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20話

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「ニクス……さま、遅くなりました……眠ってしまわれましたか?」
きしりと沈んだ寝台。
「ラーサティアか?」
「はい……申し訳ありません……」
目を開けると、室内の証明にラーサティアの影が落ちていた。
「……来ないかと思った……」
「そんな……」
ゆっくりと覚醒して開いた視界の先には、シャツ1枚のラーサティアがいた。
「食事はしたか?」
「少し……でも、それよりも……」
腹部に跨がるような姿のラーサティアが、そっと耳打ちをしてくる。
準備をしてきました。と。
揺れる金髪はこんやは緩く後ろで纏められている。
綺麗だなと素直に思った。
「少し明るくしていいか?ラーサティアを見たい」
「……少しなら……」
羞恥もあるのだろう、ラーサティアは目を伏せて視線を外す。
大胆なのに初々しい。
その姿か愛しいと思いながら、パチリと手元の灯りを点けた。
「ラーサティア……」
「ニクスさま、どうかサティと……サティと呼んでください」
出逢った時に聞いた名前。


『どうした、迷子か?名前は』
『サティ……』
『そうか、ほら、これをやるから泣き止め。で、ちゃんと連れていってやるからな?』


手の中に握らされたキャンディ。
抱き上げられた太い腕。
きりっとした眉。
ラーサティアの幼い頃の記憶だ。

「サティか?」
「はい、兄たちはラースと呼びますが、ニクスさまにはサティと。特別に呼んでいただきたいのです」
「ふたりの時だけならば」
こうした甘い時間を過ごすときなら、少しくらいなら良いだろう。
「嬉しい……ニクスさま」
「サティ、ニクスでいい」
「あ……はい……でも……」
何か躊躇うように視線を彷徨わせたラーサティアだったが、抱きつくようにして囁いてくる。
「ニクス……」
少し緊張した声で紡いだ名前に心の奥に暖かい火が点るような感じがした。
「あぁ、サティ」
抱き締めた細い身体はふわりと甘い香りがした。
嗅ぎ慣れた甘い香りは蜂蜜。
「甘い香りがするな……」
「あっ……はい、少しだけ……その」
ラーサティアに手を掴まれ導かれた先は……
「っ!」
その場所に息を飲む。
わかってはいたのだが、もしかして今纏うのはシャツ1枚だけか?
「この姿で来たのか?」
そんな訳は無いだろう。
だが、聞かずにはいられなかった。
「此処で脱ぎましたが……いけませんでしたか?」
「いや、ありがとう」
濡れた唇を撫でてからまたそっと口吻ける。
今夜は随分とながくなりそうだななんて考えた。
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