暁のミッドウェー

三笠 陣

文字の大きさ
上 下
57 / 105

57 飛龍第四次攻撃隊

しおりを挟む
 五航戦を発進した第三次攻撃隊が母艦の上空に帰還したのは、一二三〇時(現地時間:一五三〇時)過ぎのことであった。
 敵の追撃を受け、母艦の位置を察知されるのを防ぐため、迂回して帰還したために帰投時刻が予定よりも遅くなったとのことである。
 迂回しつつも落伍機を出さずに母艦に到達出来たところに、攻撃隊指揮官・嶋崎重和少佐の搭乗員としての優秀さが現れている。
 すでに第三次攻撃隊からは、空母一、重巡一撃沈確実との報告が入っている。さらに四航戦攻撃隊から発せられた電文も、山口少将は受信していた。
 四航戦攻撃隊は炎上する米空母に水平爆撃を敢行し、これに命中三を得たという。さらにその北東側にもう一群の米空母部隊を発見している。
 この時、一航艦は米空母の隻数と艦名を正確に把握することに成功していた。
 第四駆逐隊が不時着水した米空母ヨークタウン搭乗員を捕虜とし、その尋問に成功していたからである。これにより、米艦隊に存在する空母はレキシントン、サラトガ、ヨークタウン、エンタープライズ、ホーネットの五隻であることが判明している。
 第一次、第二次攻撃隊が三隻を撃沈し、五航戦と四航戦がもう一隻を撃沈確実に追い込んだとすれば、残る米空母は一隻だけである。
 これを撃沈出来れば、太平洋上から米空母を一掃出来る。
 山口は第四次攻撃隊の発進に先駆けて、接触を維持するための二式艦偵を発艦させていた。
 そこから一度、山口少将は米空母から距離を取るために針路を変更していた。一時間ほど前、飛龍が米索敵機の接触を受けていたことが原因であった。
 これにより、第四次攻撃隊発進前に空襲を受けることを警戒して、山口は針路を変えたのである。
 第四次攻撃隊は、飛龍にある零戦九、九九艦爆十二で行う予定であったが、五航戦よりさらに零戦六機が参加可能との報告が寄せられていた。
 これを受けて山口は、零戦十五、九九艦爆十二で第四次攻撃隊を編成することとした。攻撃隊指揮官は、蒼龍飛行隊長であった江草隆繁少佐である。
 発進予定時刻は当初の予定通り、一二四五時とした。このため、母艦上空に帰投していた第三次攻撃隊は上空待機を強いられることになった。
 山口は、第四次攻撃隊の発進を遅らせるつもりはなかった。一刻でも早く、とにかく米空母の飛行甲板を破壊して、まずはその戦闘能力を奪わなくてはならない。
 第三次攻撃隊は迂回して帰還したとはいえ、米空母との距離が一〇〇浬近くにまで縮まっていたため、燃料にはまだ多少の余裕があるはずであった。
 それでも損傷などの理由で上空待機が難しい機体については、加賀に収容させることにした。
 一方、飛龍では第四次攻撃隊の発進準備とほとんど平行して、第五次攻撃隊の発進準備が格納庫内で進められていた。
 こちらは零戦六機、九七艦攻十機となる予定であった。恐らく、日没の時刻から逆算すればこの第五次攻撃隊が最後の攻撃隊となるだろう。
 五航戦は第三次攻撃隊の収容を控えていたために第四次攻撃隊の発進準備が行えず、第三次攻撃隊収容後に第六次攻撃隊の発進準備を進めたとしても、出撃が日没後になってしまう可能性があった。薄暮攻撃とするには、いささか遅い時刻である。
 そのため山口は、五航戦には上空直掩用の零戦の整備を優先するように命じている。また、被弾した際の被害を局限するため、帰還した航空機からは燃料をすべて抜き取っておくようにも指示した。
 ここから先は、飛龍一艦の戦いとなる。
 山口はその思いと共に、江草少佐率いる二十七機の攻撃隊を見送った。

「第四次攻撃隊発進、艦爆十二、艦戦十五。一時間後、艦攻(雷装)十、艦戦六ヲ攻撃ニ向ハシム」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

蒼海の碧血録

三笠 陣
歴史・時代
 一九四二年六月、ミッドウェー海戦において日本海軍は赤城、加賀、蒼龍を失うという大敗を喫した。  そして、その二ヶ月後の八月、アメリカ軍海兵隊が南太平洋ガダルカナル島へと上陸し、日米の新たな死闘の幕が切って落とされた。  熾烈なるガダルカナル攻防戦に、ついに日本海軍はある決断を下す。  戦艦大和。  日本海軍最強の戦艦が今、ガダルカナルへと向けて出撃する。  だが、対するアメリカ海軍もまたガダルカナルの日本軍飛行場を破壊すべく、最新鋭戦艦を出撃させていた。  ここに、ついに日米最強戦艦同士による砲撃戦の火蓋が切られることとなる。 (本作は「小説家になろう」様にて連載中の「蒼海決戦」シリーズを加筆修正したものです。予め、ご承知おき下さい。) ※表紙画像は、筆者が呉市海事歴史科学館(大和ミュージアム)にて撮影したものです。

大日本帝国、アラスカを購入して無双する

雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。 大日本帝国VS全世界、ここに開幕! ※架空の日本史・世界史です。 ※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。 ※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。

連合航空艦隊

ypaaaaaaa
歴史・時代
1929年のロンドン海軍軍縮条約を機に海軍内では新時代の軍備についての議論が活発に行われるようになった。その中で生れたのが”航空艦隊主義”だった。この考えは当初、一部の中堅将校や青年将校が唱えていたものだが途中からいわゆる海軍左派である山本五十六や米内光政がこの考えを支持し始めて実現のためにの政治力を駆使し始めた。この航空艦隊主義と言うものは”重巡以上の大型艦を全て空母に改装する”というかなり極端なものだった。それでも1936年の条約失効を持って日本海軍は航空艦隊主義に傾注していくことになる。 デモ版と言っては何ですが、こんなものも書く予定があるんだなぁ程度に思ってい頂けると幸いです。

日本が危機に?第二次日露戦争

歴史・時代
2023年2月24日ロシアのウクライナ侵攻の開始から一年たった。その日ロシアの極東地域で大きな動きがあった。それはロシア海軍太平洋艦隊が黒海艦隊の援助のために主力を引き連れてウラジオストクを離れた。それと同時に日本とアメリカを牽制する為にロシアは3つの種類の新しい極超音速ミサイルの発射実験を行った。そこで事故が起きた。それはこの事故によって発生した戦争の物語である。ただし3発も間違えた方向に飛ぶのは故意だと思われた。実際には事故だったがそもそも飛ばす場所をセッティングした将校は日本に向けて飛ばすようにセッティングをわざとしていた。これは太平洋艦隊の司令官の命令だ。司令官は黒海艦隊を支援するのが不服でこれを企んだのだ。ただ実際に戦争をするとは考えていなかったし過激な思想を持っていた為普通に海の上を進んでいた。 なろう、カクヨムでも連載しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

枢軸国

よもぎもちぱん
歴史・時代
時は1919年 第一次世界大戦の敗戦によりドイツ帝国は滅亡した。皇帝陛下 ヴィルヘルム二世の退位により、ドイツは共和制へと移行する。ヴェルサイユ条約により1320億金マルク 日本円で200兆円もの賠償金を課される。これに激怒したのは偉大なる我らが総統閣下"アドルフ ヒトラー"である。結果的に敗戦こそしたものの彼の及ぼした影響は非常に大きかった。 主人公はソフィア シュナイダー 彼女もまた、ドイツに転生してきた人物である。前世である2010年頃の記憶を全て保持しており、映像を写真として記憶することが出来る。 生き残る為に、彼女は持てる知識を総動員して戦う 偉大なる第三帝国に栄光あれ! Sieg Heil(勝利万歳!)

蒼雷の艦隊

和蘭芹わこ
歴史・時代
第五回歴史時代小説大賞に応募しています。 よろしければ、お気に入り登録と投票是非宜しくお願いします。 一九四二年、三月二日。 スラバヤ沖海戦中に、英国の軍兵四二二人が、駆逐艦『雷』によって救助され、その命を助けられた。 雷艦長、その名は「工藤俊作」。 身長一八八センチの大柄な身体……ではなく、その姿は一三○センチにも満たない身体であった。 これ程までに小さな身体で、一体どういう風に指示を送ったのか。 これは、史実とは少し違う、そんな小さな艦長の物語。

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

処理中です...