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はじまりの灰かぶり

灰かぶり公女は今日も汚い2/3

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いつも以上に同窓生に奇異の目を向けられながら、ミカエラは自分の鞄を取りに教室へ戻った。
生ゴミの臭いをプンプンと漂わせながら帰り支度をする彼女を教師のミセス・イャミンが引き留める。
その顔はミカエラを気遣うものではなく、彼女に対して嘲りの色が見えた。その証拠に口元が嗤うように歪んでいる。

「ミス・エーデルワイス、貴女のその身なりはなんですか。頭に魚の残飯を乗せて教室に入るなんて、クラスメイトに迷惑がかかると思わないんですの?」
「申し訳ございません、ミセス・イャミン。これには事情があるんです」
「言い訳は結構です。ミス・エーデルワイス、貴女には罰として課題を追加致します。明日までに珠算のテキスト10ページ分終わらせなさい!」
「…」

ここでまた「ニンマリ」笑ってしまうのがミカエラの悪い癖だ。そんなことをしてしまったら、この教師をバカにしていると捉えられかねない。案の定、逆上したミセス・イャミンに課題を追加されてしまった。

「そんなに人をバカにした表情が出来るのなら、テキストの50ページ分くらい簡単ですわね!いいこと、明日の授業までに必ず仕上げておきなさい!!出来なければ落第ですよ!!!」
「…承知致しました」

今度は悪い癖を出さずに見事なカーテシーを教師にくれてやり、ミカエラは重たい鞄を肩に担ぐ。
彼女が教室を出ていくまでの間、クラスメイトが暗く囁いた。

「イャミン先生も人が悪いわね。今夜の舞踏会はこの帝国に住まう令嬢にとって大切なものなのに」
「明日の珠算の授業は明日の朝一ですわ。50ページだなんて一晩掛けても難しいのに…。とてもとても舞踏会に行く時間なんて作れませんわよ」
「ふふふ。おかしなことを仰るのね。元よりですよ?恥ずかしくて舞踏会になど行ける訳がございませんわ」

教室が嘲笑の色に染まっても、ミカエラは背筋を伸ばして扉を目指す。彼女の身なりは別として、その仕草は淑女の鑑そのものだった。ーーーーいや、一つだけ訂正しよう、「微笑み」以外は淑女の鑑そのものだった。

「それでは皆様、御機嫌よう」

誰も答えることはないと知っているが、ミカエラは教室の扉をくぐる前に室内の一同にカーテシーを贈る。その仕草も完璧であった。どれだけ完璧かと言うと、膝を折って沈んだ体が全くぶれず、彼女の頭の上に乗った魚の残飯が落ちないほどに完璧だった!
歩く姿も膝を折る姿も完璧すぎるが故に、彼女の頭の上には生ゴミが乗ったままだったのだ。



帰宅するとその帰りを待っていた使用人が盛大に顔を顰めた。
急いで湯浴みの準備をし、嫌がるミカエラを無理やり湯船に突っ込む。

「ミカエラお嬢様!これ以上私たちの仕事を増やさないでくださいな!!」

使用人たちは乱暴にミカエラの体を擦り上げ、垢を削げ落とし、頭皮をワシワシと洗った。
泡に包まれたミカエラにざばり、ざばりとお湯をかけ、濡れ鼠のような彼女をフワフワのタオルで叩くように拭き上げる。

「ちょっとお嬢様!!ドレスを着せている間くらいノートとペンを置いてくださいな!これじゃコルセットが締められませんよ!!!」

ミカエラは課せられたテキストを終わらせつつ、ギチギチとウエストを拘束していく痛みに耐えた。息が詰まって苦しいが、コルセットは淑女の嗜みも同然だ。ミカエラの体は瘦せ過ぎもせず、太り過ぎもせず、おおむね標準的なものである。胸もお尻もある程度はあった。

「上のお嬢様方よりスタイルは良いのだから、今夜の舞踏会で皇太子の目に留まるかもしれませんよ!…ホラ!しっかり息を吐いて、…止めて!!」

息を止めた途端、ギチギチギチッ!と絞り上げられ、コルセットの一番上で紐が結ばれる。ミカエラはこの瞬間が一番嫌いだった。淑女として振る舞うのは仕方ないにしろ、どうして自分の体を変に矯正して着飾らなくてはならないのか不思議でしょうがない。今日、このようにドレスを着なければならないのは、皇太子主催の舞踏会があるからだ。忌々しいことこの上ない。

「あとのことはドーラに任せて、私たちは奥様たちの準備に向かいますね」

立ったままの状態でテキストを解いていると、コルセットを締め上げていた使用人に声を掛けられる。ミカエラがこくんと頷くと、使用人たちはサッサと出ていってしまった。代わりに部屋に入ってきたのは白髪で太っちょの女性だ。

「さぁミカエラお嬢様!このドーラめにお任せくださいまし!!ドーラの魔法でちちん、ぷいぷい、素敵なレディに変身させてみせますわ」

メイクブラシを杖に見立て、おどけた調子でお辞儀をした彼女は公爵家に一番長く勤めている侍女である。故にミカエラとの仲も深い。
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