後宮にて、あなたを想う

じじ

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81 水月の言葉

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「本来、入宮が決まった女人と短時間とは言え血縁のない男が二人きりになるのは禁忌です。ですが、水月様が強く請われたようで…短い時間ですが、二人で話をする機会を与えられました。その時に、ご本人が仰られたのですよ。あなたのことを私が思っている、と言う話を聞いたことがあるかもしれないけれど、本気に受け止らないように。と」
「まあ…」
「言われて初めてそのような噂の存在を知りましたが…あまりの切り口上にかえって清々しいほどでした」
「それはご愁傷様です」

思いもよらない相手から一方的に振られたような弦陽になんと言っていいかわからず、蔡怜の口をついて出た言葉に弦陽が破顔した。

「ありがとうございます」

笑いすぎて目にうっすら涙を溜めながら礼を述べる弦陽に蔡怜は複雑な心境になった。
弦陽はきっと水月が伝えた通りを真実だと思ってるいるだろう。だが、鸚鵡が覚えてしまうほど繰り返し呟いていた水月の気持ちがそれほど軽いものだとは思えなかった。
しかし、今更それを言われたところで弦陽は困るだけだ、そう思い蔡怜は礼を述べるに止めた。

「弦陽様、お忙しいところお時間いただきありがとうございました。では、律佳様のご体調がお戻りになられましたら、お会いできることを楽しみにしております」
「こちらこそ。蔡皇后さまにこれほど早くお目通り叶いまして嬉しく思います。律佳の体調が落ち着き次第、陛下を通じてご連絡差し上げます。」 
「ええ。お待ちしております」

恭しく立ち上がって一礼した弦陽に再度お礼を言って、蔡怜は奏輝と共に東家を後にした。

「弦陽様、素敵な方でしたね」

奏輝が言うともなしに呟くのを聞いて、蔡怜は笑いながら答えた。

「ええ、そうね。奏輝の言うとおり美丈夫だったわね」

からかうと奏輝もまた笑った。二人で楽しく喋りながら帰っていると、背後から突然声をかけられた。

「話は終わったのか」

驚いて振り返ると、皇帝が不満気な顔をしたまま突っ立っていた。
一体いつの間に側に来たのだろう、と思いながら蔡怜はにこやかに挨拶した。

「まあ、陛下。弦陽様とお会いする機会をお与えくださいまして、誠にありがとうございます」
「よい。それより先ほどの話だ」
「先ほどの話?」
「弦陽の容姿はさぞかし皇后の好みだったのだろう」

言われてぽかんとした蔡怜を見たまま、皇帝は続けた。

「我が妃達はよほど弦陽の顔立ちに惹かれるようだな」

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