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11話
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あれから、時折ラーサティアは俺を気遣ってくれるようになったが、俺の花吐病は悪化の一途を辿った。
悪化と言っても毎日ではないのだけれど。
また、ラーサティアが看病すると申し出てくれたときも、移してしまうといけないと断った。
何故、ラーサティアはこんなにも俺が団長だと言うだけで気に掛けてくれるのだろうか。
休みの度に、王宮に戻り少しでも花吐病のことを調べてくれているのも知っている。
だが、治る見込みが無いと思っていれば覚悟が出来ると言うものだ。
変な期待はしない方がいい。半ば諦めにも似た感情を圧し殺して業務を執り行う。
できるだけ、部下に任せられるものを少しずつ振り分けて、自分が居なくなった時に騎士団を誰かが引き継げるように。
常ならば、王族騎士であるラーサティアに経験を積ませてから任せるのがいいのはわかっているが、今すぐにはまだ経験がなさすぎるのだ。
書類を運ぶ帰りにふと訓練場へ足を向けた。
最近、忙しさにかまけてあまり訓練に参加することが無くなったのだ。それではいけないと思うし、今日の執務はもう終わりにしたのだ。
その途中、賑やかなようなヒソヒソとざわめくような声に俺は足を止める。
「団長最近何だか可笑しくないか?優しいのは昔からだけど何だろうなぁ……元気がない?」
「あ、それは思った。少し痩せた感じもしねぇ?」
「だよな、何だろう……」
「まさか、恋煩いか?」
「団長に限ってか?」
「団長だからだろ、凄い真面目で羽目を外さない人じゃねぇか」
「うーん……ラーサティアは何か知らねぇのかよ」
「わ、私は何も」
そんな会話が漏れ聞こえてきた。
まだ若い騎士たちの集まりなのだろう。
「こら、俺がどうした」
聞こえてはいたが、聞こえないふりをして声を掛けてやると、そこにいた騎士たちは飛び上がらんばかりに驚いた。
「だ、団長が体調を崩しているのではないかと……」
一人がそう言葉にする。
「大丈夫だが、心配ならば手合わせしてみるか?」
そう言うとたじろぐ若者たちに、ラーサティアが一歩前へ出た。
「お願いします」
こちらを真っ直ぐに見据えてくるその瞳は気迫に満ち溢れていた。
「誰か試合用の剣を」
そう声を掛けると、すぐさま木刀が用意された。
丁寧に削ってある木は強度も高く、当たり所が悪ければ怪我をし場合によっては骨も折れる。
それを構えてラーサティアに向く。
打ち込んでこいとばかりに手招きをしてやると、ラーサティアは短く掛け声を掛けると1歩を踏み出した。
其処から更に加速する。
「ほう」
なかなかの太刀筋だなと笑みを浮かべた。
だがまだ若い。30合ほど相手をしてやり最後の一振りでラーサティアの手から木刀を叩き落とす。
「参りました」
ラーサティアはその場で項垂れた。
「悪くはない。精進あるのみだな」
そうぽんと軽く頭を叩くと、近くの騎士に木刀を渡す。
他にやりたい奴がいたらまた後日だ。
込み上げてくる吐き気を堪えて笑みを作り、俺は手を上げてその場を去る。
「ありがとうございました」
騎士たちの重なる声を背中に受けながら。
悪化と言っても毎日ではないのだけれど。
また、ラーサティアが看病すると申し出てくれたときも、移してしまうといけないと断った。
何故、ラーサティアはこんなにも俺が団長だと言うだけで気に掛けてくれるのだろうか。
休みの度に、王宮に戻り少しでも花吐病のことを調べてくれているのも知っている。
だが、治る見込みが無いと思っていれば覚悟が出来ると言うものだ。
変な期待はしない方がいい。半ば諦めにも似た感情を圧し殺して業務を執り行う。
できるだけ、部下に任せられるものを少しずつ振り分けて、自分が居なくなった時に騎士団を誰かが引き継げるように。
常ならば、王族騎士であるラーサティアに経験を積ませてから任せるのがいいのはわかっているが、今すぐにはまだ経験がなさすぎるのだ。
書類を運ぶ帰りにふと訓練場へ足を向けた。
最近、忙しさにかまけてあまり訓練に参加することが無くなったのだ。それではいけないと思うし、今日の執務はもう終わりにしたのだ。
その途中、賑やかなようなヒソヒソとざわめくような声に俺は足を止める。
「団長最近何だか可笑しくないか?優しいのは昔からだけど何だろうなぁ……元気がない?」
「あ、それは思った。少し痩せた感じもしねぇ?」
「だよな、何だろう……」
「まさか、恋煩いか?」
「団長に限ってか?」
「団長だからだろ、凄い真面目で羽目を外さない人じゃねぇか」
「うーん……ラーサティアは何か知らねぇのかよ」
「わ、私は何も」
そんな会話が漏れ聞こえてきた。
まだ若い騎士たちの集まりなのだろう。
「こら、俺がどうした」
聞こえてはいたが、聞こえないふりをして声を掛けてやると、そこにいた騎士たちは飛び上がらんばかりに驚いた。
「だ、団長が体調を崩しているのではないかと……」
一人がそう言葉にする。
「大丈夫だが、心配ならば手合わせしてみるか?」
そう言うとたじろぐ若者たちに、ラーサティアが一歩前へ出た。
「お願いします」
こちらを真っ直ぐに見据えてくるその瞳は気迫に満ち溢れていた。
「誰か試合用の剣を」
そう声を掛けると、すぐさま木刀が用意された。
丁寧に削ってある木は強度も高く、当たり所が悪ければ怪我をし場合によっては骨も折れる。
それを構えてラーサティアに向く。
打ち込んでこいとばかりに手招きをしてやると、ラーサティアは短く掛け声を掛けると1歩を踏み出した。
其処から更に加速する。
「ほう」
なかなかの太刀筋だなと笑みを浮かべた。
だがまだ若い。30合ほど相手をしてやり最後の一振りでラーサティアの手から木刀を叩き落とす。
「参りました」
ラーサティアはその場で項垂れた。
「悪くはない。精進あるのみだな」
そうぽんと軽く頭を叩くと、近くの騎士に木刀を渡す。
他にやりたい奴がいたらまた後日だ。
込み上げてくる吐き気を堪えて笑みを作り、俺は手を上げてその場を去る。
「ありがとうございました」
騎士たちの重なる声を背中に受けながら。
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