたらいいんだ……。
「あっ」
俺が彼に気付いたことを、彼も気付いたらしい。ニコッと目で微笑みかけられる。
「さっきからなんだ」
ジェードが振り返ったときには、リオンの姿は消えていた。
間一髪のことにハァーッと息を吐く。
「み……見たことない鳥がいて。へへへ」
苦しい言い訳だったが、それ以上は何も言われなかった。
部屋に戻るよう言われ、おとなしく従うことにする。
……心配なことがひとつだけあった。
壁を挟んでいるし、リオンに会話は聞こえてないよな。
魔王城への直行便が明日出航することなんて、伝わってないよな?
大丈夫だよな……?
「ハヤトキ! ジェードが探してたよ」
開口一番にそう言われ、ジェードの不機嫌な顔がたやすく頭に浮かぶ。
「出かけるってちゃんと伝えたんだけどな」
「このあたりで彼にわかんないことなんかないのに、キミの気配を見失ったみたいで焦った様子だった。一体、どんな魔法を使ったの?」
「あー……。急いで帰るよ」
勇者と一緒にいたからかもしれない。彼はジェードを撒けるくらいに気配を消す力を持っている。
「そういえば、バウとすれ違わなかった? キミを探しに行ったんだけど」
「バウと?」
嫌な予感がした。
彼は俺だけではなく、勇者の匂いも知っている。
ロコに別れを告げ、急いで道を引き返す。
すると、バウとはすぐに会えた。
彼のほうが俺の匂いをたどってきたからだ。
「ああ! 良かった。途中で見失ったから消滅したのかと思ったぜ」
汗をかいた姿で駆け寄られ、ずいぶん探してくれていたのがわかる。
「ごめん、いろいろあって……その、さっき勇者リオンに助けてもらったんだ。彼はもうどこかへ行ってしまったんだけど」
「あの野郎、まだこの森にいたのか! 俺の鼻がきくって知ってから何か細工してやがるな。だからハヤトキの匂いも途切れたわけだ。くそ、イラつくぜ」
リオンの存在に気付いたからこそ汗だくになるほど走ったのだと思っていたが、気付いていなかったらしい。
勇者のほうが上手で、魔族たちは後手に回りがちなようだ。
不機嫌そうに尻尾を揺らしていた。
それからふうと息を吐くと、気持ちを切り替えたらしく爽やかに笑って俺の肩をぽんと叩いた。
「ま、あんたが無事ならいいよ。平気か?」
「お騒がせして申し訳ない」
「ジェードが過保護すぎるんだ。あいつがあんな血相変えてるの、らしくないと思ったけど……なんか納得した」
バウがじっと俺を見ている。
どういう視線なんだそれは。
「納得って?」
「俺は鼻がきくって言っただろ。……おまえからジェードのにおいがする」
「……!!!!! その……これは、ちが」
「聞きたくない。とにかく屋敷に送るから、行くぞ」
本当に違うんだ。変な関係じゃなくて。
食後酒とか夜食とかそういうアレのソレで。
言い訳のタイミングを失ったまま、歩き出したバウを追いかける。
横に並ぶと、彼が歩幅を合わせてくれるのを感じた。
二人で歩いているとやはり心強い。この森の長閑さをじっくりと味わえる。
今なら花を見つけたり、かわいらしい小動物の営みに気付けたり、違う印象を抱くことができた。怖かった森と同じ森とは思えない。
さわさわとそよぐ草や木の音が穏やかだ。
「──なあ、あんたってどこから来たんだ? まだ何も思い出せないのか?」
ふいに質問されて、あいまいな返事をしてしまう。
「う、うん。ごめん」
思い出せないというか、話せない。
信じてもらえるかもわからないし、どう話せばいいのかわからないから。
「オレはあんたが悪いやつだとは思ってないけど、ジェードの懐に入るんなら、一応言わせてくれ。あいつを傷つけるようなことはしてくれるなよ」
「言われなくてもというか……俺にそんなだいそれたことはできないから大丈夫というか……」
入るのは、懐どころか胃だし。
俺が何をしたところで、彼が傷付くほど動じることはないと思う。
けれどバウはそう思わないようで、眉根を下げて困ったように笑った。
「ジェードはあんたと会ってから、みちがえて元気になったよ。活動的っていうかさ。失った半身を取り戻したみたいで。──だから逆に言えば、あんた次第であいつはまた地の底まで落ちる。頼むよ、俺にとってジェードは友達だから」
「……うん」
右も左も分からない俺を受け入れ、良くしてくれているジェードにはいつだって報いたいと思ってはいる。
なんなら、バウにだってロコにだってそうだ。
感謝を伝える術が、信用が、今の俺にはないのだと痛感する。
さっきの勇者のときだってそうだ。ジェードを庇いたいのに、庇えるだけの根拠が俺にはない。
蚊帳の外にいるみたいで悔しくなってきた。
「バウはさ、ジェードと付き合い長いのか?」
「喋るようになったのは俺がこの森に来てからだから……六十年くらいかな」
「ろくじゅ……バウって何歳なんだ?」
「二百歳ちょっとだぜ。ちなみにロコはまだ百八十歳くらいだ」
まだ? 百歳をまるで青二才かのように言う。
「魔族の成人っていくつなんだ?」
「そんなことまで記憶喪失なのか? 種族にもよるからなぁ。でも、百歳程度じゃまだまだヒヨッコだと思うぜ。生殖ができるくらいに肉体が成熟したってだけのガキだ。オレも二百歳になってやっとオトナの自覚がでてきたっていうか」
成熟の感覚が違いすぎてわからん。
ううむ。バウは人間でいう二十代くらいなのかな。
マッチョさのせいで外見からは年齢をつかみにくいが、喋ってるとそういう年下っぽさを感じる。
年下っぽさ? 俺の七倍年上だぞ。
──前方に屋敷が見えてきた。
「俺、ロコに《友達だ》って話したんだ。バウともそう言い合えるようにがんばるよ」
なんとなくそう伝えると、バウはバツが悪そうな顔をした。
「あ……。あんたのことダチだと思ってないわけじゃない。悪ィ」
ジェードとの六十年と比べれば、俺はまだまだ新参者だから……くらいのつもりだったが、余所者扱いに対するチクチク言葉みたいに聞こえてしまったらしい。
慌てて両手を振って「ちがうちがう」と修正する。
「普通に考えていまの俺って、突然現れたのに古い友達と妙に仲良くなってる謎だらけのヤツだもんな。怪しむのは正しいと思う。俺の整理がついたら、全部話すから聞いてほしい」
屋敷の門扉に着く。
開けようと手を伸ばした瞬間、勝手に開いた。
……ジェードが俺に気付いている証拠だ。
「オレはここまでだ」
「わかった。送ってくれてありがとう」
「……あんたに悪意がないことくらいわかってる。誰にでも事情はあるから、話せるときでいい」
笑顔で手を振れば、振り替えしてくれる。
優しい狼男だな。
そうしてバウと別れ、一人で前庭を歩く。
またも勝手に開く玄関扉を潜ればエントランスに彼の姿はない。
書斎に行くと、いた。
眉間のシワがいつもより深い。
「魔物の魔力が濃くついてる。襲われたんだろう。誰がおまえを助けた?」
うっ。この……自力では解決していない前提で切り込まれるの、地味に傷付くな。
リオンと会ったことは黙っていてもバレることだ。正直に言う。
「勇者に助けてもらったんだ。そのあとバウと合流してここまで送ってもらった」
「……………」
う、う、うわ、眉間の青スジやばい。
リオンがいたこと、やっぱり気付いてなかったんだ。
都市のほうに行ったと思ってあちこち探してたのに、実際は自分の領地に潜伏されてたと知ったら頭にくるよな……。
「と、とにかく。ジェードがいないとこの土地ではとても生きていけないし、めちゃくちゃ心配かけるってよくわかった。ハーネスでもリードでもなんでも着けてくれ」
「……わかったなら良いんだ」
彼は深々と椅子に座り直し、長いため息をはいた。
そんなに疲れ切るほど心配されるとは正直思っていなかったな。
「もう寝ろ。明日も早いぞ」
「……? なにか予定があるのか?」
「魔王に会う」
「魔王っ!?」
魔王って、名前に王と付くくらいだからこの国で一番偉い人だよな?
「不法入国した人間を変にかくまっていると思われたくない。私の家畜として一言紹介しておく」
そういえば俺ってジェードの家畜なんだった。
……そうか、おいしい食材を失くしたら凹むよな。
心配をしてくれていたのはそういうことか。そうだよな。うん。
俺が黙っているのを見て、ジェードが珍しく申し訳なさそうに眉根を下げた。
「家畜は嫌だったか。携帯食のほうがいいか?」
携帯食……生理的熱量のある友達か。
ランクは上がったかもしれない。
……ん?
窓の外、木に何かいる。
でかい鳥……じゃない! あれ、リオンじゃないか!?
彼の能力が働いているのか、ジェードはまったく気付いていない。
「ここから魔王城までは距離があるが、飛竜なら半日くらいだ。早朝に出て、おまえは寝ていればいい。簡単に挨拶してすぐに帰るぞ。……どうかしたのか?」
「わー!! なんでもない! 明日のおでかけ、楽しみだなー!!」
俺の視線を追ってジェードが振り返ろうとするのを大げさな身振り手振りで阻止した。
リオンはなんだかんだ俺を心配して、様子を見に来てくれているのかもしれない。討伐が目当てならとっくに攻撃しているはずだもんな。
俺は大丈夫だから、このまま何もせず帰ってほしい。
ジェードがリオンに気付いても戦いになってしまう。
どちらにも怪我をしてほしくない。どうしたらいいんだ……。
「あっ」
俺が彼に気付いたことを、彼も気付いたらしい。ニコッと目で微笑みかけられる。
「さっきからなんだ」
ジェードが振り返ったときには、リオンの姿は消えていた。
間一髪のことにハァーッと息を吐く。
「み……見たことない鳥がいて。へへへ」
苦しい言い訳だったが、それ以上は何も言われなかった。
部屋に戻るよう言われ、おとなしく従うことにする。
……心配なことがひとつだけあった。
壁を挟んでいるし、リオンに会話は聞こえてないよな。
魔王城への直行便が明日出航することなんて、伝わってないよな?
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