散華へのモラトリアム

一華

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第三章

風雅なる訪れ 4

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「しっかし、ずさんなデータだね。分かりにくい」 

パソコンで会社の経理、営業、企画、販売各分野から上がって集められた情報を見ながら呆れた顔で言う。 

それもそうだろう。 
瑞華自身、経済を勉強し始めて、目的の分からない各分野の数字の纏め方に首を傾げたものだ。 
もちろん税務署に申告出来るレベルはある。 
そういう常識ではなく、会社が利益を上げるための見込みが立てにくく、単にやりたいことをやってるだけ。 

企画は昔からの使いまわしが多く、的外れなことにも中々気づかない。
鷹羽氏の助言でどうにか古い因習から方向を変えつつあるが、根本的な所はまだまだなのだろう。
一度育ったものが乗っかってしまっているのだ。骨組みを変えるのは難しいのかもしれない。

瑞華も本社に立ち入れた頃には、独学で数字を纏めなおしてグラフにしたり、取引先などを分かりやすく纏めた資料を作ったりした。 
華屋を立て直すための年次プランを立て、これを元に会社の方向性を変えるように両親に訴えたものだ。
子供扱いで一度も聞き入れてもらったことはないが。


ブツブツと文句を言う九条風人に、任せてしまうことに多少罪悪感を感じたが。

会社に案内し、父親に引き合わせたのだから、今日はもういいだろうか。
なんだか疲れてしまって帰りたくなっていた。
勿論、一応は九条風人はお客様なわけだから、一人にするわけにもいかないことも分かっている。
悩んだあげくに、一度、来客用のソファに座ろうと体を反転させたところで。

カタンッと。
背後で九条風人が椅子から立ち上がる音がした。
振り返った瑞華の頬から顎まで撫でるように指を滑らされる。
「?!」
思わず瑞華が固まると、その様子を観察するように風人は冷たい目線を送った。
「情けない顔してるけど、また悲劇のヒロインごっこ?」
無遠慮な態度に、カチンと来る。
瑞華は慌てたりすまいと黙って風人を睨む。
だが。

「何いじけてるんだか知らないけど。抱え込んで拗ねてるくらいなら、俺が話でも聞いて慰めてあげようか?一晩くらいじっくり時間を掛けて。全部忘れちゃうくらい慰めてあげてもいいんだぜ?」

クスリと黒い笑みと共に、どこか男の色気を込められて言われれば、瑞華は簡単に動揺してしまった。
「け、結構です」
思わず、パンと手を払い除けて後ずさる。
その様子に風人は、わざとらしく目を丸くしてからふっと笑った。
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