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49 スプルーアンスの判断
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一方、マクラスキーの去った艦橋では、スプルーアンスとブローニングが険しい顔を突き合せてた。
「我々は三隻のジャップ空母を撃破した。では、残りの三空母はどこにいる?」
「ジャップのNo.4は、マクラスキーらの攻撃した空母群にいるとみて間違いないでしょう」
「では、No.5とNo.6の居場所について、君の意見は?」
海戦前の対敵情報ではジャップ空母は六隻となっていたから、ジャップが空母を分散配置していたとすれば、あと二隻の空母がどこかに潜んでいる可能性があった。
「ミッドウェーの飛行艇が、南西にもう一群のジャップ艦隊を発見しております。恐らくは上陸部隊を乗せた船団だと思われますが、これを護衛しているものかと」
「ミッドウェーの基地航空隊からの報告では、空母三隻あまりを撃破したと言っていたな。てっきり、輸送船か何かを空母と誤認しているものと思っていたが、案外、真実であったのかもしれんな」
「ハワイも南西のジャップ艦隊はナグモのタスクフォースではないと判断していましたし、今もその判断は正しいと思いますが、空母の配置という点では司令官のおっしゃる通りかと」
スプルーアンスは、しばし思案に暮れた。
自らの座乗するエンタープライズの航空戦力は激減してしまった。ホーネットの航空戦力も、わずかな雷撃隊が帰投しただけで、攻撃に出した戦闘機隊と艦爆隊は行方不明である(実際にはミッドウェー島に不時着していた)。
事実上、合衆国海軍に残された航空戦力はエンタープライズ所属のグレイ大尉らのF4F隊、ベスト大尉とガラハー大尉のSBD隊、それとエンタープライズに収容されたヨークタウン所属のフェントン少佐のF4F隊、ショート大尉とバーチ少佐のSBD隊のみであった。
機数で言えば、三十一機のF4Fに二十六機のSBDである。TBFもないこともなかったが、被弾して損傷した機体しか存在せず、この海戦の間に修理を完了することは無理そうであった。
ホーネットに残されているのも、上空直掩用のF4Fと対潜警戒用のSBDのみであろう。
フレッチャー少将の第十七任務部隊が壊滅した今、この海戦の勝敗はスプルーアンスの決断一つにかかっていると言ってもいい。
マクラスキー隊が帰還する少し前、エンタープライズのレーダーが一機の敵味方不明機を捕捉していた。最初は帰還した攻撃隊かと思っていたが、エンタープライズに着艦してこようとする様子もなく、その内にレーダーからも消えた。母艦を間違えたのかと思っていると、今度はホーネットからも敵味方不明機に関する情報が寄せられていた。
この時点でスプルーアンスは、この不明機がジャップの索敵機である可能性に思い至っていた。
つまり、第十七任務部隊だけでなく、この第十六任務部隊もジャップに捕捉されたと見て間違いないだろう。
スプルーアンスは司令官席に腰掛けながら、組んだ手に額を押し付けながら瞑目した。
ジャップ攻撃隊は、第十七任務部隊攻撃のために出払っているはずである。いま少し、時間的な余裕はあるだろう。
撤退を決断するか、それとも航空機尽きるまで戦うか。
あるいは……。あるいは、インド洋でのナグモ・タスクフォースのように、水上艦隊を率いてジャップ艦隊を攻撃するか。
もともと、第十六、第十七任務部隊に最新鋭戦艦であるノースカロライナ、ワシントンの二隻が配備された背景には、その強力な対空火器の他に、ジャップ水上艦隊の攻撃を受けた際、これを撃退するという意図があった。
そうしたこともあり、戦艦ワシントンには合衆国海軍きっての砲術の権威であるウィリス・A・リー少将が戦艦戦隊の司令官として座乗している。
自分もまた、巡洋艦戦隊を率いてきた身である。
こちらも大きく傷付いたが、ジャップ空母部隊もまた傷付いている。彼らは恐るべき敵であるが、決して神の如き存在ではない。
ナグモのタスクフォースに残された空母は、恐らく一隻。このラスト・ワンを仕留めることが出来れば、残されたジャップ空母は上陸船団を護衛しているであろう二空母のみとなる。
もし自分たちが水上砲戦によって最後の決着をつけようとすれば、この二空母は上陸作戦の援護を行いつつ、エンタープライズとホーネットの存在を警戒し、さらにこちらの水上艦隊にも警戒を払わなければならない。
護衛のジャップ戦艦は、巡洋戦艦改装のコンゴウ・クラス。
手元にある戦力を総合的に換算すれば、まだ諦めるには早いように思えた。
だとすれば、一度、フレッチャー少将の第十七任務部隊と合流し、水上艦戦力の集中を図るべきであろう。
スプルーアンスは、そう決断した。そして、その決意をブローニング大佐を始めとした参謀たちに伝えようとした刹那、艦橋に伝令が飛び込んできた。
「ホーネットのミッチャー艦長より入電! レーダーが南西六十八浬の地点に不明機多数を確認した模様!」
それは、第五航空戦隊の放った第三次攻撃隊がホーネットへと迫りつつあることを告げる第一報であった。
「我々は三隻のジャップ空母を撃破した。では、残りの三空母はどこにいる?」
「ジャップのNo.4は、マクラスキーらの攻撃した空母群にいるとみて間違いないでしょう」
「では、No.5とNo.6の居場所について、君の意見は?」
海戦前の対敵情報ではジャップ空母は六隻となっていたから、ジャップが空母を分散配置していたとすれば、あと二隻の空母がどこかに潜んでいる可能性があった。
「ミッドウェーの飛行艇が、南西にもう一群のジャップ艦隊を発見しております。恐らくは上陸部隊を乗せた船団だと思われますが、これを護衛しているものかと」
「ミッドウェーの基地航空隊からの報告では、空母三隻あまりを撃破したと言っていたな。てっきり、輸送船か何かを空母と誤認しているものと思っていたが、案外、真実であったのかもしれんな」
「ハワイも南西のジャップ艦隊はナグモのタスクフォースではないと判断していましたし、今もその判断は正しいと思いますが、空母の配置という点では司令官のおっしゃる通りかと」
スプルーアンスは、しばし思案に暮れた。
自らの座乗するエンタープライズの航空戦力は激減してしまった。ホーネットの航空戦力も、わずかな雷撃隊が帰投しただけで、攻撃に出した戦闘機隊と艦爆隊は行方不明である(実際にはミッドウェー島に不時着していた)。
事実上、合衆国海軍に残された航空戦力はエンタープライズ所属のグレイ大尉らのF4F隊、ベスト大尉とガラハー大尉のSBD隊、それとエンタープライズに収容されたヨークタウン所属のフェントン少佐のF4F隊、ショート大尉とバーチ少佐のSBD隊のみであった。
機数で言えば、三十一機のF4Fに二十六機のSBDである。TBFもないこともなかったが、被弾して損傷した機体しか存在せず、この海戦の間に修理を完了することは無理そうであった。
ホーネットに残されているのも、上空直掩用のF4Fと対潜警戒用のSBDのみであろう。
フレッチャー少将の第十七任務部隊が壊滅した今、この海戦の勝敗はスプルーアンスの決断一つにかかっていると言ってもいい。
マクラスキー隊が帰還する少し前、エンタープライズのレーダーが一機の敵味方不明機を捕捉していた。最初は帰還した攻撃隊かと思っていたが、エンタープライズに着艦してこようとする様子もなく、その内にレーダーからも消えた。母艦を間違えたのかと思っていると、今度はホーネットからも敵味方不明機に関する情報が寄せられていた。
この時点でスプルーアンスは、この不明機がジャップの索敵機である可能性に思い至っていた。
つまり、第十七任務部隊だけでなく、この第十六任務部隊もジャップに捕捉されたと見て間違いないだろう。
スプルーアンスは司令官席に腰掛けながら、組んだ手に額を押し付けながら瞑目した。
ジャップ攻撃隊は、第十七任務部隊攻撃のために出払っているはずである。いま少し、時間的な余裕はあるだろう。
撤退を決断するか、それとも航空機尽きるまで戦うか。
あるいは……。あるいは、インド洋でのナグモ・タスクフォースのように、水上艦隊を率いてジャップ艦隊を攻撃するか。
もともと、第十六、第十七任務部隊に最新鋭戦艦であるノースカロライナ、ワシントンの二隻が配備された背景には、その強力な対空火器の他に、ジャップ水上艦隊の攻撃を受けた際、これを撃退するという意図があった。
そうしたこともあり、戦艦ワシントンには合衆国海軍きっての砲術の権威であるウィリス・A・リー少将が戦艦戦隊の司令官として座乗している。
自分もまた、巡洋艦戦隊を率いてきた身である。
こちらも大きく傷付いたが、ジャップ空母部隊もまた傷付いている。彼らは恐るべき敵であるが、決して神の如き存在ではない。
ナグモのタスクフォースに残された空母は、恐らく一隻。このラスト・ワンを仕留めることが出来れば、残されたジャップ空母は上陸船団を護衛しているであろう二空母のみとなる。
もし自分たちが水上砲戦によって最後の決着をつけようとすれば、この二空母は上陸作戦の援護を行いつつ、エンタープライズとホーネットの存在を警戒し、さらにこちらの水上艦隊にも警戒を払わなければならない。
護衛のジャップ戦艦は、巡洋戦艦改装のコンゴウ・クラス。
手元にある戦力を総合的に換算すれば、まだ諦めるには早いように思えた。
だとすれば、一度、フレッチャー少将の第十七任務部隊と合流し、水上艦戦力の集中を図るべきであろう。
スプルーアンスは、そう決断した。そして、その決意をブローニング大佐を始めとした参謀たちに伝えようとした刹那、艦橋に伝令が飛び込んできた。
「ホーネットのミッチャー艦長より入電! レーダーが南西六十八浬の地点に不明機多数を確認した模様!」
それは、第五航空戦隊の放った第三次攻撃隊がホーネットへと迫りつつあることを告げる第一報であった。
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