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チャプター【067】
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「C4は、いつ爆発するんだ」
唐突に蝶子が訊いた。
「あと5分てところだ」
隼人が答える。
「そうか。なら、まだ間に合うな」
言うが早いか、蝶子は建物に向かって走った。
「おい、待て! 蝶子!」
隼人が呼び止めたそのときには、蝶子はすでに建物の中に入っていった。
蝶子は走り、また地下二階へと向かった。
美鈴を助けなければならない。
その思いだけがあった。
地下二階に辿り着き、手術室に入る。
だが、手術台には、美鈴の姿はなかった。
両手両足の拘束が引きちぎられていた。
蝶子は再び廊下へ出ると、来た方向とは逆へと進んだ。
「美鈴ッ! どこだ。どこにいる! 美鈴ッ!」
その声が、耳の聴こえぬ美鈴に届くはずもないのに、蝶子は叫びつづけた。
突き当たりを右に曲がる。
そこで蝶子は足を止めた。
5メートルほど先に、うずくまっている人影があった。
薄暗い中に浮かびあがったその人影の背は、深緑色の光沢を持った鱗で被われていた。
美鈴であった。
「美鈴」
思わず、蝶子は呼んでいた。
美鈴は当然のごとく、ふり返らない。
ぐちゃり、ぐちゃり、ぐちゅる……
かすかだが、そんな音が聴こえてくる。
蝶子は、その音が何であるかを知っている。
人が、はらわたを喰われているときに出る音だ。
よく見てみれば、美鈴の前に人が横たわっている。
美鈴の背越しから覗くその服装を見ると、それが守衛であるということがわかった。
ふと、美鈴が蝶子の気配に気づいたのか、半身を捻じってふり返った。
「!――」
その顔を見て、蝶子は顔をしかめた。
口が耳元まで裂けていた。
血で染まった唇のないその口からは、はらわたであろう肉片が垂れ下がっている。
鼻はひしゃげて、ひと回りほど大きくなった眼は金緑色に鈍く光り、眉はなく、髪はほとんど抜け落ちてしまっていた。
そして耳は、魚のひれのようだった。
その美鈴が、すっと立ち上がった。
美鈴の身体は、腹部だけを除いたすべてが深緑色の鱗で被われていた。
その姿は、まさに魚人であった。
美鈴は、異形人の完全体となってしまっていたのだった。
「美鈴、おまえ……」
蝶子は悲しい顔をした。
美鈴は表情のつかぬ貌(かお)で蝶子を見つめ、手に握っているはらわたを口に運ぶと、鮫のような歯で引きちぎりながら、ぐちゃり、ぐちゃりと喰らった。
指のあいだからは、血が滴り落ちている。
はらわたを喰らいつくすと、美鈴は何かを思い出したように腕を前に上げ、蝶子を指さした。真一文字に裂けた口 の両端が、くっとつり上がる。
「美鈴、私がわかるのかい?」
蝶子には、美鈴が嗤ったように見えた。
自分のことを理解して嗤ったのだと、そう思った。
美鈴が、両手を広げて近づいてくる。
蝶子もそれに応え、屈みこんで手を広げる。
抱きしめた。
鱗に被われた、美鈴の身体は冷たかった。
「可哀そうに……」
蝶子の眼に涙が滲んだ。
そのとき、首に痛みを覚えた。
唐突に蝶子が訊いた。
「あと5分てところだ」
隼人が答える。
「そうか。なら、まだ間に合うな」
言うが早いか、蝶子は建物に向かって走った。
「おい、待て! 蝶子!」
隼人が呼び止めたそのときには、蝶子はすでに建物の中に入っていった。
蝶子は走り、また地下二階へと向かった。
美鈴を助けなければならない。
その思いだけがあった。
地下二階に辿り着き、手術室に入る。
だが、手術台には、美鈴の姿はなかった。
両手両足の拘束が引きちぎられていた。
蝶子は再び廊下へ出ると、来た方向とは逆へと進んだ。
「美鈴ッ! どこだ。どこにいる! 美鈴ッ!」
その声が、耳の聴こえぬ美鈴に届くはずもないのに、蝶子は叫びつづけた。
突き当たりを右に曲がる。
そこで蝶子は足を止めた。
5メートルほど先に、うずくまっている人影があった。
薄暗い中に浮かびあがったその人影の背は、深緑色の光沢を持った鱗で被われていた。
美鈴であった。
「美鈴」
思わず、蝶子は呼んでいた。
美鈴は当然のごとく、ふり返らない。
ぐちゃり、ぐちゃり、ぐちゅる……
かすかだが、そんな音が聴こえてくる。
蝶子は、その音が何であるかを知っている。
人が、はらわたを喰われているときに出る音だ。
よく見てみれば、美鈴の前に人が横たわっている。
美鈴の背越しから覗くその服装を見ると、それが守衛であるということがわかった。
ふと、美鈴が蝶子の気配に気づいたのか、半身を捻じってふり返った。
「!――」
その顔を見て、蝶子は顔をしかめた。
口が耳元まで裂けていた。
血で染まった唇のないその口からは、はらわたであろう肉片が垂れ下がっている。
鼻はひしゃげて、ひと回りほど大きくなった眼は金緑色に鈍く光り、眉はなく、髪はほとんど抜け落ちてしまっていた。
そして耳は、魚のひれのようだった。
その美鈴が、すっと立ち上がった。
美鈴の身体は、腹部だけを除いたすべてが深緑色の鱗で被われていた。
その姿は、まさに魚人であった。
美鈴は、異形人の完全体となってしまっていたのだった。
「美鈴、おまえ……」
蝶子は悲しい顔をした。
美鈴は表情のつかぬ貌(かお)で蝶子を見つめ、手に握っているはらわたを口に運ぶと、鮫のような歯で引きちぎりながら、ぐちゃり、ぐちゃりと喰らった。
指のあいだからは、血が滴り落ちている。
はらわたを喰らいつくすと、美鈴は何かを思い出したように腕を前に上げ、蝶子を指さした。真一文字に裂けた口 の両端が、くっとつり上がる。
「美鈴、私がわかるのかい?」
蝶子には、美鈴が嗤ったように見えた。
自分のことを理解して嗤ったのだと、そう思った。
美鈴が、両手を広げて近づいてくる。
蝶子もそれに応え、屈みこんで手を広げる。
抱きしめた。
鱗に被われた、美鈴の身体は冷たかった。
「可哀そうに……」
蝶子の眼に涙が滲んだ。
そのとき、首に痛みを覚えた。
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