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62 ビックEの攻防
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実際のところ、戦闘機掃討戦は日本側が半ば意図し、半ば意図しなかったものであった。
江草隊が見た零戦とF4Fとの空戦は、四航戦戦闘機隊とエンタープライズ戦闘機隊とのものであった。
四航戦と飛龍、二つの攻撃隊が時間差でエンタープライズを捕捉したことに関しては、完全なる偶然であった。
この時、飛龍以下一航艦は北上を開始していたため、攻撃隊は東進するような針路を取っていた。一方、ミッドウェー島の南西から米空母部隊を目指して航行していた第二機動部隊の攻撃隊は、北東方向に進むことになった。
このため、針路の異なっていた二つの攻撃隊は途中で出会うことなく、第十六任務部隊の上空で初めて互いを視認することとなったのである。
爆装した九七艦攻に続く四航戦の攻撃隊が零戦のみとなってしまったのには、理由がある。
ミッドウェー空襲から帰還した九七艦攻、九九艦爆は損傷が大きな機体が多く、十分な数の攻撃隊を短時間で編成することが困難だったのである。これは、角田少将が米空母への攻撃を急ぐあまり、隼鷹の九七艦攻だけを先行させてしまったことも影響している。
また、龍驤の九七艦攻は再度のミッドウェー攻撃に備えていたため、やはり搭載出来るのは陸用の八〇〇キロ爆弾でしかなかった。
ここから雷装に装備変換をするにしても、時間がかかりすぎると角田は判断していた。
セイロン沖海戦後、空母飛龍で行われた実験から、爆装から雷装への変換、あるいはその逆にかかる時間は一時間半から二時間半と判明している。しかも、これは通常の航行中に行われたものであり、艦が回避運動などで動揺する戦闘下ではさらに時間がかかるものと予測された。
ミッドウェーからの空襲も警戒しなければならない状況下で、そのような悠長なことをやらせるつもりは、角田にはなかった。下手をすれば、格納庫に爆弾や魚雷が転がっているところに被弾して龍驤や隼鷹が爆沈する危険性すらあった。
そして少数機での水平爆撃、それも移動目標に対する水平爆撃は、効果が薄いと判断せざるを得ない。
隼鷹の九九艦爆だけでも発進させることも考えられたが、この時、健在な零戦の数は龍驤が三機、隼鷹が十二機であった。
まず隼鷹の九九艦爆だけでも発進させ、米空母を損傷させた後に九七艦攻の水平爆撃で叩くという戦法をとるにしても、護衛の数が足りなかった。
それならばいっそ、零戦だけを出撃させて敵空母の上空直掩機を消耗させ、一航艦攻撃隊にとっての障害を少しでも除去しようと、角田は考えたのである。
護衛すべき九九艦爆や九七艦攻がいないのだから、零戦隊は空戦に集中出来る。
角田の元には、飛龍が〇八四〇時に発した「飛龍ハ第一次、第二次攻撃隊収容後、敵空母部隊ニ向カハントス」という通信が届いており、山口が飛龍によるさらなる攻撃を企図していることを察していた。
その一助にでもなればと考えたのである。
こうして、龍驤と隼鷹から計十五機の零戦が飛び立ったのは、一二一〇時(現地時間:一五一〇時)のことであった。敵艦隊との距離も、徐々に詰まっている。恐らく一時間半ほどで辿り着けるはずであった。
これで零戦隊はすべて出払うことになってしまったが、艦隊の防空には帰還した入来院大尉の攻撃隊を護衛した零戦を充てることにして、残存全零戦の発進を角田は決断したのである。
そしてそれから五十分ほど経過して、第二艦隊は再び飛龍の発した「第四次攻撃隊発進、艦爆十二、艦戦十五。一時間後、艦攻(雷装)十、艦戦六ヲ攻撃ニ向ハシム」という電文を受け取った。
飛龍攻撃隊に先んじて米空母の直掩戦闘機隊を掃討するという角田の策は、上手くはまりそうであった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
実際、角田がほとんど思いつきで実行した策は、エンタープライズ側を軽い混乱状態に陥らせた。
グレイ大尉の戦闘機隊は攻撃隊の護衛に失敗し、攻撃隊生還者たちから激しい怒りをぶつけられていた。そのため、何とか汚名を返上しようとジャップ攻撃隊の阻止に躍起になっていた面がある。
結果、九九艦爆や九七艦攻の姿を血眼になって探している内に零戦に上空から襲われ、撃墜される機体すら出していた。
エンタープライズ戦闘機隊が、これが戦闘機掃討戦であると気付くのは、母艦のFDOからその可能性を告げられてからのことであった。零戦との空戦に必死だった彼らに、日本側の意図を冷静に察するだけの余裕はなかったのである。
志賀淑雄大尉に率いられた四航戦零戦隊は、護衛すべき攻撃隊が存在しないため、完全に空戦に集中することが出来た。
こうした日米の戦闘機搭乗員の意識の違いも、空戦の結果に重大な影響を及ぼした。
さらにその空戦の最中、江草隆繁少佐率いる飛龍攻撃隊が出現すると、F4F隊の混乱はさらに拡大した。
江草隊にも零戦の護衛は付けられており、結果、エンタープライズ戦闘機隊が機数において圧倒的に不利な状況下に置かれてしまったのである。
江草隊が上昇を開始したことで、ようやくアメリカ側のレーダーも彼らを捕捉したが、すでに遅きに失していた。エンタープライズのFDOが新たなジャップ攻撃隊の迎撃をグレイ大尉らに指示するも、空戦に巻き込まれていた彼らにその余裕はなかった。
結果として、江草隆繁少佐率いる十二機の九九艦爆は、米直掩機の妨害を一切受けることなくエンタープライズ上空へと侵入することに成功したのである。
江草隊が見た零戦とF4Fとの空戦は、四航戦戦闘機隊とエンタープライズ戦闘機隊とのものであった。
四航戦と飛龍、二つの攻撃隊が時間差でエンタープライズを捕捉したことに関しては、完全なる偶然であった。
この時、飛龍以下一航艦は北上を開始していたため、攻撃隊は東進するような針路を取っていた。一方、ミッドウェー島の南西から米空母部隊を目指して航行していた第二機動部隊の攻撃隊は、北東方向に進むことになった。
このため、針路の異なっていた二つの攻撃隊は途中で出会うことなく、第十六任務部隊の上空で初めて互いを視認することとなったのである。
爆装した九七艦攻に続く四航戦の攻撃隊が零戦のみとなってしまったのには、理由がある。
ミッドウェー空襲から帰還した九七艦攻、九九艦爆は損傷が大きな機体が多く、十分な数の攻撃隊を短時間で編成することが困難だったのである。これは、角田少将が米空母への攻撃を急ぐあまり、隼鷹の九七艦攻だけを先行させてしまったことも影響している。
また、龍驤の九七艦攻は再度のミッドウェー攻撃に備えていたため、やはり搭載出来るのは陸用の八〇〇キロ爆弾でしかなかった。
ここから雷装に装備変換をするにしても、時間がかかりすぎると角田は判断していた。
セイロン沖海戦後、空母飛龍で行われた実験から、爆装から雷装への変換、あるいはその逆にかかる時間は一時間半から二時間半と判明している。しかも、これは通常の航行中に行われたものであり、艦が回避運動などで動揺する戦闘下ではさらに時間がかかるものと予測された。
ミッドウェーからの空襲も警戒しなければならない状況下で、そのような悠長なことをやらせるつもりは、角田にはなかった。下手をすれば、格納庫に爆弾や魚雷が転がっているところに被弾して龍驤や隼鷹が爆沈する危険性すらあった。
そして少数機での水平爆撃、それも移動目標に対する水平爆撃は、効果が薄いと判断せざるを得ない。
隼鷹の九九艦爆だけでも発進させることも考えられたが、この時、健在な零戦の数は龍驤が三機、隼鷹が十二機であった。
まず隼鷹の九九艦爆だけでも発進させ、米空母を損傷させた後に九七艦攻の水平爆撃で叩くという戦法をとるにしても、護衛の数が足りなかった。
それならばいっそ、零戦だけを出撃させて敵空母の上空直掩機を消耗させ、一航艦攻撃隊にとっての障害を少しでも除去しようと、角田は考えたのである。
護衛すべき九九艦爆や九七艦攻がいないのだから、零戦隊は空戦に集中出来る。
角田の元には、飛龍が〇八四〇時に発した「飛龍ハ第一次、第二次攻撃隊収容後、敵空母部隊ニ向カハントス」という通信が届いており、山口が飛龍によるさらなる攻撃を企図していることを察していた。
その一助にでもなればと考えたのである。
こうして、龍驤と隼鷹から計十五機の零戦が飛び立ったのは、一二一〇時(現地時間:一五一〇時)のことであった。敵艦隊との距離も、徐々に詰まっている。恐らく一時間半ほどで辿り着けるはずであった。
これで零戦隊はすべて出払うことになってしまったが、艦隊の防空には帰還した入来院大尉の攻撃隊を護衛した零戦を充てることにして、残存全零戦の発進を角田は決断したのである。
そしてそれから五十分ほど経過して、第二艦隊は再び飛龍の発した「第四次攻撃隊発進、艦爆十二、艦戦十五。一時間後、艦攻(雷装)十、艦戦六ヲ攻撃ニ向ハシム」という電文を受け取った。
飛龍攻撃隊に先んじて米空母の直掩戦闘機隊を掃討するという角田の策は、上手くはまりそうであった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
実際、角田がほとんど思いつきで実行した策は、エンタープライズ側を軽い混乱状態に陥らせた。
グレイ大尉の戦闘機隊は攻撃隊の護衛に失敗し、攻撃隊生還者たちから激しい怒りをぶつけられていた。そのため、何とか汚名を返上しようとジャップ攻撃隊の阻止に躍起になっていた面がある。
結果、九九艦爆や九七艦攻の姿を血眼になって探している内に零戦に上空から襲われ、撃墜される機体すら出していた。
エンタープライズ戦闘機隊が、これが戦闘機掃討戦であると気付くのは、母艦のFDOからその可能性を告げられてからのことであった。零戦との空戦に必死だった彼らに、日本側の意図を冷静に察するだけの余裕はなかったのである。
志賀淑雄大尉に率いられた四航戦零戦隊は、護衛すべき攻撃隊が存在しないため、完全に空戦に集中することが出来た。
こうした日米の戦闘機搭乗員の意識の違いも、空戦の結果に重大な影響を及ぼした。
さらにその空戦の最中、江草隆繁少佐率いる飛龍攻撃隊が出現すると、F4F隊の混乱はさらに拡大した。
江草隊にも零戦の護衛は付けられており、結果、エンタープライズ戦闘機隊が機数において圧倒的に不利な状況下に置かれてしまったのである。
江草隊が上昇を開始したことで、ようやくアメリカ側のレーダーも彼らを捕捉したが、すでに遅きに失していた。エンタープライズのFDOが新たなジャップ攻撃隊の迎撃をグレイ大尉らに指示するも、空戦に巻き込まれていた彼らにその余裕はなかった。
結果として、江草隆繁少佐率いる十二機の九九艦爆は、米直掩機の妨害を一切受けることなくエンタープライズ上空へと侵入することに成功したのである。
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