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34話

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「ニクスさま、外が見たいです」

ラーサティアが目を覚ました日に王宮に手紙を送ると、数人の医者たちがチームを作りやってきた。
ラーサティアの体調や症状を診て薬を処方し、第一は安静なのだと言い置いて帰っていったのが先程の事。

「サティ、疲れただろう?」
「少し……でも」
「待て、起こしてやるから」

ラーサティアの背中に手を入れると上体を起こしてから、膝裏にも手を添えて抱き上げてやる。

「見えるか?」
「はい、此所は?」

その問い掛けもその筈だ、ラーサティアはこの場所を知らない。

「俺の家だ。買ったのだが」
「素敵ですね……落ち着いた感じがニクス様に良く似ていて……」

どうしてラーサティアが自分がこんな此所にいるのかとは聞かない。

「見慣れない場所は落ち着かないだろうか……」
「いえ、逆に落ち着きます」

身体を預けるようにしてラーサティアは窓の外を見ている。
何か呟くように口が動いた。
『ごめんなさい』
何への謝罪なのかはわからなかったが、俺はそれに気付かなかったことにした。

「……今は、何月ですかニクス様」
「間もなく上弦の風月だ」

上弦、下弦、雪、花、雷、空、雲、風、。
12月を繰り返して1年とする。
もうすぐ風の月、寒さを感じるようになってくる。

「そうですか……」

ことりと頭を預けてくるラーサティア。
疲れたのだろうか。

「ラーサティア、寝台に戻すぞ?また見たいなら明日だ」
「はい」

小さく頷いたラーサティアを寝台にそっと寝かせる。
ラーサティアの軽い体重を寝台は苦もなく受けとめた。

「寒くはないか?」

部屋の中は過ごしやすいように空調を整えてはあるのだが。
ラーサティアの身体には負担にならず暖かいと言う鳥の羽を詰めた上掛けを掛けてやる。
これ1枚で花の月から雲の月くらいまでは過ごせるのだ。

「少し……できましたら、ニクス様にあたためていただきたいのですが」

ラーサティアは目を細めて俺を見上げてきた。
同じ寝台で眠りたいと言うのだろう。
確かに2人で寝ても十分な大きさの寝台なのだ。
だが、ラーサティアは折れてしまいそうなくらい細いのだ。

「駄目……ですか?」
「サティを潰してしまいそうで……怖い」
「何を仰いますか、私は大丈夫ですから、お願いします」

右手をそっと上げたラーサティア。
その手を掴むと、弱々しい力で引かれる。

「仕方ないな、寝台の端を借りよう」

ラーサティアの隣に身体を滑り込ませて抱き寄せる。
触れてくる身体はほんのりとあたたかい。

「嬉しいです、ニクス様……ありがとうございます」

そうラーサティアは俺の腕の中で笑った。
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