異世界に降り立った刀匠の孫─真打─

リゥル

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第四章 新天地

番外最終話 帯刀 結2

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「あ~どうしよ、どうしよ!」

 学校から抜け出してきた私は、人気のない町はずれの公園で時間を潰していた。
 すぐ帰れば、なぜこんな時間に帰って来たのかを、家族に問いただされると思って。

「でもきっと、学校からお母さん達に連絡に連絡行ってるよね……」

 あんな風に飛び出したんだ、連絡が行っていない訳がない。
 頭では理解しているが、中々決心がつかない。

「はぁ、いつまでもこうしてても仕方ないよね……」
 
 一刻ほど経っただろうか。
 長いこと悩んだが、結局諦めて家に向かうことにした。
 
「……ただいま~」

 玄関をゆっくり開け、中を覗いた。
 返事がなく、人の気配が感じられない。 

「ふう、良かった……。まずは一安し……」

「──あら、何が良かったのかしら?」

「トゥ、トゥナママ!?」

 私は口から心臓が飛び出るほど驚いた。
 だって車椅子に乗ったトゥナママが、音も気配もなく扉の裏にいたのだから……。

「おかえりなさい、結ちゃん。ママに何か言う事は無いかしら?」

「え~っとその。なんで気配を殺してたのかな~? なんて……」

 トゥナママは私の答えを聞き、頭に手を当て「はぁ~~」っと深く溜め息をついた。
 困ったり呆れた時にする、ママ癖だ。

「おやびんさんから連絡があって、大体の事情は聞いてるわ。あなた、友達を殴ったそうじゃない」

 や、やっぱり連絡が来てた。
 なんて説明をすれば……。

「だって……」

「だって、じゃありません。お父さんが酷く言われて、怒る気持ちは分かるけど」

「なら……!」

 反論しようとしたが、その先を言葉にする事は出来なかった。
 だってトゥナママの顔が、とても悲しそうだったから……。

「……結ちゃん、暴力はダメ。ママはそんな事のために、アナタに戦い方を教えた訳じゃないの。一緒に謝りにいこ、ね?」

「……なんで」

 先に悪口を言ったのは向こうだ、それに私は傷ついた
 なのに何で……。

 納得できない思いや、悔しさだったり、トゥナママを悲しそうにさせてる自分だったり、整理しきれない感情が胸の中で暴れている。
 
「私悪くないもん! 謝りなんて絶対に行かないから!!」

 玄関先に置いてある自分の剣を取り、私はその場から飛び出した。

「──結ちゃん!?」
 
 追いかけて来たトゥナママは、派手な音を立てて車椅子から転げ落ちた。
 その姿を見て一瞬立ち止まったものの、引き返す事の出来ない私は小さな声で「ごめんなさい」っと謝り、その場を立ち去った。

 ◇

 町の外、外壁を超えた西にある、大精霊が住まうと言われる巨大な森。
 ここは魔物も住まうため、めったに人が訪れない。
 町の外に出るため、秘密のルートを使ったから誰も追っかけて来ることはない、ないのだが……。
 
「──あー、何で私あんな事言っちゃうかな!?」

 しゃがみ込んだ私は、頭を抱えた。
 こんなつもりじゃな無かった。本当は自分が悪い事も理解している。
 分かって居ても、悔しくて悔しくて、悔しくて……。

 それでも、お腹の虫がぐぅーっと鳴り響く。
 悲しい事に、人はこんな時でもお腹は減るのだ。

「やっちゃった……。うぅー、そう言えばご飯食べ損ねてた」

 家に帰った時も、食べてる暇無かったし。学校でも給食の前に飛び出してたっけ。
 今日は本当、何もかもがうまくいかない。
 なんかだんだん、むしゃくしゃしてきた。

「そもそも、全部お父さんが悪いんじゃない! 勇者なら、勇者らしくしてくれれば、馬鹿にする奴もいないのに!」

 私が地団駄を踏んだ時だった。
 何となくだが、一瞬森がざわついた気がした。

「な、なに?」

 鳥が飛び立ったかと思うと、突然一本の大木が倒れたのだ。
 私は警戒を払いながら、その原因を覗き見る事に……。

「う、嘘……。なんでこんな所に」

 木を倒した犯人は、私の3倍以上の背丈がある魔物、マグナベアーだった。
 金色の体毛を持ち、熊科の魔物でもレクス種を除けば最大種とされている魔物。
 ティアママの図鑑で、見たことがある。

 どうやら、倒した大木についている蜂の巣が狙いだったようだ。
 蜂に群がられても、マグナベアーは気にする様子も見せず、蜂蜜をむさぼり食う。

「気づかれる前に、なんとか逃げないと……」

 距離を取ろうと振り向いた時だ。
 視界のハズレで、何かがこちらに飛び掛かって来たのに気付く。

「こ、こんなタイミングで!?」

 私は、咄嗟に飛びついてきた何かを、剣で振り払う。
 するとそれは木にはぶつかり、地面へと落ちた。
 どうやら犯人は蛇だったようだ。
 そして奇襲に失敗した蛇は、そそくさと何処かへ逃げ去っていく……。

「それより──っ!!」

 今は、蛇なんかよりよっぽど危険な相手がいる。 
 私が振り向くと、マグナベアーと目が合ってしまった。

 今日はきっと、人生で一番の厄日だ。
 次々に良くない展開に……って、それどころじゃない!!

 私は走った。
 町の外壁までたどり着ければ、いくらマグナベアーと言えど、突破することはできない。

「──は、早い?」

 走り出しの一瞬、距離を取ることが出来たと思ったのに、どんどん詰められて行く。
 初速に限り私の方が早いみたいだけど、その他の身体能力は比べ物にならない程、マグナベアーの方が上だろう。
 このままでは、追いつかれるのも時間の問題。

「逃げきれない──なら!!」

 私は鞘からショートソードを抜き構えた。
 振り下ろされるマグナベアーの拳を、回避しながらの受け流しで、何とかいなす事に成功する。

「なっ、なんて力なの!」

 たった一撃、たった一撃の攻撃を受けただけで、手がしびれる。
 しかしその一度のチャンスで、懐に入る事に成功した。

「はぁぁぁぁ!!」

 いくら高い身体能力でも、懐にさえ入れば小回りは効かないだろう。
 
 スキを見計らい、何度かショートソードで斬りつける。
 しかし硬い体毛に覆われているマグナベアーには、私の刃は届かない。

 一進一退の攻防は続く。
 私の攻撃は通らず、相手の攻撃は一撃が致命傷。そんな状況に、若干の焦りを感じていた……。

「刃が通らないなら──これなら!!」

 私は大振りの攻撃を交わすと共に、空中で横切りを放つ。
 そしてその一撃は、マグナベアーの目を潰した。
 
「効いた! これで──」

 活路を見出したと思った一瞬、突如切ったものとは別の目が開かれ、私を見つめたのだ。

「──がっ!?」

 剣を盾変わりに受け止めるものの、マグナベアーが振るった一撃で、私の足は地面から離れた。

「うっ……多目? しまったな。そう言えば目が六つあるって図鑑に乗ってたっけ……」

 潰した目とは別の、四つの目が私を見つめている。
 打ち所が良くなかったのか、手足に力が入らない。
 これでもう、逃げることも立ち向かう事も出来ない。
 ゆっくりと近づくマグナベアーが、無情にも腕を振り上げた。

「今日は……本当最悪な日。ママ達、最後まで悪い娘でごめんなさい」

 私は目を閉じ、後悔を口ずさむ。
 恐怖に、自然と涙を流しながら……。
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