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第一章 オクタヴィアンはハゲを治したいだけ
第三話 宮廷へ
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十一月のワラキア国は、気温が十度を下回る寒さである。
それは首都でオクタヴィアンの屋敷のあるトゥルゴヴィシュテの郊外も同じ。
その日も朝から身も凍るような寒さだった。
オクタヴィアンは厚手のコートを羽織り、急いでエリザベタの待っている馬車へ駆け込んだ。
馬車のドアを開けると、真っ直ぐ前を見たままのエリザベタが凛として座っている。
「ごめん。待ったかい?」
「いいから早く乗ってください」
オクタヴィアンはその冷たい言葉は気にせずに、サッサと馬車の中へ入ると御者であるアンドレアスに声をかけた。
「アンドレアス! じゃあ出発してくれ!」
「ヘイ! ダンナ~!」
アンドレアスは景気のいい声を出すと、馬車を走らせた。
公室評議会が開かれる宮廷までは馬車で十分ほどしかかからない。
しかしその十分も、オクタヴィアンは妻のエリザベタとこの箱の中で二人きりにいるのが長くて辛い地獄のような時間であった。
エリザベタはその氷のような表情を崩す事もなく、真っ直ぐ前を見ている。
オクタヴィアンは、馬車の外の景色を見ながら、なんでこんな冷たい関係になってしまったんだろうと考えた。
結婚する前は、エリザベタの方からアプローチをするくらいボクは好かれていたし、ボクもエリザベタの美しさには心を奪われたものだ。
そして親同士の政略結婚とはいえ、ボクはエリザベタとの結婚が決まった時はとても嬉しかった。
それは彼女も同じだった気がする。
しかし年月……やはり娘のヨアナが生まれたあたりからだろうか?
エリザベタの態度が何か変わってしまった気がする。
だんだんと口数が減り、いっしょに外出をしたがらなくなり、いっしょに寝なくなり、気がつけば常に冷たい態度の女性に変わってしまっていた。
一体何が原因なのか……ボクにはさっぱり分からない。
ただ一つ言える事は、この件は髪の毛とはなんの関係もないという事だ。
まだボクの髪の毛がフサフサだった頃から彼女の態度は冷たかった。
ボクとしては昔みたいに仲良しな関係に戻りたいが、これもきっと叶わぬ思いだろうなあ……
こんな事を考えているうちに、馬車は宮廷に近づいているようで、今回ヴラド公に加勢したモルダヴィアとハンガリーの軍の馬車が宮廷には入れないほどの数が道なりに止まっており、宮廷の入口付近になればなるほどその馬車と軍人の数は増えていった。
そして宮廷の中に馬車が入ると、先に到着した他の評議員の馬車が数台停まっている他、宮廷の中庭には今回ヴラドに加勢したモルダヴィアとハンガリーの軍隊が何人いるか分からないぐらい多くおり、まだ昼前だというのにすでに酒を飲んで盛り上がっていた。
「よいしょ」
オクタヴィアンはそんな軍隊を見ながら馬車から降りると、思いのほか強く冷たい風がオクタヴィアンを襲った。
「うわ!」
オクタヴィアンはあまりの突風に顔に痛みを覚え、少しよろけて馬車にもたれたが、それよりも今の突風によって、せっかくセットした髪型が崩れたんじゃないか? と、それが気になった。
「え、エ、エリザベタっ! ボクの髪型、変か?」
「ええ、変よ」
エリザベタはオクタヴィアンの顔を見ることもなく返事をした。
(こりゃダメだ)
そう思ったオクタヴィアンは、とりあえず両手で髪の毛を整えた。
しかし鏡がないから不安で仕方がない。
そんな事は全く意に返さないエリザベタは、オクタヴィアンのすぐ横に降りた。
この冷たい突風もエリザベタには関係なさそうだった。
「早く行ってください。評議会が始まりますよ」
「分かってるよ」
オクタヴィアンは身なりを整えると、エリザベタと宮廷に入っていった。
それは首都でオクタヴィアンの屋敷のあるトゥルゴヴィシュテの郊外も同じ。
その日も朝から身も凍るような寒さだった。
オクタヴィアンは厚手のコートを羽織り、急いでエリザベタの待っている馬車へ駆け込んだ。
馬車のドアを開けると、真っ直ぐ前を見たままのエリザベタが凛として座っている。
「ごめん。待ったかい?」
「いいから早く乗ってください」
オクタヴィアンはその冷たい言葉は気にせずに、サッサと馬車の中へ入ると御者であるアンドレアスに声をかけた。
「アンドレアス! じゃあ出発してくれ!」
「ヘイ! ダンナ~!」
アンドレアスは景気のいい声を出すと、馬車を走らせた。
公室評議会が開かれる宮廷までは馬車で十分ほどしかかからない。
しかしその十分も、オクタヴィアンは妻のエリザベタとこの箱の中で二人きりにいるのが長くて辛い地獄のような時間であった。
エリザベタはその氷のような表情を崩す事もなく、真っ直ぐ前を見ている。
オクタヴィアンは、馬車の外の景色を見ながら、なんでこんな冷たい関係になってしまったんだろうと考えた。
結婚する前は、エリザベタの方からアプローチをするくらいボクは好かれていたし、ボクもエリザベタの美しさには心を奪われたものだ。
そして親同士の政略結婚とはいえ、ボクはエリザベタとの結婚が決まった時はとても嬉しかった。
それは彼女も同じだった気がする。
しかし年月……やはり娘のヨアナが生まれたあたりからだろうか?
エリザベタの態度が何か変わってしまった気がする。
だんだんと口数が減り、いっしょに外出をしたがらなくなり、いっしょに寝なくなり、気がつけば常に冷たい態度の女性に変わってしまっていた。
一体何が原因なのか……ボクにはさっぱり分からない。
ただ一つ言える事は、この件は髪の毛とはなんの関係もないという事だ。
まだボクの髪の毛がフサフサだった頃から彼女の態度は冷たかった。
ボクとしては昔みたいに仲良しな関係に戻りたいが、これもきっと叶わぬ思いだろうなあ……
こんな事を考えているうちに、馬車は宮廷に近づいているようで、今回ヴラド公に加勢したモルダヴィアとハンガリーの軍の馬車が宮廷には入れないほどの数が道なりに止まっており、宮廷の入口付近になればなるほどその馬車と軍人の数は増えていった。
そして宮廷の中に馬車が入ると、先に到着した他の評議員の馬車が数台停まっている他、宮廷の中庭には今回ヴラドに加勢したモルダヴィアとハンガリーの軍隊が何人いるか分からないぐらい多くおり、まだ昼前だというのにすでに酒を飲んで盛り上がっていた。
「よいしょ」
オクタヴィアンはそんな軍隊を見ながら馬車から降りると、思いのほか強く冷たい風がオクタヴィアンを襲った。
「うわ!」
オクタヴィアンはあまりの突風に顔に痛みを覚え、少しよろけて馬車にもたれたが、それよりも今の突風によって、せっかくセットした髪型が崩れたんじゃないか? と、それが気になった。
「え、エ、エリザベタっ! ボクの髪型、変か?」
「ええ、変よ」
エリザベタはオクタヴィアンの顔を見ることもなく返事をした。
(こりゃダメだ)
そう思ったオクタヴィアンは、とりあえず両手で髪の毛を整えた。
しかし鏡がないから不安で仕方がない。
そんな事は全く意に返さないエリザベタは、オクタヴィアンのすぐ横に降りた。
この冷たい突風もエリザベタには関係なさそうだった。
「早く行ってください。評議会が始まりますよ」
「分かってるよ」
オクタヴィアンは身なりを整えると、エリザベタと宮廷に入っていった。
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