上 下
227 / 469
第三章 リベラティオへの旅路

第215話 キルクルス→エルフの集落(塩湖)

しおりを挟む
「──ハーモニー、塩湖が見えてきたぞ!」

 行きは塩湖からキルクルスの町まで二日ほど掛かった道のりを、今回は休憩の時間を大幅に削る事により、一日と少しほどで戻ることができた。

「二頭とも、無理させて悪いな。まだ、頑張れそうか?」

 俺とハーモニーは交代で休みながら手綱を握っていたが、ユニコーン達はそう言う訳にもいかない。
 しかし少しでも早くトゥナを助けるために、心苦しくはあるが彼等には少しばかり無理をしてもらったのだ。

「うんまぁ! 貴方の為なら、まだ数日平気かしら! って言ってるカナ」

 メスコーンの方は、俺達の無理に快く了解してくれた。オスコーンの方も……。

「カナデカナデ、オスコーンが。……あの件い事頼んだぞ? って言ってるカナ! ところで、あの件って何カナ?」

「それはだな……男同士の秘密ってやつだ」

 オスコーンに関しても、トゥナが無事に助かり次第、メスコーンと数日間ゆっくり出来る時間を作る事で何とか手を打った。──ここ最近、こいつらにも無理させっぱなしだしな。

 日は傾き始め、水面は夕陽を映し、目の前の世界は燃える様に赤く染まっている。
 こんな時でも無ければ、きっと心が動かされていたに違いない。

「ふぁぁ~……。おはようございます、カナデさん~。ビックリするほど早く着きましたね」

「あぁ……ユニコーン達が頑張ってくれたからな?」

 口では平気だと言っているものの、彼等にも疲労の色は見えている……。
 流石に今晩はどこかで休息を取らないとまずそうだ。
 
「ハーモニー、そろそろ休憩を入れようと思うんだけど……」

 声をかけると、彼女は空を見上げ何かを考えているようだ。

「──いえ、先に反対岸にまで先に渡りましょう。暗くなると向こうに渡るのが難しくなります」

「そ……そうなのか?」

 事情は分からないが、そう言う物らしい……。
 反対岸って、もしかして前にハーモニーがボーッと見ていた森の事なのだろうか。この巨大な湖をぐるっと回るのか? 

「この前休息を取った場所を覚えていますか~? あの付近から向こう岸に移る方法があります、まずはそこまで行きましょう」

 この前って、あんな所からか? 
 いや、今はどのみちハーモニーを信じるしかないな。
 俺達はまだしばらく馬車を走らせ、この前休憩した場所へと向かった──。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「──確か、この辺りだったよな?」

 綺麗に片付けてあるとはいえ、休憩を取っていた名残がいくらか残っている。
 まずここで間違いないだろう。

「カナデさん、何か棒の様な物をお借りできないでしょうか?」

 唐突にそう言ったハーモニーに、マジックバックから木の棒を取り出し渡すと「ありがとうございます~」と言いながら馬車を降りた。
 そして、棒を地面付け一足先へと歩いて行く。──あれで何が分かるのだろうか……。

 ……なんか、小さな子供が砂地に落書きをしているみたいだな?

「──カナデさん~! こちらにお願いします~」

「は、はい!?」

 考えがバレた! ……訳ではないか?
 俺は馬車の手綱を握り、ハーモニーの元へと走らせた。
 そして、すぐ隣まで行くとハーモニーは御者席に乗り込む。

「ここから……正面に見えるあの高い木に向かって馬車を走らせます」

 ハーモニーが指差す方向を見ると、燃える様な真っ赤な景色の奥に、大きな森がうっすらと見た。
 しかしそこへと続く道はなく、目の前には夕焼けを写し出す湖しかない。

「ちょっと待ってくれ、この先は湖だぞ? 馬車で行くなんて……」

「大丈夫です。今通れる様にエルフのおまじないを掛けますね……。カナデさん、目を閉じてください」

 なるほど……魔法のようなものか?
 俺はハーモニーの指示通りに目閉じた。

「それでは、おまじないをかけますね……」

 ハーモニーはそれだけ言うと、俺の両肩に手を置いた。耳元で、なにやらブツブツと声が聞こえ、最後に頬に柔らかい何かが触れる。

「……はい、目を開けて頂いて大丈夫ですよ」

 え、え~っとハーモニーさん?
 今の柔らかい感触はなんだったのでしょうか? もしかしなくても……。

「──さ、さぁ、行きましょう。トゥナさんを……助けるために!」

 夕日の為なのか……もしくは別の理由なのかもしれない。
 ハーモニーは俺から視線を外し、その頬は紅く染まっているようにも見えた。

 そしてその後、手綱を叩く音と共に馬車は湖に向かい動き出したのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

性奴隷を飼ったのに

お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。 異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。 異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。 自分の領地では奴隷は禁止していた。 奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。 そして1人の奴隷少女と出会った。 彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。 彼女は幼いエルフだった。 それに魔力が使えないように処理されていた。 そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。 でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。 俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。 孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。 エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。 ※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。 ※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。

おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。 彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。 そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。 洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。 さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。 持ち前のサバイバル能力で見敵必殺! 赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。 そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。 人々との出会い。 そして貴族や平民との格差社会。 ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。 牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。 うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい! そんな人のための物語。 5/6_18:00完結!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

俺のスキル『性行為』がセクハラ扱いで追放されたけど、実は最強の魔王対策でした

宮富タマジ
ファンタジー
アレンのスキルはたった一つ、『性行為』。職業は『愛の剣士』で、勇者パーティの中で唯一の男性だった。 聖都ラヴィリス王国から新たな魔王討伐任務を受けたパーティは、女勇者イリスを中心に数々の魔物を倒してきたが、突如アレンのスキル名が原因で不穏な空気が漂い始める。 「アレン、あなたのスキル『性行為』について、少し話したいことがあるの」 イリスが深刻な顔で切り出した。イリスはラベンダー色の髪を少し掻き上げ、他の女性メンバーに視線を向ける。彼女たちは皆、少なからず戸惑った表情を浮かべていた。 「……どうしたんだ、イリス?」 アレンのスキル『性行為』は、女性の愛の力を取り込み、戦闘中の力として変えることができるものだった。 だがその名の通り、スキル発動には女性の『愛』、それもかなりの性的な刺激が必要で、アレンのスキルをフルに発揮するためには、女性たちとの特別な愛の共有が必要だった。 そんなアレンが周りから違和感を抱かれることは、本人も薄々感じてはいた。 「あなたのスキル、なんだか、少し不快感を覚えるようになってきたのよ」 女勇者イリスが口にした言葉に、アレンの眉がぴくりと動く。

処理中です...