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~決戦前夜編 第10章~

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[門]

 「おいおいおい!今度は何だってんだよぉッ!」

 クローサーが目を瞑り、手で目を覆い隠しながら叫ぶ。皆フォルトから発せられる眩い光に目が眩む。

 「はあああああああああああッ!」

 フォルトは掲げた時計を地面に押し付ける。直後、展開された結界内の時が一瞬だけ止まり、世界が白と黒の2色のみとなった。ロメリア達の動きや発動しかけていた魔術紋章が止まる。

 そして次の瞬間、船底に描かれていた紋章が粉々に砕けた。まるで硝子を砕いたかのように。砕けた紋章は宙に散らばり、何時の間にか消失した。ロメリア達はその場で固まったままだ。

 時計の光が弱まり、結界が時計の中へと納まっていく。そして完全に収まると、世界に色が戻り、再び時が動き出した。

 「えっ・・・あ、あれ?」

 シャーロットは手が船底から離れたことに驚いた。勿論、目の前で輝いていた紋章が消えていたことにも。

 周囲の人々がざわつく中、ケストレルとガーヴェラがフォルトの下へ駆け寄る。

 「おい、フォルト!お前・・・何をした?」

 フォルトは地面に四つん這いになり、ぜえぜえと息を切らして額から汗を流しながら返事をする。

 「・・・破壊したんだよ。確証は無かったけど・・・もしかしたらって思って・・・」

 フォルトは右手に握っていた時計を見る。

 「少し前に八重紅狼の男の子と戦った時にこの時計は僕の体を蝕んでいた状態異常能力を打ち消してくれた・・・その時のことを思い出して・・・もしかしたら使えるんじゃないかなって思ったんだ。」

 「・・・そう、か。」

 「しかし良く使えたな。それにリミテッドバーストの名前・・・《廻郭絶界》だったか?」

 「・・・僕も良く分かんないんだ。体が勝手に動いていたし・・・名前もふと浮かんでそれを叫んだだけだから・・・」

 フォルトはゆっくりと立ち上がる。

 「でもこれでこの時計の本当の力は分かったよ。本当の力は・・・『この時計の結界範囲内の魔術の強制解除』だと思う。正確には魔術とそれに似たものもだね。」

 「状態異常能力もか。」

 「うん。前は使いこなせなかったから僕にかかった能力しか解除できなかったけど、今なら範囲内にいればその人達の分は解除できると思う。」

 フォルトは時計を服の中に仕舞う。ガーヴェラは笑みを浮かべる。

 「はは・・・凄いぞ、フォルト!お前がそれを使いこなせば、状態異常能力を恐れる必要もない!」

 「・・・俺はそう思わねぇな。」

 「何?」

 ケストレルの言葉にガーヴェラが首を傾げる。ケストレルは額から汗を滝のように流しているフォルトを見ながら話す。

 「こいつを見て見ろ。たった一度使っただけでこの様だ。今回はまだ必要以上の魔力を消費したのかもしれないからこんなに疲労しているんだろうが、発動直前に発したあの膨大な魔力・・・連発は出来ねぇだろうな。出来てもせいぜい3回・・・動きに問題ない程度だと2回が限界か?」

 「多分・・・ごめんね、連発出来なくて・・・」

 「気にすんな。お前が奴らの能力を無効化できる術を持ってるってだけでもこっちが優位になる。後は俺らが何とかすりゃあ良いだけなんだからよ。」

 ケストレルはそう言ってフォルトの肩を叩く。そんなフォルト達の元にシャーロットとキャレットがやって来た。

 「助かったわ、フォルト。・・・何度もあんたに命を救われるわね。」

 「ありがとうございます、フォルト・・・」

 「2人が無事でよかったよ。」

 フォルトは安堵の表情を浮かべる。フォルト達の元にロメリア達も加わる。ヴァスティーソが口を開く。

 「いやぁ~少年のおかげで助かったよ~!」

 「本当だよ!やったね、フォルト!」
 
 「しかし、もう時間が無い。さっきのトラブルに僅かだが時間を奪われてしまった。」
 
 「おい、夜明けまで後何時間だ?」

 「およそ10時間程・・・」

 「なら問題無い。この船であればここから帝都までは最速で5時間程度で到着できる。」

 「そんなに早く行けるの⁉」

 ワーロックの言葉にロメリアが驚愕する。ワーロックは自慢げに語る。

 「空路で最短距離を移動できる上に、この航空船の最高速度はワイバーンの最高速度の2倍だ。余裕だよ。」

 「でもそんなに速いと吹き飛んじゃうんじゃ・・・」

 「その心配は不要だ。この船は飛行中風を防ぐ仕様になっている。地上で歩いているのと変わらないよう設計されてあるよ。」

 「へぇ~、すっごい~。」

 ロメリアが口を大きく開けて、少し間の抜けた声を上げる。
 
 その時、ルーストが周囲の兵士達に号令をかける。

 「聞け!皆の者!我々は間もなく、《コーラス・ブリッツ》討伐に向け、帝都へ出撃する!30分以内に装備を整え、配置に着け!時間の余裕はない!今すぐにかかれ!」

 ルーストの号令で、皆大きな返事をすると慌ただしく準備に取り掛かる。ルーストは続いてガーヴェラ達に声をかける。

 「ガーヴェラ大隊長、兵士達に指示を出してやってくれ。」

 「分かりましたが・・・全員は連れて行けませんよ?乗船できる人数は限られております。」

 「・・・ワーロック副局長。」

 ルーストがワーロックに声をかけると、ワーロックは分かっているとばかりに返事をする。

 「分かっております、陛下。乗船させるのは一部の兵士だけにし、残りは転送術で帝都前に展開させます。」

 「・・・アスタルドと同じことをやろうって訳?」

 「そうだ。術式は奴が持っていた本に記されていた。理論はもとより、本質の理解には時間がかかるだろうが、見様見真似であれば数時間で準備できる。」

 「数時間・・・正確にはどれぐらいだ?」

 「3時間か、4時間か。そのぐらいだ。・・・航空船が帝都へ到達するよりも前には準備できる。」

 「ねぇ・・・それが出来るんならさ・・・わざわざ飛行船に乗らなくても良いんじゃない?」

 ロメリアがワーロックに質問する。

 「奴が用いていた転送術は2点間を結ぶ《門》が必要となる。現在地と目的地にな。《門》と言っても、発動に必要な紋章のことだが・・・古都前の平原に出現できたのも、謁見の間に出現したのも事前に準備していたんだろう。」

 「謁見の間に《門》を?じゃあ奴は最低でも一度は城の中へ侵入したということですの?」

 ナターシャの発言に、ヴァスティーソが速攻で反応する。

 「違うね。別に《門》は発動者が作る必要は無い。《門》の作り方を知っている者であればだれでも構わない・・・そうだよね?」

 「そうだ。奴が侵入しなくても内通者さえいれば容易に作れる。」

 「内通者・・・」

 その言葉を聞いた瞬間、ナターシャの顔が青ざめていく。ヴァスティーソは小さく溜息をつき、話を続ける。

 「イルストの奴だろうね。あいつは敵さんと繋がってたし、今日の為に準備してたんだろう。」

 「・・・確かに奴ならできるな。」

 「ちっ、死んでも面倒な奴だな。」

 クローサーが吐き捨てるように言う。ルーストが暗い表情をするナターシャをそっと抱き寄せる。

 「・・・とにかく、船で運ばずとも兵の展開は出来るんだな?」

 「えぇ、勿論。その為に先遣隊としてこの船が向かいますが・・・誰が行きますか?」

 ワーロックがそう言うと、ヴァスティーソが名乗り出た。

 「俺が行くよ。親衛部隊の連中以外にも魔術部隊の奴らも連れて行く。向こうにも術式を書かなきゃ門を作れないだろ?」

 ヴァスティーソがそう言うと、フォルト達が名乗りを上げる。

 「・・・僕も行きます。行かせてください。」

 「少年。」

 「私も行くよっ!」

 「俺もだ。ここにいても役に立てそうに無いしな。」

 「わ、私も行きます!《門》を作るのは任せて下さい!」

 フォルトに続いてロメリア、ケストレル、シャーロットが名乗りを上げる。

 「じゃあ私も行くわ。少ないけど、ヴァンパイアの皆も連れて行く。」

 キャレットも名乗りを上げた。ヴァスティーソは嬉しそうに頬を上げる。ルーストはフォルト達含め、全体に指示を出そうとした。

 その時だった___

 「___我々もその船に乗せてもらえないか?」

 低い声の男の声が突然聞こえてきて、皆が一斉に振り返った。その声のした方には、帝都から撤退してきた帝都軍の姿があった。
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