暁のミッドウェー

三笠 陣

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48 マクラスキー隊帰還

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 ジャップ空母部隊への攻撃から約一時間後、マクラスキーらのSBD隊はようやく母艦であるエンタープライズへと辿り着いた。
 その後方には、母艦を失ったことを知らされたヨークタウン攻撃隊の生き残りが続いている。彼らは第十七任務部隊より、第十六任務部隊のエンタープライズかホーネットを目指すよう命じられていたのである。
 凱歌を上げるべき彼らの編隊は、実に寂しいものであった。
 三十一機いたマクラスキー隊は、爆撃後に零戦隊の追撃を受けてその数を十五機にまで減らしていた。ショート大尉らヨークタウン攻撃隊もまた、出撃時の半数程度にまで機数を減らしている。
 被弾した機体も多く、編隊は乱れに乱れていた。
 マクラスキー自身も、左腕を負傷していた。
 ようやくエンタープライズら第十六任務部隊の航跡を発見した時、すでに何機かの機体は燃料が尽きかけていた。
 艦隊の十浬ほど手前で、まず一機のSBDが不時着水を余儀なくされる。二人の搭乗員が脱出して海に飛び込んだ直後、機体は機首を前にして海中へと消えていった。その様子を見ていた輪形陣外縁を守る駆逐艦の一隻が、ただちに救援へと向かう。
 一方、エンタープライズ艦上ではマクラスキー隊よりも一足先に帰還していた第六雷撃隊の生還者と、攻撃に一切寄与することなく帰還していた第六戦闘機隊の者たちの諍いが起こっていた。戦闘機隊長ジム・グレイ大尉を撃ち殺してやると拳銃を持って激昂するTBF隊の生存者を、周囲の者たちが必死に取り押さえていた。
 そうした中で、マクラスキー隊は母艦への帰投を果たしたわけである。
 だが、生き残った十五機のSBDも着艦の順番を待ちきれずに巡洋艦の周囲に着水する機体が続出する。結果として、無事にエンタープライズに着艦出来たのは九機のみであった。
 ヨークタウン隊もまた、着艦の順番を待っている最中に燃料切れを起こし、巡洋艦や駆逐艦の周囲へと次々と着水していく。
 それは、彼ら合衆国母艦航空隊の苦闘を物語る光景であった。





 マクラスキーは機体を降りると、直ちに報告のためにエンタープライズ艦橋に登った。

「ジャップ空母は三隻いました。我が隊はその内の大型空母二隻を松明トーチのように炎上させました。他の母艦のSBD隊が、残り一隻の空母を攻撃しているのが見えました」

 その報告に、スプルーアンスは頷きつつ尋ねた。

「第四の空母は見えなかったかね?」

 最初の索敵機の報告では、ナグモ・タスクフォースの空母は四隻。

「いえ、北方にそれらしい艦影を見た気がいたしますが……」

 そこまで言いかけて、マクラスキーの体が傾いだ。咄嗟に彼は、羅針盤にもたれ掛かった。その体を、エンタープライズ副長のブーン中佐が支える。

「無理をするんじゃない、マック! 君は負傷しているじゃないか!?」

「衛生兵を呼べ」スプルーアンスもまた艦爆隊長を慮って伝令を走らせる。「君、早く止血しないと死んでしまうぞ」

 この男は責任感が強いのだろうが、それでも無理をし過ぎだとスプルーアンスは思う。今の合衆国海軍の置かれた状況で、一人の搭乗員といえど無為に失うことは出来ない。
 駆け付けた衛生兵に付き添われながら、マクラスキーはふらつく足でラッタルを降りていった。
 艦橋の下では、彼の部下たちが気遣わしげな視線をこの隊長に向けていた。その中に、ベスト大尉の姿もあった。

「君の隊も、ジャップ空母をやったな」

 すれ違いざまに、マクラスキーはそう言ってベストを労った。

「ええ、別の母艦の奴らの分も合せれば、三隻はぶちのめしました」

「すまんが、あとのことは頼んだ……」

 そう言って医務室に辿り着く直前、マクラスキーは失血によって失神した。
 残されたのは、ガラハー大尉とベスト大尉の率いるわずかなドーントレスだけであった。
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