暁のミッドウェー

三笠 陣

文字の大きさ
61 / 105

61 ファイター・スイープ

しおりを挟む
 何が起こっているのかと問い質したいのは、むしろ合衆国側の方であったかもしれない。
 それは、江草隊がエンタープライズを捕捉する十五分ほど前の出来事であった。

敵味方不明機ボギー敵機バンデットと判明! 零戦ジークです!」

 エンタープライズのFDO(戦闘機指揮管制士官)の報告そのものは、別段、奇異なものではなかった。
 そもそも、残存空母がエンタープライズ一隻となってしまった時点で、彼女に向かってくる航空機が敵か味方かなど、判りきったことであった。
 すでにホーネットが九七艦攻ケイトによる水平爆撃を受けてから三時間あまりが経とうとしている。彼我の距離が一〇〇浬ほどにまで縮まっているこの状況下であれば、ジャップ空母が第十七任務部隊を壊滅に追いやった午前の攻撃隊を収容し、再度、爆弾や魚雷を搭載の上、出撃させていたとしてもおかしくはない。
 実際、エンタープライズもすでに再度の攻撃隊発進を行っている。
 ホーネット、ミネアポリスの沈没によって乗員の収容を行わなければならなかったため、輪形陣の再編には時間がかかっていたものの、それでもホーネットの護衛を行っていた重巡ニューオーリンズ、ペンサコラは再びエンタープライズの護衛に就いていた。ホーネットを護衛していた三隻の駆逐艦に、ホーネット、ミネアポリスの乗員救助は任せている。
 これにより、エンタープライズは戦艦ワシントン、重巡ニューオーリンズ、ノーザンプトン、ペンサコラ、駆逐艦六隻によって守られる態勢が取られていた。
 少なくとも、ジャップ空母が残り一隻であれば、レーダー管制による戦闘機隊の迎撃と輪形陣による濃密な対空砲火で以降の空襲を凌ぎ切ることは可能だと、第十六任務部隊司令部の者たちは見ていたのである。
 しかし、ここで合衆国側にとって不可解なことが起こった。
 戦闘機隊からは、零戦ジークとの空戦に入ったことを報せてきても、九九艦爆ヴァル九七艦攻ケイトを捕捉・撃墜したとの報告が一切、寄せられてこなかったのだ。
 不審に思ったFDOがグレイ大尉率いるF4F隊に対して、九九艦爆や九七艦攻の侵入高度などの確認を取ろうとしたところ、それらの機影は一切見えないと言ってきた。
 そのため、雲の中に隠れて戦闘機隊から視認出来ないだけかもしれないと考え、スプルーアンスは各艦に対して見張りを厳重にするように通達を出す。
 しかし、それでも九九艦爆や九七艦攻の姿を捉えることは出来なかったのだ。
 そして、レーダーにもそれらしき反応はないという。

「これは、どういうことだ?」

 スプルーアンスは思わずブローニング参謀長に問いかけた。

「可能性は、二つです」

 前任務部隊司令官ハルゼーに付き従って緒戦を潜り抜けてきたこの参謀長は、固い声で答える。

「一つは、本命の攻撃隊がレーダーに探知されにくい低空を飛行している可能性。もう一つは、ジャップが戦闘機掃討戦ファイター・スイープを挑んできている可能性、です。」

「戦闘機掃討戦、か……」

 つまりは、戦闘機を繰り出して相手の戦闘機を消耗させる戦術。敵の戦闘機を消耗させることで、以後の航空戦を優位に進めるためにとられるものである。

「未だ見張り員からヴァルやケイトの発見報告がないことを鑑みますと、恐らく後者の可能性が高いかと」

「……」

 スプルーアンスは唇を硬く引き結んだ。ただでさえ、エンタープライズの戦闘機隊は消耗している。その上、戦闘機掃討戦などを挑まれてしまっては、その消耗はさらに激しくなるだけである。
 艦隊上空を守るべき戦闘機の数が、圧倒的に足りなかった。

「ジャップのジーク隊に続いて、本命の攻撃隊が後続している可能性があるな」

「はい」

 スプルーアンスの言葉を、ブローニングは肯定した。
 上空直掩の戦闘機隊は、最早あてには出来ない。艦隊の対空砲火だけでどこまでこのエンタープライズを守り切ることが出来るのか。
 少なくとも、攻撃隊がすでに発進し終えていたことがせめてもの救いか。
 第十六任務部隊司令部の者たちはそう思い、険しい視線を艦橋の外へと向けていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

改造空母機動艦隊

蒼 飛雲
歴史・時代
 兵棋演習の結果、洋上航空戦における空母の大量損耗は避け得ないと悟った帝国海軍は高価な正規空母の新造をあきらめ、旧式戦艦や特務艦を改造することで数を揃える方向に舵を切る。  そして、昭和一六年一二月。  日本の前途に暗雲が立ち込める中、祖国防衛のために改造空母艦隊は出撃する。  「瑞鳳」「祥鳳」「龍鳳」が、さらに「千歳」「千代田」「瑞穂」がその数を頼みに太平洋艦隊を迎え撃つ。

札束艦隊

蒼 飛雲
歴史・時代
 生まれついての勝負師。  あるいは、根っからのギャンブラー。  札田場敏太(さつたば・びんた)はそんな自身の本能に引きずられるようにして魑魅魍魎が跋扈する、世界のマーケットにその身を投じる。  時は流れ、世界はその混沌の度を増していく。  そのような中、敏太は将来の日米関係に危惧を抱くようになる。  亡国を回避すべく、彼は金の力で帝国海軍の強化に乗り出す。  戦艦の高速化、ついでに出来の悪い四姉妹は四一センチ砲搭載戦艦に改装。  マル三計画で「翔鶴」型空母三番艦それに四番艦の追加建造。  マル四計画では戦時急造型空母を三隻新造。  高オクタン価ガソリン製造プラントもまるごと買い取り。  科学技術の低さもそれに工業力の貧弱さも、金さえあればどうにか出来る!

電子の帝国

Flight_kj
歴史・時代
少しだけ電子技術が早く技術が進歩した帝国はどのように戦うか 明治期の工業化が少し早く進展したおかげで、日本の電子技術や精密機械工業は順調に進歩した。世界規模の戦争に巻き込まれた日本は、そんな技術をもとにしてどんな戦いを繰り広げるのか? わずかに早くレーダーやコンピューターなどの電子機器が登場することにより、戦場の様相は大きく変わってゆく。

大東亜架空戦記

ソータ
歴史・時代
太平洋戦争中、日本に妻を残し、愛する人のために戦う1人の日本軍パイロットとその仲間たちの物語 ⚠️あくまで自己満です⚠️

【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記

糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。 それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。 かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。 ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。 ※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。

大日本帝国、アラスカを購入して無双する

雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。 大日本帝国VS全世界、ここに開幕! ※架空の日本史・世界史です。 ※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。 ※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。

土方歳三ら、西南戦争に参戦す

山家
歴史・時代
 榎本艦隊北上せず。  それによって、戊辰戦争の流れが変わり、五稜郭の戦いは起こらず、土方歳三は戊辰戦争の戦野を生き延びることになった。  生き延びた土方歳三は、北の大地に屯田兵として赴き、明治初期を生き抜く。  また、五稜郭の戦い等で散った他の多くの男達も、史実と違えた人生を送ることになった。  そして、台湾出兵に土方歳三は赴いた後、西南戦争が勃発する。  土方歳三は屯田兵として、そして幕府歩兵隊の末裔といえる海兵隊の一員として、西南戦争に赴く。  そして、北の大地で再生された誠の旗を掲げる土方歳三の周囲には、かつての新選組の仲間、永倉新八、斎藤一、島田魁らが集い、共に戦おうとしており、他にも男達が集っていた。 (「小説家になろう」に投稿している「新選組、西南戦争へ」の加筆修正版です) 

織田信長 -尾州払暁-

藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。 守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。 織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。 そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。 毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。 スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。 (2022.04.04) ※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。 ※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。

処理中です...