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~避難民防衛編 第10章~

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[襲来]

 「よ・・・よし・・・何とか逃げれたな・・・へへっ、ざまぁ無いぜあのお姫様・・・俺達に対して偉そうに指示しやがって・・・」

 貴族船に乗った貴族達がワイバーンの集団に襲われている船団を見て邪悪な笑みを浮かべた。彼らを乗せた貴族船2隻は混乱を極める中、コーラス・ブリッツの魔の手から逃れて古都へと向かっていた。

 「随分と燃えてやがる・・・ま、どうでもいいがな。増援が来たようだがもう奴らは助からないだろう・・・汚らわしい奴らは海の藻屑と化しちまえば良いんだ。」

 「でももう少し粘って欲しいですわ。余り早く沈みすぎると私達の方に来てしまいますから。」

 「だな。俺達も急いでこの海域から離れないと・・・船長!全速力でこの海域から離脱しろ!」

 貴族船が勢いを増して船団から孤立するように離れて行く。彼らの真上には青々とした空だけが広がっており、庶民達やロメリア達を乗せた船団の上空のようにコーラス・ブリッツと連合航空部隊の激しいドッグファイトは繰り広げられていなかった。

 だがその静かな蒼天を斬り裂く様に突如、天から蒼い稲妻が先頭にいた1隻の貴族船に命中し、大破炎上した。他の貴族船に乗っていた貴族達が思わず、船から身を乗り出すように燃え盛る船を見つめる。

 「な・・・何だ突然⁉何処からの攻撃だ⁉」

 彼らが燃え盛る船を見つめていたその時だった。突然、炎が凍って、巨大な『氷山』が出現した。そして同時に海面が一気に凍り始め、残った1隻は氷に囲まれて航行不能に陥った。

 「な・・・何だあの氷は⁉炎が・・・凍っているだと⁉」

 貴族達が困惑していると、その『氷山』から小さな黒い影が飛び上がり、近くの貴族船の甲板に着地した。貴族達が後ろを振り返って確認すると、そこにはやや長髪の緑色の髪をした男が立っていた。体はすらっとしており、ぱっと見てそこまで強そうには見えないが彼の眼光に睨まれた貴族達は身動きが出来なくなっていた。一見優男に見えるのに、その眼光はまるで獣のように鋭かった。

 「何処に行くつもりだぁ、お前ら・・・他の連中は戦っているというのにお前達だけはのうのうと逃げようとしやがって・・・良いご身分だなぁ、貴族さんよぉ?」

 「ひィッ⁉」

 「まだ古都軍の船にへばりついてる奴らの方がマシに見えて来るなぁ・・・こんな屑共も守らなくちゃあいけないなんて奴らも苦労するよなぁ?」

 男が奥にいる船団に顔を向ける。

 「・・・ちっ、押されてやがるなぁ。・・・にしても随分と到着が早いじゃねぇか、航空部隊さんよぉ?しかもフォルト・サーフェリートもまだ生きてやがる・・・後ろに乗ってるヴァンパイアの雌ガキもか・・・早く俺が行かねぇと、全滅しちまうなぁ・・・」

 男はそう言うと、鋭いワイバーンの鱗で出来た籠手を嵌めた右手を地面に叩きつける。甲板に大きな穴が開き、機関部が視界に入る。

 男はそのまま振り返って懐から束になった手榴弾を取り出すと、数本のピンを抜いて機関部に放り投げた。

 「じゃあな、貴族さん方。あと数秒の余生を楽しめよぉ?」

 「ま、待ってく・・・」

 貴族達の顔が恐怖に歪む中、男は人間離れした脚力で奥にいる船団に向かってジャンプした。男が船から離れると、貴族船が内側から大爆発し真っ二つに折れた。船が燃え上がり、海面に投げ出された人々は沈む船の巻き添えで共に沈むか、炎に焼かれていた。

 その様子を見ていた古都軍の巡洋艦が上空に上がり、その間目掛けて飛び掛かってくる男の姿を捉える。

 「敵の姿を確認!こちらに飛んできます!」

 「対空砲構えッ!あの男を叩き落とすんだ!」

 巡洋艦の対空砲が一気に男の方へと向けられ、火を噴いた。男は不敵に笑みを浮かべて体の前で腕を十字に組むと『生身』で弾幕の嵐を潜り抜けた。

 「甘い甘いィッ!こんな弾幕、子供騙しだぜェ⁉」

 男は弾幕を切り抜けて腕の構えを解くと、己の拳を巡洋船の甲板に全力で殴りつけた。すると分厚い鉄を加工して作られた甲板を砕き、船が激しく揺れ始める。たった1人の男によって引き起こされた被害は船員達を震え上がらせた。

 だが彼によって引き起こされた被害はそれでは済まなかった。

 「艦長!船が・・・あの男が開けた穴から謎の凍結が始まっています!」

 「凍結だと⁉どういうことだ⁉」

 「分かりません!只今の気温は12℃・・・凍結現象など起こるはずは無いのに・・・」

 「艦長!扉が開きません!・・・くそッ!部屋の中が凍って来たぞ!他の出口を探せッ!」

 「火だ!誰か火を熾せる者はいないか⁉火の魔術でも構わないッ!氷を早く解かせッ!」

 「ぐあぁぁぁぁぁぁぁッ!目が・・・目が凍ってヒビがぁぁぁぁぁッ!」

 阿鼻叫喚に包まれる船はものの数分で凍結すると、艦内から響いていた叫び声は全く聞こえなくなった。男は凍結した船の甲板に立つと、古都軍の旗艦『ガルーザ』に視線を向ける。

 「さぁて・・・次はあの船だなぁ?とっとと仕事を済ませるか・・・」

 ジャスロードは深く息を吸って足に力を込めると、驚異の脚力で大きく飛び上がり旗艦へと襲い掛かる。

 同時刻、旗艦ガルーザの操舵室から隣にいた巡洋艦が凍結したのを目視で確認したロメリア達が額に冷や汗を流しながら声を上げた。

 「ふ、船が凍ったよ⁉それも凄い勢いでッ!」

 「おっほぉ~こいつはヤバいねぇ~?あの凍結速度から見る限り、あの攻撃を受けたらこの船も直ぐに氷漬けにされちゃうね~。」

 ロメリアがまじまじと、ヴァスティーソが微笑みながらも眼光だけは鋭くその凍り付いた船を見続ける中、ケストレルはただ顔を引きつって見ていた。

 そんなケストレルの顔をふと見たロメリアが話しかける。

 「ケストレル・・・どうしたのそんな顔して・・・」

 「何か知っているのかい、ケストレル?」

 「ああ・・・知っている。こんな一瞬で船を凍らせる奴はたった1人・・・あいつしかいねぇ・・・」

 ケストレルが軽く舌を打ったその瞬間、室内にいる観測員が叫んだ。それもそう・・・ケストレルが話し終えた瞬間、見計らったかのように凍り付いた船から1つの小さな黒い影が空に飛びあがった。

 「北より敵襲、来ます!」

 「対空砲構え!飛んでくる蠅を叩き落とせ!」

 「駄目です!間に合いません!」

 室内が怒号に包まれる中、ヴァスティーソがロンベルに声をかけながらブリッジへと出る。

 「奴の対処は俺に任せろ、ロンベル!お前達は引き続き纏わりついてくるワイバーン共の対応を続けろ!」

 「了解しました、ヴァスティーソ大隊長!」

 「私達も行くよ!ケストレル!」

 「勿論だ。あのオッサン1人に任せる訳にはいかねぇからな。」

 ブリッジに向かったヴァスティーソを追ってロメリアとケストレルもブリッジへと向かった。ヴァスティーソはブリッジに立つと、向かってくる黒い影を見つめて構える。意識を集中させ、精神を研ぎ澄ませる。

 「さて・・・仕事をするとしようか・・・流石に働かないとヤバそうだしね・・・」

 ヴァスティーソは己に言い聞かせるように呟くと、一気に跳躍する。影の目の前にまで接近したヴァスティーソは刀を全力で抜き、斬りかかる。

 襲い掛かって来ていた男はヴァスティーソの刀を右腕に嵌めている籠手で受け切ると、体を回転させてヴァスティーソへ蹴りかかる。ヴァスティーソもすぐさま体を捻り、繰り出してきた蹴りに己の足で蹴り返すと、同じ極の磁石が離れ合うように2人は宙で勢いよく離れると、旗艦『ガルーザ』の甲板に降りた。

 男は地面に着地した瞬間、船前方の甲板にいるヴァスティーソ目掛けて突撃してくる。男がヴァスティーソの目の前に接近したその時、男はふと横を見た。するとケストレルが大剣を構えて接近しており、勢いよく振り下ろしてきていた。

 「ッ!」

 男はケストレルの大剣を回避すると、少しケストレル達から距離を取って体勢を立て直す。ケストレルが大剣を持ち上げて右肩に置くと、2人の近くにロメリアが棍を構えてやって来た。

 「ヴァスティーソ!私も手伝うよッ!」

 「俺も手を貸すぜ、オッサン。・・・フォルト達が戦ってるのに、何もしないのは少し気分が悪いからな。」

 「・・・助かるよ、2人共。」

 ヴァスティーソは小さく微笑むと、刀を構え直す。ロメリアは棍を体の周りで勢いよく回し始めると、男に向かって構えた。

 ロメリア達3人が武器を構えているのを見ていた緑髪で黒を基調とした白の線が入っている服を着た男が、首を左右に1回ずつ捻って首の骨を鳴らすと小さく言葉を発し始めた。

 「・・・久しぶりだなぁ、ケストレル?お前と顔を合わせるのは6年前のあの夜以来だなぁ?」

 「ジャスロード・・・」

 「如何やらウィンデルバーグではアリアの奴を殺したようじゃねぇか?実の妹だってのに容赦ねぇな、お前?」

 ジャスロードはケストレルに対して不敵に笑みを浮かべる。ロメリアが視線だけをケストレルに向けて話しかける。

 「ケストレル・・・あの人もしかして八重紅狼?」

 「そうだ。『ジャスロード・ウガスティール』・・・八重紅狼 第五席の男でワイバーンの鱗を加工して作られた特製の籠手を嵌めて体術1つで戦うスタイルを持つ・・・近接戦では主席に次いで組織ナンバー2って言われていた。」

 「近接特化か・・・シャーロットちゃんかガーヴェラちゃんが欲しいな・・・」

 「それとさらに恐ろしいのはこいつの状態異常能力だ。能力は『凍結』・・・接触した対象を凍らせる能力だ。」

 「じゃああの船を凍らせたのも・・・」

 「この男によって引き起こされたものだ。・・・気を付けろよ、2人共。奴の攻撃を受ければそこから凍っていく・・・武器も同様、接触した場合は解凍しながら戦えよ?特にロメリア、お前の武器は棍だ・・・俺の大剣やオッサンの刀と比較して殺傷能力は低い・・・奴はお前の武器を握って来る筈だ・・・絶対に捕まるなよ?もし凍ってきた場合は、激しく回したりして氷を弾き飛ばせ。」

 「・・・うん、分かったよ!」

 ヴァスティーソが2人の会話に混じって来る。

 「ケストレル、俺とエレメントを組んで奴を倒すぞ。ロメリアちゃんは俺とケストレルのサポートをお願い出来るかな?絶対に前に突出せず奴の動きを見て、隙を見つけたら攻撃をして欲しい。・・・僕達が隙を作るからロメリアちゃんが重い一撃を与える・・・そんな感じかな?」

 「分かったぜ、オッサン。あんたの動きに合わせる。」

 ヴァスティーソがそう告げると、ヴァスティーソがケストレルとロメリアの前に出た。3人が戦闘態勢を整えたのを見ると、ジャスロードが拳を鳴らした。

 「3人か・・・元八重紅狼に親衛部隊大隊長・・・そして王女か・・・楽しめそうだなぁ?久しぶりに感じるぜェ、『喜び』っていう感情をよぉ・・・」

 ジャスロードは拳を構える。ロメリア達は彼から今まで感じたことの無い殺気を感じ取る。

 「さぁ、『覚悟』を構えろよぉ?無様に氷漬けになる『覚悟』をよぉッ!」

 ジャスロードは全身に闘気を漲らせると、ロメリア達に向かって行く。彼が蹴った木の床は大きく割れて、木片が宙に舞う。
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